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嵐の中、変化する会社、しない会社

組織は世の中の変化に合わせて変わり続けなければならないのに、安定状態にある組織には常に同じ場所に留まろうとする慣性力が働きます。それを動かすには非常に大きな力積が必要となり、それは軋轢と摩擦、そして悲しみを産みます。どうすれば、できるだけ早い時期に、そしてできるだけスムーズに変化を起こせるのか?というのは私のライフワークでもあります。

この2か月ほど、まさに「急激な変化を強要される事件」が日本中を襲いました。その中で1人の会社から数百人の会社まで様々な会社の新型コロナウイルス対策の様子を見ることが出来ました。必死で事業を根幹から変えようとする会社と、じっと嵐が過ぎ去るのを待ち、その間は公的助成(融資や補助)でしのごうとする会社に両極端に分かれています。どちらが正解かは結果が出ていないだけにわかりません。ただし、その対応の差はやっぱり「経営者の差」なんだな、と思う場面をいくつも目にしました。

1 オーナー経営者と社員から昇進した経営者

オーナー経営者の方が会社のためにためらいなく変える、ということはトヨタを語るときによく言われることですが、今回の対応を見ていても、決断が早く、しかも思い切った振り幅を取るのはオーナー経営者ですね。社内昇進型の経営者はどうも守勢に回りがちな傾向が強く感じられます。

「自分が全て決め、全て指示してやり遂げさせる」という迫力のようなものがあるオーナー経営者を今回何人か見かけました。

ある4代目社長は私に言いました。「これまでも何度も会社は急旋回をしてきたことがあるんであって、またそういう機会が来たんだと思う。」数十年~百数十年のスパンでそういう視座を持っていることは、なかなかサラリーマンにはできないことです。

2 若さはやっぱり関係ある

20代、30代前半ぐらいまでの経営者は変えることに躊躇がなく、不十分でも新しいことを始めて、走りながら考えることができています。40代は、性格によるようで積極的な人とそうでもない人に分かれています。そうでもない人には共通した原因があり、「自分が作ってきたものに強いこだわりがあり、価値があると信じている(しかもそれは世間的には少数派な)ので、変えるべきではないという「自分の信念の奴隷」になっていて、「まずは生存が優先」と思いきれないというところが見て取れます。

50代以上になると、規模の大きな会社では合議的にゆっくりと進んでいることが多いですが、個人事業主では、あきらめている人もかなりの割合います。言い方は悪いですが、「座して死を待つ」+「政府が悪い」という態度を取っているケースが多くなります。(そうではない人もいるんでしょうが、私が見た範囲では)

こういう人は、「今更新しいことをやれない(やりたくない)」という態度がかなり鮮明ですし、今までいた場所、建物、従業員、人間関係などをそっくりそのまま維持しなければならないという思い込みが強固なケースが多いようです。

若さは…大事ですね。「これまで積み重ねてきたものよりも、これから新しく作るものの方がずっと大きくなるはず」と思えなければ変われません。そして、そう思える人は、肉体年齢に関わらず「若い人」なんだろうと思いました。

一方会社の歴史はあまり関係ないようです。戦前からの古い会社でも若い後継者の下、変身を遂げようという動きが力強いところもありますし、できて数年の新興企業でも「自分のやり方」にこだわり続けているところもあります。結局はトップ次第なんだなあ、と強く思う項目です。

3 事務力は大事

まとめて事務力と言いましたが、トップの知的バイタリティとアジリティ(迅速さ)と言った方がよいでしょう。具体的にいうと、今回目についたのはこんなことです。

  • 氾濫する情報に惑わされず、政府や都道府県の公式情報を自ら収集する。
  • 公式情報や他社の対応事例をうまくコピペして素早く自社用のルールにする。
  • 申請書類を落ち着いて通読し、書類作成や必要データを素早くやり遂げる。担当者への指示が具体的。
  • 変化のための手順と分担を素早く表形式で作成し適切な期限付きで指示する。

これはメディアで見た話ですが、「補助の申請が難しすぎる」と非難している事業者を取り上げていました。読み書きそろばんの能力が不足しているし、それを補う外部の(私のような)パワーを適切なお金を払って使う、という才覚もない、というケースが私の周りでも、とても多くあります。なお、今回、関係省庁が公表している事業者支援の資料は、これまでになく非常にわかりやすいものが作成されていますし、動画の説明も用意されているものもあります。それでもなお、このような「苦情」がでるケースは私の目には「最初から読み書きをあきらめていて他人任せ」になっているように見えます。普段からもうデータや論理に無頓着になっていて思考せずに感覚で判断していたり、あるいは判断を放棄し経営者みずからが作業、たとえば「真心接客」「職人技」ばかりをしていればよいと自己定義しているようなケースです。

未曽有の時代に多くの零細事業者の持つ「技術」や「真心」が失われることを懸念する風潮がありますが、あえて言うと、「技術」や「真心」はそれを必要とし支払意識を持つ人がいる限り、その会社がなくなって持ち主がより規模の大きな他社に勤務する形になっても、継続されます。そして、実際にはその方が「生産性が上がる」「品質が上がる」ケースが大半です。これらを残すことと会社を残すことは同一ではありません。

より高いレベルの独自性や経営の安定性・堅牢性を実現しており、外部の力を借りてでも、数字や文章に対応でき、法律を理解し守り、適切な判断を行う「経営力」がない組織は潰れても仕方がないのであり、それは今回のような危機時に一気に進行するのです。逆に言うとこうした頃ができている会社は今回の事態でも社内留保と公的支援により何とか救済することができることでしょう。

そのようなケースで多くの人が「税理士さんに相談する」という回答をするのですが、これも自社の数字が他人任せであるだけでなく、事態を正確に把握していない証拠です。この時期、税理士事務所は3月決算への対応で一年で一番忙しい時期ですし、今年は確定申告が延期されそれも重なっています。それに税理士は税務の適正性を確保するための専門家であって、融資や助成の補助をするコンサルタントではありません。一部は経理事務もやってくれるが申請書の代書屋ではないですし、収益の多くは継続的な企業情報をベースとしたストック性の高い(コストの低い)顧問料と、相続関連や土地取引関連などの金額の大きいものの手数料から得ており、突発的で一次的な少額の業務をやっていては割が合わない仕事です。その辺わかっていますか?と思うことも多くあります。

かくして時間だけが過ぎ去ってゆくのです。これも全体として見ると高齢層に対応力が低い傾向が強く見られます。決して学歴は関係なさそうです。むしろ素直に、そしてがむしゃらに生存のために情報を集め行動するという点では逆の相関があるとも思えます。ただし、普段から文字や数字をアウトプットする仕事をしているか?という点は関係がありそうです。今回ばかりは社長がこうした能力が高い会社はかなり時間的に有利に立てたケースが多かったように見えます。

4 自立魂

 子会社でもない限り、経営者は本来は法律の範囲内で経営的にフリーハンドを持っているはずです。もちろん、普段は取引先や従業員、金融機関など様々な利害関係者の機嫌を損ねないように注意しているわけですし、そのような「自分は強い」と錯覚した万能感は時として経営者を危険な失敗に陥らせます。

しかし、今回のような危機に際しては、万難を排する経営者の腕力が必要とされる場面であり社員はみな、「社長がなんとかしてくれる」ことを期待しているのです。それなのに、経営者自身が、「社員に…」「取引先に…」と何かを躊躇し続けるというケースが目につきます。そういう方に、「ゴールデンウイークが明けたら(延長が決まる前の話でしたので)、元の働き方や買い方が戻って来ると思いますか?」と聞くと、必ずしもそうではなく、今回の事件を契機に市場が多少なりとも変質速度を速める、という見解を持ってはいるのです。

つまり、生き残るために最善を尽くすことよりも、自分の評判や信条を優先しているのです。そんなことをしても潰れてしまえば、評判なんて地に落ちるわけでして、今は自分勝手を追求する以外に道はないはずなのですが、「仲間内からいい話が舞い降りてこないか?」「いずれ顧客が動き始めるはず」となぜか根拠のない期待に時間を浪費してしまうのです。その根拠は何ですか?と私に聞かれて「今、業界で、顧客と、話し合っている」という回答をするのですが、今は各事業者が皆、「自分の生存を最優先」に考えています。その生存に自社が必要とされていればその期待はある程度正しいし、不要不急であれば勘違いです。

皆自分の損得を基準に生存を目標に動いているのは当たり前なのに、なぜか自分の会社は扶助されるべきと思い込んで、政権に、銀行に、顧客に立腹している経営者を見て、年齢とともに思考と感情の柔軟性、多面性を失っていて経営者としては無理があるな、と感じた光景がありました。

5 普段からのコンプラ意識

特に今回お話を聞いた中で、残業制限等の労働ルールを守っていないため、このままでのデータでは必要な厚労省や都道府県の助成制度を受けられない、という事例が(複数)ありました。弊社はその残業を減らす仕組みづくりはお手伝いしますが、労働時間データの改ざん等はいたしません(実際には提出が当初から必要なわけではないものも多い)、とお断りしたところ、「小さいところはみんなそんなもんだ。そんなこともわからずに経営コンサルとか言っているような奴に頼めん」と逆切れされたことがありました。そういう会社に限って動き出しが遅く、今から申請しても相当時間がかかるという状況にもキレています。

もちろん、日本の多くの中小企業が残業制限法規なんて実際には全然守れておらず、事実上無制限の廉価な労働力の提供によって存続している実態は十分知っていますし、私自身長くその一部でした。しかし、各種助成制度の基準は「そのような企業は生存の援助を行わない」ことを言明しているのです。私はこれは政策として当然であると思っています。

そして、低生産性こそが変えなければならない本丸であり、現状の構造を保存したまま延命を図ってもなんら解決にはならない、と火事の最中に火の用心の大事さを説くようなことを言っても仕方がないわけですが、経営管理の大事さを改めて思った出来事でした。

なお、助成で申請条件が引っかかって申請が通りそうにないところは、融資関連(こちらは租税公課や社保の未納がなければ財務審査だけですので)で策を練ることが中心になります。策は他にいくらでもありますが、コンプラを軽視してきたつけは回って来るということです。

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