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経営者のための経理入門②~経理情報を如何に事業に生かすか?

前回から、「経営者にとっての」経理入門をテーマにお話ししています。前回はこちらで、「経理の文化」というものがあること。そして、それはちゃんとした経営上の理由がある、ということをご説明しました。

しかし、経理情報を事業部に生かしてもらう、そのために事業部に経理部に協力してもらう、そして会社全体を低コスト・高速オペレーションにする、ということを実現していくためには、さらに経理側から見た経営の見え方、というのを知っていただく必要があります。今回は、その辺からお話をしたいと思います。

①みんな「自分のだけ特別な事情だ」と個別対応を毎日何回も要求される

全国の経理担当者が首がもげるほどうなづいています。

これは、成長過程の企業で古株の発言力のある事業部社員に特にみられる状況です。結果、何が起きるかというと時間が足りず、管理系の他業務が停滞し、そして増員を迫られます。稼げる営業や資金調達ならまだしも、事務作業に年間何百万円も費用増させるのは本意ではない経営者は、経理部にこう言います。「何とか合理化する方法を考えろ」

しかし、これは、経理の問題ではなく、全社の問題であり、経理責任者によほど力がない限り社長が対処しないと解決しない問題です。そして、実は、「経理(出金)」の問題ではなく、全社の業務の効率性改善の問題です。

確かに事業を推進していると、自分よりはるかに大きな会社の要求や特定の業界の慣習に負けてしまうことがあります。それは社会がルールと言いつつ力関係で決まっている部分が多くある以上仕方がない部分があります。しかし、そうではない、今までやってもらっていたから、とか親切にしてくれているから、といった理由での個別対応が沢山発生している会社は、実は業務設計、あるいはその上位の事業計画に大きな問題が間違いなくあります。

経理が省力化できている、という状態は多くの場合、現場でも省力化・効率化できている状況であり、個別対応が多数発生するという状況は現場でも効率的ではない些末な取引の管理にコストを割かれているのにそれを削除できない状況です。企業が成長してくると人員数、業務数や一業務当たりの受注数が増大してきて、経理への負担量が増大してきます。しかし、この時にルールに統一性があれば、処理の定型化がある程度可能であり人員増大圧力を緩和することができます。それは経理だけでなく、現場でも同じことです。

最近であった事例では、上がって来る伝票のかなりの割合が新規取引先で、「新規取引先登録」作業にひたすら追われて作業が遅れる、という事例がありました。これは、先の経営者のいうように新規取引先登録作業を合理化することで解消すべき問題なのでしょうか?私はそうではない問題があると思っています。提供サービスは取引先との間で品質やスピードのすり合わせや取引先の練度向上によりサービス価値が向上していくものであり、一度限りの取引先が大量にある、という状態は会社として満足度の高いサービス・商品を提供できる体質だとは思いません。そこには取捨選択と集中があってしかるべきなのです。

今の事業を10倍にしようと思った時、それは、今のバラバラの状態で売上も人数も10倍にすると経理も10倍必要になります。そうではなく、特定の勝ちパターンを提案から入金までの流れを整理して省力化しながら10倍までいかない、できれば5倍ぐらいの人数で10倍にし、手間はかかるが件数は上がらない業務は廃止して、資源を効率的な業務に配分していく、こうした取捨選択とルールの強制により利益率は改善し、そこから人員、システム、広告への再投資が可能になっていき、強みは強化されていくのです。経理処理の統一ルール化はその末端の一部でしかなく、より大きな問題は、「無理なく成長し利益率を改善するための事業部~バックオフィスでの一貫したルール統一と強みへの資源集約」をやりきる事業責任者の問題です。

力のない事業責任者は、そういう言い方はしませんが、「みんなそれぞれ今までのやり方で今までの10倍頑張れ」という指示をします。その結果、ぐちゃぐちゃの内部の無理が経理にも押し寄せてきて混乱を波及させます。事業が成長しても、パターン数はむしろ減っていくのが正常な姿なのです。

②資金繰りと収益責任、書類整備責任

経理部では通常、日次、月次での資金計画を立案しており、歴史の浅い成長企業は、資金調達の規模の多寡にかかわらず大抵どこも資金調達直後以外は楽ではありません。一つの誤算が命取りになるような綱渡りをしていて、この状況をできるだけ早く察知するための情報発信は経理部の重要な役割になっています。私自身、日次資金繰り表の残高欄の赤字(資金不足見通し)に神経をすり減らす期間がこれまで複数社で何年もあったので、できればこの思いはしたくないのですが、若い会社を支援する以上避けては通れません。

もちろん予測だけでなく、これに対処する策も経理は経営者に提供しなくてはならないわけで、常々銀行からの商品情報の収集や自社の情報の提供などのコミュニケーションといった「営業活動」も小さな会社の経理には必要になってきます。小さい会社で、そこの出来ない経理担当は結局経営者に大きな負担をかけてしまうことになりますので、自律的に動ける経験者が本来は望ましいところなのですが、なかなかそれができる経理担当は少ないのが実情です。

しかしながら、交渉のための手段を用意することはできます。たとえば、契約書や注文書の整備(もちろん、支払日や支払条件が書いていないとダメですが)、請求書の完全整備などがあれば、短期融資を動産担保的に得ることは昔に比べてしやすい環境が整ってきています。あるいは、比較的早い時期に不足金額のめどが立っていれば、大きな出金を事業部と協議して来月に回す交渉をしてもらうことができることもあります。

そもそも資金には借入にせよ、資本にせよ、結構なコストが生じており、そのコストを上回る利益を上げられる業務に資金投入していく取捨選択が経営には必要ですが、営業現場では、「資金のコスト」はほとんど見えておらず、現状維持の判断に傾きがちです。特に今の日本では低金利が定着しているのでその判断のゆがみが生じているのですが、成長過程にある(逆に言えば高リスクフェーズの)企業の資金コストはそれでも結構高いものです。月々の返済額、利払規模を見せると顔をゆがめる事業部長が続出することでしょう。

また、最終的には、事業の構造として月々の事業経費と売上による入金が釣り合う構造を全体として実現しなければならないわけですが、事業部は、「営業するだけで、入金時期は適当に数か月後で金額も不確定」というような状態で放置し、それで「売上」として経営陣に報告しているようなケースもあります。私が経験した経営破綻のうち一つはこのパターンで、ファクタリングすらやりようがない、というものでした。

経理からすると、流動性確保のために取れる策があるのに、それに必要なドキュメント整備をやろうとしない、やる能力のない事業部は怒りの対象でしかありません。それは、事業部が「営業担当の集まり」であり「経営を知らない」ことを許している経営者の責任でもあります。

経営者は資金繰りについて、健全な危機感を事業部に共有させ、入金と出勤のバランスを取ることが事業部長の事業計画上の数か月から1,2年の間の責任であること、そしてそれが完成するまでの間、経理部と協力して資金流動化策のための(本来は当然あるべきなのですが)、契約書、注文書、請求書等の整備と、資金需要情報の早期共有を指示しなければ経理部は孤立し、経営は危機に瀕します。そして、それを覆い隠さず変化、取捨選択を行う、その基準は経理データにあるのです。そうした対応ができているところが見える会社が、金融機関や資本家から支援を受けやすい会社です。

③予見性と蓋然性

経営は人事でも、営業でも、すべて最終的には利益、そしてそこにつながる各種の数字をもって語られるべきである、ということについては経営者の皆さんは合意してくださると思います。そして、経理の目的とは何か?と聞かれれば、納税でも支払でもなく、実は究極は、数字をもって経営を語るためのデータセンターである、ということも若い経営者の多くは同意してくれるでしょう。

しかし、過去の数字を語っても、それを求めるのは銀行ぐらいしかありません。経営が経理に実際に求められているのは、経理が伝票を集計してでてきた先月の数字ではなく、未来の数字なのです。この二つの間には結構広い溝があり、経理担当の多くはこの溝を飛び越えようとしません。それがまた経理に経営者が腹を立てる原因なのですが。

もう一つ、経営を語るうえで経営者が意識しなければならないのは、「未来の構想の達成の確率が十分あること」、これを経理畑では「実現の蓋然性」といいます。この「達成の蓋然性」の話は、資金調達はもちろん、株や建物など資産の減損の判断、あるいはM&Aの判断など経営の様々な画面で重要な意味を持っています。しかし、多くの経営者はどのように数字が構成されているのか?の仕組みをうまく理解できておらず、この説明を上手にできません。その場合、今度は話を聞く側、たとえば銀行は、「直近のトレンドが維持される」という前提で評価を行わざるをえません。

優れた経理担当者は、この「モデル」に基づく、「予見性」を自分の中に有しています。よく、経理担当者と話していると、「例月通りの状況が続くとおそらくこうなっていきます。」「こういうことがあるとこういうリスクがあります。(逆に「跳ねます」のときも)という話を他人事のようにするのですが、それは、全体の構造が見えているから言えることです。しかし、それを表現しろ、というとまた、経理担当の多くはそこをトレーニングされていないので、うまく表現できないのです。ここを経営者や事業責任者がうまく利用すれば、事業の説明力、予見性は大きく改善できるのです。

そして、「このままいくとこうなるな」の経理担当者の悲観的予測は概して当たります。それを蓋然性と呼んでは経営者はいけないわけですが、それを怒ってもいけません。怒るとその見解すら届かなくなります。なぜ当たるのか?は、「人の行動はそう簡単には変わらない」「市場の認知はそう簡単には変わらない」という前提がその予測のバックグラウンドにはあり、その行動、認知を変えることは社長にしかできないことだからです。ニヒルともとれる経理担当のつぶやきを力に変えるのは経営者の務めです。

というわけで、今回は、経理側から見たら経営者は、事業部長はこう見えている、というところ、そしてそれを元に経営者は何を経理担当の力を借りてするべきなのか?ということをまとめてみました。

次回は、もう一回経理の現場に戻って、経営の「スピード」と「精度」が経理からは見えている、というお話の予定です。

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