BCPって聞いたことありますか?Business Continuous Plan(=事業継続計画)の略です。2011年の東日本大震災のあと、新たな飯のタネとして各コンサルが盛んにリスクの仕訳と、予防対処、発生時対処のプランをコンサルします、という営業をしていました。上場企業では確かに株主に対する責任の一部と言われても仕方のない面がありますが、中小企業は、「災害じゃなくてもいつでも継続の危機じゃ」と笑うに笑えない実情がありそれどころではないでしょう。
この20年、大手だけでなく、いや大手以上に中小企業は利益が圧迫され、ぎりぎりの人数で日常の業務を回すことを強いられてきており、しかも一人ひとりが長くその仕事を担当していて「人に仕事がついている」状態になっている例が多くみられます。それをどうのこうの言われても、会社からしたら、「どうしようもない」というのが言い分であり、顧客には言えないものの、「一人いなくなると回せなくなる」というリスクを常に感じていることでしょう。
今年もインフルエンザが流行中です。私の周囲でも次々と罹患し5日間の出勤停止になる人が現れています。本人が罹患した場合はどうしようもないのですが、小さなお子さんが罹患すると、預けることが出来なくなり元気な親、そして圧倒的に多くの割合で母親が会社を休まざるを得なくなるというケースも生じています。先日もお休みしているママ社員に社内SNSで「プリンタのインクがありませんので、自宅から発注してください。」という依頼が飛んでいました。そんなもん休みなんだから、自転車で10分のビックカメラに自分で買いに行ってレシートとっておけよ、と思ったのですが(言いませんでしたが)、これこそが中小企業のBCPだと思うのです。
まず、子供や親の看病というような自分の責任によらない休み、というのは交通機関が動かない災害と同じく「自宅で勤務」という形態を認めるとともに、会社の事務作業を自宅で行えるセキュリティルール整備を行うことが適当だと思います。具体的には、クラウド上へのデータ保管の義務。ノートPCのセキュリティルールや時間管理のルールなどです。ちなみに、この「リモート勤務制度」は特に子供のいる世帯の働きやすさを目的に導入すると助成制度があります。自治体によっては、この制度のための設備(例えばノートパソコン)に対しても助成がある自治体もあります。
もちろん、PC作業だけでなくその他の作業もあるとおもいますが、それは他の人が補完せざるを得ない。それを都度、「〇〇の件お願いします。」というのではなく、その内容をクラウドサービスなどを使って、書き留めておき、不在時の引継ぎチェックリストとして時間があるときに整備しておく。業務マニュアルを作れ、といってもなかなか完成しないのはしょうがないのですが、実は、最低限必要なことは、項目と一言メモで足りるようなことが大半です。
そして、それを誰がやるかですが、いつもではなくてもよいので、上司、あるいは社長のあなたが時には部分的にでも担当することをお薦めします。
私も小さな会社のリーダーでしたが、事務系を担当する部下がなんだか肺炎やらノロやらでしょっちゅう休んでいました。奥さんが大けがをしてしばらく会社を休んだという部下もいました。その時に代わりにやってみると、すごく工夫してやってくれている個所もわかるし、抜けていて改善が必要な個所もわかりました。こういう機会がないとまかせっきりになってしまうので、大変良い機会でした。ちなみに金融機関では、こうしたことを積極的に活用して不正防止、牽制の意味も持たせているそうです。休んでいるときに社長や上司が代わりにやるとなれば、いい加減なことはできないという普段の業務のやり方の改善、たとえばせめて手順書を作ることや記録を残すことをやらせる理由にもなります。
その「代替可能な手順書」が作れないことこそが、中小企業(これは大企業でも実は同じなのですが、大企業はそれでも人材に余裕があるので)のいろいろな問題の元凶なわけで、そこをこういう「強制介入」で治療しようというわけです。中小企業がなぜ、こうしたことを変えられないのか?というのは一見人出が少ないからだ、ということが正しいように見えますが、実はより大きな原因は、異動や採用などが少ないため、現行制度で最適なように仕事が人についてしまい、それが一定の安定を保っているため、「変える勇気」を誰も出せない、ということであるように思います。しかも、そんな組織の問題を指摘してくれる人も、組織が固定的であるがために辞める覚悟をしない限り言ってくれる人がいない。
それならば、上に立つ者が変える勇気を持つしかありません。しかし、リーダーのあなたも、実はその「あまりよくはない安定状態」に安住してしまい、変えることを避けて通っているのではありませんか?35歳を過ぎるとそうなってしまうリーダーをたくさん見てきました。大きな災害ではなく、病欠のような小さな災害を幸いとして、やり方やルールを変えてみる機会としてはどうでしょう。
以上は、オフィス系の仕事の場合ですが、訪問営業の場合も、こういう緊急事態には、初回訪問や納品済み顧客の場合は私が代わりに伺っていました。特に既存顧客に上司が訪問するという機会は意識しないと作れず、顧客満足を測るのに貴重な機会になっていました。ただ、店舗や工場の場合は、そうもいかないわけで、中小企業でこれらの場合はホント、どうしたらよいのか今のところ良い案はありません。こういう現場は、今の時代、本当に大変だと思わざるを得ません。