今週は、「予算」をどうやったら組織で効果的に定着運用できるんだろうかというお話をしてきました。その中心は、「モデル化予算」というものを頑張って運用していきませんか?(弊社がお手伝いしますんで)というのが話の趣旨です。
前回の話はこちら
肝心の「モデル化予算」とは何かについてはきちんと説明してきませんでした。ここでいうモデル化予算とは、KPIを定めて、売上との関係に仮説を立て、そしてそれを検証しながら改善点をひとつづつ改善していく、というやり方をするための予算を指しています。これについては、簡単な解説資料をこちらで無料で公開しています。
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これは中小企業の若手リーダー向けに実施したセミナー資料を一部改変(同社内資料などは削除)したものです。
予算を個人に割り振ると「当月売上、粗利金額のノルマ」だけになってしまうのは、そこにメカニズムに対する共通理解と改善、そしてその先に商品の改善があるということが営業と開発、サポートなどの関連部門間で「一つの仕組み」として存在していないからです。結果として、皆が責任を押し付け合い、当事者ではないという態度を取ります。その悪弊をこのモデル化予算は解消することができます。たしかに、モデル化予算は理解して行動に反映してくれるメンバーは全体の半分というところであり、残りの人には響きません。しかし、それは他の予算方式でも実は同じなのです。それが、モデル化に伴い、個人個人の日次、週次の行動量に関するデータの蓄積、公開ということが行われると明確になるだけです。
モデル化予算運用の壁と突破方法
このモデル化予算、そしてKPI管理による人員の具体的管理ということを押しすすめるにあたって、一番大きな壁になるのは、「データをベースとして営業、企画プロセスの品質を判断する経営管理」という文化にまずは管理者、そのあとにメンバーの過半数を巻き込むことができるか、ということです。
やってみるとわかりますが、データの蓄積・管理はそれなりに手間がかかりますし、必ず提出が大きく遅れる人や、精度がおかしい人が出てきます。それらを制御しながらやっていくのは、今までのやり方からすると、一見売上に直結しない管理業務ばかりが増えている、という文句が現場から出るのです。まず、管理者からこういう意見が出る場合、説明しても納得しないならばその管理者は管理から外すべきです。工場も昔は職人が「勘と経験」で生産していました。しかし、それでは世界のトヨタは産まれませんでした。あなたの会社の営業、企画も「勘と経験」でやってきてそれでうまく行っていないし、ノルマが嫌で社員が辞めることに悩んでいるのではありませんか?その停滞感の理由は、「生産性が低くて給料が上げられないし、疲労感が強い」ことにあります。
個人の力量ではなく、集団の仕組みで品質と生産性を上げ、コストを下げるためには、これは必須のことである、と覚悟を決めるべきです。ちなみにこんな議論をしなければならないのは私の知る限りでは日本だけです。中国でも、アメリカでも巧拙の議論はあっても、ホワイトカラーの業務プロセスの「データ管理」は社会の常識です。このことに日本の生産性の低さの根源的理由があります。こうした業務プロセスのデータ管理とその改善が本来やるべきことで、稟議書類とか、伝達会議とか朝礼とか、そういうものを減らせばよいのです。
また、もう一つよく見かける失敗があります。どんなに改善プロセスを速く回しても一つのチームで新しい業務を投入してそれなりに改善を進めて結果が見えてくるには、このようなデータ管理の仕組みに馴れないうちは3か月、慣れても1か月以上はかかります。その間、たとえ3人でもいいから、そのチームはその業務だけに集中されるべきです。そうしないと改善スピードが落ちますし、データも精度が落ち、結局本当の生産性が一日何件なのかがわからない、ということが発生します。しかし、一部の経営者はこういう我慢ができず、次から次へとそのチームに新しいことをやらそうとします。経営者はそれが仕事の面白さだと思っているのですが、そうしているうちに現場は疲弊し、同時にデータ管理をしなくなります。頭がいい人に限ってこの失敗をしています。そして、そういう組織は忙しい割に成果も上がらず疲労感も強く退社率が高い傾向にあります。
一方で、このようなデータで人間の行動量やコンバージョン確率を計測し、それを元に行動指導することが、働く人の幸福につながるのか?という議論はあります。私もそこには実は懐疑的な部分があります。ただし、この方式の方が、他の方法よりもどのような営業方式(訪販、電話、ネットインサイドセールス、webからの流入)であっても、他の方法よりもはるかに改善速度が速いし、個人の担当部分での能力の成長速度も速いことは間違いありません。それにより、賞与や人事評価での配分を増すということが、この制度をうまく運用し社員を定着させるには必要です。
トヨタ生産方式でも同じような議論があります。毎日同じような作業ばかりやって、時間や確率を計測されて管理されて嫌になるのではないか?というようなことです。たしかに嫌になる人もいるでしょう。しかし、同じ作業をやりそれに集中するからこそ、その速度や確率の改善、あるいはより楽に実施する方法を思いつくし、その場で改変して実行できるのです。多少要領が悪い人も集団の中にはいます。しかし、その人もチームの知見として得られたマニュアルに従って実施することで生産性を上げ、結果として収入を改善することができます。
そして、その改善活動自体は誰に言われるものでもなく、自分たちで経営目標を追いかけるために、「創意工夫」するものです。いわば、「自由な発想と工夫」の範囲をその一時期は小さな範囲に限らせ、しかも何を改善するかのポイントを事前にモデルの変数として明示しておくことによって、決して天才的な人でなくても、作業の中で改善ポイントを自然と考えるようになるのです。もちろん、その生産性だけでなく、改善意見を出し、率先して実施して、そしてマニュアル化したことも評価の対象としていくことにより、こうした批判を解消していくことになります。
つまり、モデル化予算とは何か?というとそれは、「ホワイトカラーの業務プロセスの工業に準じた品質、コスト、効率管理」だと私は考えています。
モデル化予算を定着させるには?
シリーズ最後のトピックスはこの「どうすれば定着できるのか?」という点です。私が勤務していたり、よく知る会社の中で、このモデル化予算を全社(数百チーム)で徹底的にやっている会社がありました。しかし、この会社もなぜ、それが実現できたか、というと「EXCEL名人養成部署」が財務部の中にあり、その人達がかなり集中してトレーニングを受けて各部に派遣されて「数値管理」といいつつ、エクセルの面倒を見させられていた、というのが実情でした。やはり、普通のレベルの管理者に本業の傍らこれを自力で表を改善しながら徹底させるのは難しいのです。そのため、私は1回の記事で、「エクセル名人がチーム内に必要」と述べたのです。
もう一つ、そこそこ妥当そうな「モデル」は誰が作るのか?作れるのか?ということには相当数のパターンを見知って変数になるものやその観測方法をある程度知っていた方が有利です。慣れてしまい社内に知識が定着すると、当たり前のことになるのですが、それが最初は知らないことばかりだと驚かれたりします。そして、それらの変数を要領よく観測し集計することもコツがいります。実はこうした「モデル化された営業管理、プロセス管理」ということをきちんとやっている会社は本シリーズで名前を出したキーエンス、リクルートが代表的ですが、世の中にそこそこあります。もちろん、ご依頼いただければ、弊社は数か月かけて現場に貼りついてモデルの構築から運用まで伴走するのですが、人員を現場で募集する際に、こうしたことの経験者を採用するようにすれば、それだけでもかなり実現に近づけるはずです。
本解説では、どのような導入プロセスを具体的に行うかなどの解説は省略します。それは経営者にとってはあまりに各論過ぎるからです。
その一方で、経営者の方にお願いとしては、そうして見つけた、育てたリーダーを中心にデータ管理によるプロセス改善・予算管理ということを始めたら、古株からどんなに苦情が出ても、リーダーを信じ、全員に「リーダーに従え」と指示を出し続けてください。そして、移行は各部署ごとに単年度で集中して移行してください。企業文化・事業部文化は徐々には変わりません。ある一つの文化を見てみると変わり始めるには時間がかかりますが、変わるときには比較的短時間で変化が起きます。通常は、3か月程度で文化、というか空気が変わります。外から見たときにゆっくりに見えるのは、それが部署や課題をまたいで連続的に起きるので全部が終わるには時間がかかっているというだけです。その「部分ごとに短時間で変化させる」ことをやりきることが会社を変えるためには必要なことであり、経営者の役割です。