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毎年この時期、忍び寄る魔の手

知っていますか?あなたの会社の電気代は、知らないうちに毎年少しづつ上がっています。電気料金には、電力会社が請求している基本料と従量料金がありますが、そのほかに、燃料費連動部分である「燃料費調整額」(これは電力会社の収入)という毎月石油相場と為替相場に連動して上下する部分と、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(以下、再エネ賦課金)という部分が存在しています。これらは電気料金の明細に明記されています。

この「再エネ賦課金」とは、現在、FIT(固定買取制度)という太陽光などの再生可能エネルギーによる発電を一般の電気代よりも一定期間(規模により10年と20年がある)高く買い取る制度が運用されており、これにより日本中あちこちで太陽光パネルを設置して発電を行い、これを高く電力会社に売却することで利益を得る、というビジネスが成り立っている(実はそれほど上手く行っていない事業者もいる)のです。

 この買取価格は、事業開始時期が最近になるほど引き下げられていて、最近では工場やビルで使用する「高圧」の料金よりも少し高いぐらいの水準になっているのですが、昔は一般家庭の料金の1.5倍ぐらいという極端に高い価格に設定されていました。それが、日本中あちこちの野原に太陽光パネルが設置された理由です。しかし、この「逆ザヤ」は誰が負担しているのか?というと、その7割程度は、一般の利用者~会社やご家庭~が電気料金の中で電気代に合わせて使用量に比例して負担しています。それが、「再エネ賦課金」です。要は、わかりやすく言うと太陽光発電普及のために、実際普及した分だけ電気代は高くなる仕組みがある、ということです。

この「再エネ賦課金」制度ですが、2011年の東京電力福島第一電子力発電所の事故のあと、菅政権が「脱原発」を強く打ち出す中で極端な買取価格が設定され、設置が増えるごとに次のように毎年値上がりし続けています。

2012年4月~ 0.22円/kWh

2013年4月~ 0.40円/kWh

2014年4月~ 0.75円/kWh

2015年4月~ 1.58円/kWh

2016年4月~ 2.25円/kWh

2017年4月~ 2.64円/kWh

2018年4月~ 2.90円/kWh

そして、先週発表された2019年4月からの再エネ賦課金は2.95円/kWhとなりました。ちなみに2015年に環境省が公表した「平成25年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討報告書」では、この「再エネ賦課金」の予測が公表されており、それによると、この賦課金水準は、2030年がピーク(10年~20年の固定期間で2012年に開始のため)で、中位推計で2.01円、高位推計で2.95円、と計算されていますが、たった4年しかたっていない2019年ですでに「余裕を見た計算」だったはずの高位推計の水準に達してしまっています。こういうことをやっているから、行政のいうことは、自分たちの制度導入に都合の良いデータを作っていると言われてしまうのです。

この2.95円というのがどのくらいの水準か、というと、東京電力で高圧電力を契約されているビルユーザーの夏季以外の標準料金単価(実際にはメニューによってバラバラなのですが、平均して)が16円程度であることからすると、実はこの7年で電気代のうち従量料金は「2割近く値上がりした」し、「毎年少しづつ値上がりした」ということなのです。(基本料は影響を受けません)

地域電力会社(東京電力等)とご契約の高圧の事業者やビルオーナー様でそれほど規模が大きくない方で、よく地域電力会社に、「基本料をちょっとだけ(たとえば3%程度)値引いて、3年契約」を提案されておとなしく締結されている、という方を時々見かけます。その契約を2回更新している間にあなたの電気代、こんなに上がっていますよ、社長さん!そう、この料金と燃料費調整額は、あなたの会社と電気会社の契約に関係なく、上がるのです。

この手の「知らないうちに本人には避けようもなく紛れ込んでいて、公表もないままに(Webサイトでは各社公表しているのですが)少しづつ値上がり」というものは経営上特に気を付ける必要があります。法律で定められているものなので、この「再エネ賦課金」は新電力に会社を変更しても避けようがありません。

 この「知らないうちに紛れ込まされている」は電気代だけでも他にもあります。「電源開発促進税」「使用済燃料再処理等既発電費相当額」など原子力発電の維持にかかる費用が電気代のうち、「託送料相当部分」に上乗せされており、前者は徐々に下がっていますが、後者は時々少し上がります。また、来年からは福島原発の廃炉処理費用を託送料に上乗せして利用者が負担する仕組みが全国で開始されることが決まっています。

 余談ですが、さらに先週、「原子力発電の電気を高く売る仕組み」を同様に託送料に上乗せして請求する仕組みを経済産業省が検討している、というニュースが一部新聞社で流れました。真相は明らかになっていませんが、このことの是非はともかく、「こっそり紛れ込ませる」手法が常用されるようになってきていることには注意が必要です。

太陽光買取価格は現政権になって新規事業開始分は急激に引き下げられているため、太陽光パネルの設置のペースは格段に落ち、その結果この賦課金の上昇ペースは抑えられてきています。しかし、減り始めるには、初期の大量投資した設備が経年劣化で発電量が落ちてきて、そして買取が終了し始める2031年頃を待つ必要があります。(なお、家庭等に設置の小型のものは、固定買取期間は10年です。)

できる対策は、上がる以上に安い電力会社に変えるか、今の電力会社と交渉して下げる、もしくは電気の使用量を工夫して減らすかです。使用量を減らすのは難易度が高く、手軽なのは単価を下げる交渉のほうです。

知らないうちに大きな変化 売上だけでなく経費構造も

一年一年の変化は決して大きくありません。しかし、こうして10年単位で見てみると、避けようのない、そして無視できない規模のコスト上昇というのはいろいろなもので起きています。「電気代の電力会社の届け出部分以外」というのはその代表的なものであり、まだ様々な資料からこれらをトレースしてこうして私の様にレポートする人もいるだけましです。

しかし、たとえば、人件費。東京都の最低賃金は、2000年には、692円でした。このころのコンビニの求人ポスターの記載は700円や720円が普通でした。今年はついに1000円を超えることが予想されています。会社の経費はこうしてしらないうちに、「徐々に上がっている」のです。

経営が行き詰った中小企業のレポートを帝国データバンクの倒産速報などで見ると、「徐々に売り上げが減少し経営が苦しくなった。」という書き方をしてあることが良くあります。本当にそうでしょうか?売上が減少することは多くの場合明示的に予測でき、それに対する対処が可能な範囲が相当あります。

私が見る限り、「20年前の原価構造、経費構造を前提に決めた価格水準やビジネスモデルが、今の構造では無理が生じている」というケースも相当あるように思います。

毎年、この時期に「再エネ賦課金」の改定のお知らせを見て、それを関係する方にご案内するのですが、知ってほしいのは、「新電力の見積もりを取りましょう」ではないのです。「経費水準、売価、そしてビジネスモデル」はこうして時代の波にさらされており、常に見直ししていかなければならない、ということを知ってほしいのです。「20年前と同じビジネスモデルで、同じ値段で売っている」は、大幅な製作工程のイノベーションなどがない限り、決して褒められたことではないはずなのです

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