私がいつもお世話になっているお付き合い先の総務担当の女性(子供がもうすぐ3歳)がついに立ち上がりました。社長に「福利厚生策の一貫でベビーシッター利用の支援制度を検討したい!」と言ったそうです。ガンバレ!
私自身、男性社会で生きてきてそれが前提の仕事の仕方をしてきました。正直言いますと、若い女性の部下が生理痛でしんどそうにしているのに、「無理しないでソファのある会議室でやすんでな」と表情を変えずに言っていても、内心「女と仕事するのはめんどくさいな」と20代は思っていました。そういうダメ世代です。今そんなことを言うと大変な攻撃を受けてしまいますが、20年前までの上場企業グループ、それも創業何十年の会社の文化なんてどこもそんなものでした。その後、MBAスクールでパナソニックグループで「男女雇用均等法一期生」の女性と知り合いになったのですがスクール終了後の懇親会での彼女の孤軍奮闘(というか年上の男性上司からしたらほぼ反乱軍)の話を聞き、この国で女性が企業で活躍することの現実の苛烈さを初めて知りました。
今でもなお、大企業は男性優位であり、セクハラまがいの文化が蔓延し、あるいはお茶を入れ宴会でお酌をするのは女性の仕事という空気があり年始はいまだに振袖!(「職場の華」論)という圧力の会社もあります(たぶん4日にはテレビで映っていたと思いますが)。出産や結婚退職を考慮して継続性の必要な仕事は男性に任せるということが実際に暗に行われているし(男も数年で転職していなくなるのに)、多くの優秀な(だから大企業に採用されたわけで)女性はそれに忍従を強いられている。
ところが中小企業の会社のリーダー的な役割を果たすようになった30代以降は、もうそうも古い考えのままでいられなくなってしまいました。改心した、という話ではなく実情として女性の助けが必要と認めざるを得なくなった、というところです。
中小企業では、有名大卒の新人なんて通常は取れませんし、補充するにしても若い優秀な大手企業勤務の人が転職してくれる、ということは全く期待できないのが実情です。その中で、人材紹介会社から紹介され面接で比較的優秀で、大きな会社でのチャレンジの経験があり、意欲的でもあり使える、と思えるのはむしろ女性の方が多い状況が明らかになってきたのです。中には、結婚予定、お子さんがいる、という方もいました。社会全体でみると、大企業での男と同じような競争をあきらめて、中小で再出発を検討している女性がそれだけ多い、ということでもあるようです。(それは中小の方が受け入れ体制が整っている、ということを意味しているわけではありません。)
きれいごとでもなんでもなく、中小企業では優秀な人を雇用しようと思うと「女性」それも出産後の家庭での負担を負っている人を大企業から奪う形での活用を真剣に考えざるを得ない。そこで大企業と同じことをしている、あるいは報道される大企業の女性活用施策の後追いではなく、そこで先んじることで人材獲得で優位に立つことを目指すべきである。それが私の、お付き合い先のベンチャー企業への提言です。
簡単にそういうようですが、ならば私自身が企業のリーダーとしてそれが出来ていたかというとできていませんでした。それはなぜか、というと、「既存の男性8時間×5日のフルタイム+残業での労働」「何をやるのかは明示せず、組織に帰属しなんでも自律的に探してやる、というスタイルの働き方、既存の評価報酬システム」にそのまま当てはめようとしていたからです。その仕組みから改変しなければならないことは気づいてはいたのですが、労働回りを変更することは子会社の一存できるかというと親会社のコンプライアンス上の管理、そして評価制度設計などのルールの制約を受けそこまでやりきれなかったのが実情です。ただ、ベンチャーならばこれらは突破しやすいと思い、今になって、反省と悔悟を込めて再度挑戦しているのです。
具体的に調整しなければならないと私が考えている点を整理します。
1 一日8時間ではない働き方を制度化する。
お迎えや料理が母親だけの仕事なのか?という疑問は残りますが、今の世の中を前提に、これを受け入れるとした場合、16時に退社という働き方を希望される方は多くいます。そうなると、「パート」という働き方になってしまうのか?と言った場合に一日6時間、あるいは5時間でもよいし、週5日ではない働き方があっても良い。それを「パート」という見方ではなく、「短時間勤務社員」と位置づけする。そのうえで、「時給換算の給与額」は週40時間の社員と同水準程度とすることで、「同一業務同一賃金」の原則は守ることでフルタイム社員との一旦の公平性を維持します。
これは制度だけではなく、社内の運用面でも一部変更が必要になります。たとえば次のようなことです。
・どうしても必要な会議は全員が勤務しているはずの「コアタイム」(つまり夕方以降ではなく)に設定すること。(無理な場合に自宅等からのZOOM等でのリモート参加を可とする対策もあります。)
・全員が均等均質に働くわけではないので口頭での連絡では漏れが生じることもあるので、会議の決定事項や連絡事項はメールや社内SNSで配信するルールにすること、あるいは録音してアップロードしておくなどすること。
2 評価制度は短縮勤務社員を含むすべての社員で「成果主義」をベースとする。
フルタイムでも短時間勤務でも仕事の評価を「合意した当期、当四半期、当月のミッション」をベースに行うようにします。つまり、短時間勤務社員でも成果を上げればきちんと昇給する。そして、その「ミッション」は、賃金(=労働時間)が75%ならば、ミッションも75%とし、その中で達成率が高い、つまり時間生産性が高ければ昇給する仕組みとします。(行動評価を併用するならば、それも同様に行う)
今の日本の労働法体系では、成果に対して給与を上げるにはこのような制度にして説明性を高めるしかありません。ただし、中小企業は大企業と相違し、同一ポジションに何人も同じような職務の人がいるわけではなく競争なり比較なりということがない部門、ポジションが大半です。競争ではなく、会社のビジョン、会社や部門の当期の経営目標に対する「貢献度合い」で評価する必要があります。「女性が働きやすくする」とは、女性は補助的な事務仕事をやればよい、というのではありません。「男女、あるいはフルタイムか短時間かに関係なく、同じ基準で会社の利益額に貢献してもらい、それへの貢献度で給与が上がり下がりする」ことがスタート点です。
したがって、女性ならば誰でもよいというのではなく、男女を問わず、「向上心があって、利益を稼ぐ力と意識がある人を集め」そうでない人を新陳代謝する(稼げないで理屈ばっかり言っているダメな大卒男性社員よりも、ガンガン顧客に電話してアポとって突撃する、4時上がりの子持ちママの方が会社にとってはよっぽど必要な存在)ことを社内に明らかにすることが必要なのです。
3 マネジメント層は、暗黙の了解を前提とする日本的組織運営から、週単位程度での明文的で明確な指示を
たとえば、あるマネージャーに1日8時間の社員が3人、5時間の社員が2人いると自分含めて42時間の時間を使用できるわけですが、5時間の社員にちょうど良いミッションを任せてちょうどよく終わればよいのですが、通常はそうはうまくはいかず、見積もり時間で10時間の業務を2人にうまいこと配分してあとで結合したり、あるいは進捗を見て進捗の悪い人の分を一部良い人に回して完成させる、ということをしなければならないわけです。そして、終わっていようがいまいが、時間が来たら社員は(短縮勤務の社員はその必要性がありますし、本来は8時間の社員も同様に)帰ってしまってよいはずなのです。そこを「終わらせもしないで帰るなんてとんでもない」という常識がこれからの日本では通用しなくなってきているし、こうした人的資源活用の柔軟性を失わせているという認識に立つ必要があります。
マネジメント層は終わらせられるように方法を指示すればよいし、終わるように仕事を配分すればよい。それでもできなければそれは実力の問題であるので、「成果主義」に考え方に基づき評価し、制度に基づき年齢、性別や既婚か未婚かとは関係なく賃金が落ちればよい。そして、それを前提に成果の上がる仕事の配分の仕方をできる、採用をすることがマネージャーに強く求められるわけで、「言われないことをやらないと怒られる」というようなことは古い日本の慣習として廃れていくでしょう。
4 IT技術的サポートの活用
そこまでやっても、どうしても「子供が急に熱を」という事態は起きるわけです。なお、私が昨年まで代表をしていた会社では、小さい子のいる男性社員が頻繁にこの理由で病院に連れて行ってそのあと近くの祖父母に預けるために半休を取得していまして、この「育児ママ(パパ)の活用策」という課題を本格的に考え始めたのは実は彼がきっかけです。なお、その時は制度の壁もあるので、実は親会社には黙って彼には「臨時シフト勤務」みたいな便法を認めていました。
この問題は、どうやっても避けられないし、彼のようにおじいちゃんおばあちゃんが近くに住んでいるような幸運な人も決して多くない。そのたびに有給休暇の半休を消化させるのか?ということは考えどころであり、アピールのしどころかもしれません。冒頭の女性も先週お話を聞いた時(ネタ探しにしてすいません)、「子供を保育園に送るのに、この時期(イヤイヤ期)早めに出ても自転車に乗車拒否することがある。そういう時、いきなり遅刻になる。」と私に実情を話してくれました。制度を考えるには、こういう「生の一次情報」を集めて考えなくてはならない。
実は彼は表に出て営業しまくる担当、というわけではなくデータ分析や管理系業務が中心の担当でした。会社のセキュリティルールや勤務制度上超えられなかったのですが、彼にそこそこ高性能のノートPCとリモートアクセスの環境を与え、電話やSkype,ZOOMで指示をすれば、通院時間は遅刻、あるいはフレックスの開始時間遅れとし、その他の時間は自宅等での勤務でもできなくはなかった。同様にメールでしか社内情報の共有が出来ていなかったが、それをスマホベースでSLACK等社内SNSで日ごろから共有することができれば(これも制度上できなかった)、もっと緩和できたはずでした。
この辺のがんじがらめのセキュリティルールによる「働く場所の制約」というのは実は最近の大企業では柔軟な組み立て方の障害になっていると感じます。ただ、中小企業はそんなうるさいことはないわけで、社長がその気になれば、そして性善説に立って業務指示できれば、できるはずです。
ここまで書いてきて思うのは、これは、子供のいる女性社員の問題というわけではなく、外国人、障がい者など様々な価値観とバックグラウンドを持つ人間の力を集めようと思うと、どうしても、このようにならざるを得ない、ということです。日本人、男性、終身雇用と人生をフルサポートする企業への数十年に及ぶ忠誠、という単一文化、そして需要の緩やかな拡大という恵まれた環境を前提として成り立ってきた私たち中高年のビジネスの世界観は、環境悪化の影響を最初に露骨に受けている中小企業からまず変わらざるを得なくなっている、ということなのだと思うのです。実はスーパーでは、こうした「女性の力」を活用することに先行して成功している会社があります。たとえば、ヤオコーは現場のパートタイマーに売り場づくりや商品セレクトの権限の一部を委譲し、成果が上がった場合には昇給や表彰という形でのメリットを与えています。これは消費者にもっとも近く、流行にも敏感な世代の力をうまく取り入れている事例ですが、これを、「スーパーだからできること」にとどめていてはいけないのだと思います。
また、今回は、「育児」をメインに書いてきましたが、実は歳をとると、育児と同じように「介護」という問題が社員には付きまといます。しかも育児は数年で子供は成長するのでニーズが変わって比較的働きやすい方に変化しますが、介護は延々続き、しかも改善するということが通常ない。私も親が80に手が届くようになり、その可能性を現実感を持って感じるようになりました。私の世代以上は、その責任を妻に、あるいは施設に押し付けて、自分は仕事だけをしていればよいのだ、と自己擁護して生きてきました。しかし、これからは施設も不足し十分な社会保障もない状態で家庭が負担しなければならない割合が増加していく(政策の流れは施設充実から在宅介護支援へと変わっている)中で、これは、おじさん方、あなた方自身の仕事と家庭の両立の問題でもあるのです。そして、その時、「成果はさておいてよい」ということは会社の管理者としては言えないわけで、「成果を犠牲にしないため、今までのやり方を調整する」ことが会社としてやるべきことになっているのです。
一方で解決していない問題もあります。主として社外が変わっていないことにより発生する問題です。たとえば、外交営業を担当する女性社員が短縮勤務体系の場合、顧客とのアポイントが夕方遅くにしか取れない場合はどうするのか?(お昼のタイミングで時間をいただけるうんと先まで待つべきなのか?)ということは営業というのが基本は相手に合わせる必要があるものであることが常識化している中で、相手にZOOMでお願いしますとか言えないケースが大半なわけです。
女性で外交営業センスのある方は私が知る限り実はたくさんいます。そうした方を活用するにはこういう場合はどうすればよいのだろう、ということは引き続き探っていきたいと思っています。
私は子供がいません。いろいろな事情がありますが、私自身が仕事の奴隷であり、仕事のためなら家族を顧みない人生を送ってきたこともその一因です。今ではすっかり見捨てられてあるいは憎まれているのですが、正直仕事と家庭の両立ということにもっと早い時期に向き合うべきだったと後悔しています。正月は義母と妻とが豊かな時間を過ごすことに全力を注ぎました。ただ、このことに関しては、そうした「道徳」ではなく、競争力のある人材確保上、そうしなければならないと考えています。