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トラクターのラジコンの思い出

たわいもない思い出のプチヒット商品の話です。

企業の販促オマケ品やプレミアムグッズの企画と製造を行う会社の管理系役員をしていたことがあるのですが、この会社、構造的に利益を上げる、という点では非常に問題がある会社でしたが、社員の皆さんは「楽しいものを企画し実現する」ことにとても充実しているようでした。それを変えようにも変えきれず、その会社は潰してしまったという私の黒歴史でもあるのですが…

その中で継続的に問い合わせの電話が入る一つの人気商品がありました。それは、農機具メーカーさんのお得意様のご購入記念品で企画・製造された「トラクターのラジコン」でした。実は、その時点でもう納品から5年程度が経過していた、買収した会社がずっと以前に売上・納品した案件だったのですが、なぜかそのころになって次々と毎月2,3件の問い合わせ、苦情が入るのです。その多くが、「動かない」「同梱の電池が液漏れしている」というものでした。5年もしたら、電池ボックスの接点も腐食して接触不良になりますし、電池もそりゃ液漏れしますがな…。不良品ではありません!

でも、なぜいま頃問い合わせが次々来るのか不思議でした。それはある時、担当の人がおらず、私が電話に出てお話を聞いたらすぐわかりました。

電話の向こうは、東北地方の方言が聞き取りにくいぐらいのおじいさん。お話を聞くと、「お金払ってもいいから、直してほしい」というのです。その理由は、「孫がそういう歳になったから、遊びに来た時に納屋から出してきたら、動かない」というものでした。実際、そのラジコン、後部のけん引するユニットも交換でき、スピードは遅いのですが、そこそこ力の出る立派なものでした。

買収する前の小さな企画会社がその商品を企画したときには、そんな何年もあとに初めて開梱されて、農家に遊びに来たお孫さんとお爺ちゃんの交流のツールになるなんて場面は想像しておらず、初期不良等に対応すればよいだろう、という軽い考えで(数も1000に満たない数の生産だったので、重く考えていなかったようです。)説明書に自社の電話番号を直接記載して問い合わせ先としていたようで、電話が延々かかり続けるのです。しかも、それに対して、若い男性の企画社員が送料だけご負担いただき、商品を送ってもらい、分解して東急ハンズで買ってきた(自社負担)電気ボックスとその部分の配線を交換したり、接点にやすりを掛けたりして修理して返送していました。

その男性社員のやさしさは人間としては尊敬に値しますが、そうして得た顧客満足が実際に業績に反映されるか?というと、これらは自社商品ではなく農機メーカー様にお納めした商品ですので、その満足は、「農機メーカー」に向けられるのです。そして、その「農機メーカー」がそれを理由に私が勤めていた会社にリピート発注してくれるか?というと、そんなことは全くなく、安いところに発注するわけです。実際、私は営業担当の役員に、「これだけ問い合わせが来て人気ですよ」、とお話しして再生産して納める商談をしてはどうか?とお話ししたのですが、実はこの商品、農機メーカーとその会社の間にさらに百貨店の法人営業部が介在していてその百貨店法人営業部の営業方針にはその選択肢はなかったのです。だからと言って直接営業に行って良いかというとそれも百貨店は許そうとしません。

では、自社でこの商品を高単価で販売してはどうか?ということも考えました。しかし、「お父さん、おじいちゃんがお仕事で乗っている農機と同じものがラジコンになっている」ということにバリューがあるのであり、おもちゃ屋に普通に販売されていても、ネット等でマニア層に少数受けることはあっても、多数販売できる商品にはなりにくいですし、今度は商品の「型」について許諾を受け、ライセンス料を払う、という話になります。(広告宣伝になるという立場で協力してくれるメーカーがあればよかったのですが)その会社の企画営業力では到底そこまで自社では完結できる状況ではありませんでした。所詮その会社は、百貨店法人営業部などの「下請け」の実力しかなかったのです。

そういう視点からは、「説明書に自社の電話番号を書いて永久サポートする」ような保守の仕方は不適切だったし、農家のおじいちゃんが遠くまで買いに行かないでもよいようにと、すぐ使えるようにと親切に電池を同梱したことも不適切であり、手離れよくプロジェクトを終了し、修理先を別に確保して期限をパッケージに明記しておくべきでした。形式的にはそれが正しい対応だったでしょう。ただ、現実それが出来たのか?というと、下請けが製造コストぎりぎりで受けた仕事で、そうしたサポートコストの外部化や一部コストのユーザー負担化は、顧客との力関係でできなかったのが実情だろうと思います。つまり、この会社が下請けでこうした仕事を請けていて、直接案件ではなかった、その「営業組織」をきちんと整備し、パスを整備するということができていなかった、ということが根本の問題だったのです。

その会社をクローズしてこの3月でちょうど5年になります。無邪気でやさしい社員の皆さんが無償できちんとお客様に対応していた、そんな「いい会社」
だった(で、自分たちで自立して営業するほどの力がなかったのに、その市場に留まり続けようとした)ことが、この会社が都合のいい会社として元請けから利用されクローズする運命をたどった理由の一つなのです。私はそこから脱却しようとして社員に疎まれ、それが出来ずに社員の生活に迷惑をかける週末を迎えてまた恨まれ…。「営業組織の重要性」はこの会社の立て直しを考える過程で身に染みて分かったことでした。今、私はそれをまた、心優しい人たちに一生懸命説いています。

あのラジコンと同じビリジャンブルーの農機をふと知人のSNSで見てこの話を思い出しました。もう、農村はそんな準備にかかる季節なんですね。

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