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ジョブ型雇用を準備する⑥結局私たちはどこへ向かっているのか?

これまで5回にわたり、日本の中小企業が「ジョブ型雇用」に移行するための準備をどのように進めるか?という説明をしてきました。その背景にあるのは、大企業はすでに実質的に移行しつつあり、中小企業もそれに追随しなければ人材獲得競争で負けてしまう、ということでした。

前回記事はこちら

過去5回はこれが「避けようのない厄災」であること、そして多くの涙を流すような軋轢を起こしつつあることを描写してきてしまったように思います。私自身、30歳の時に、同じことを書いていれば、「これは正義だ」と主張したかもしれませんが、50歳になった今、この移行期において同年代の企業人の友人知人が後半生に対応しなければならない変化の大きさには暗然たる気持ちにさせられるものがあります。

しかしながら、この変化は日本の会社、そして日本社会を確実に変えていきますし、それは日本と日本人がこの先、世界で経済的にも社会的にも名誉ある地位を占めていくためには必要なことなのだとも思っています。

本シリーズで概要をご紹介した移行準備の細かなテクニックやドキュメント作成作業の請負のご相談は個別にいただければ対応させていただくこととして、最終回の今回は、そうしたジョブ型雇用がもたらす「10年後の日本企業」「日本社会」をご紹介していきたいと思います。

1 女性、外国人、若者の活躍できる中小企業に!

メンバーシップ雇用では、「会社と人」「人と人」との「長期の関係」が前提にあります。それはたぶんに「従属的」ですが、それと引き換えに、長期の安定的な雇用と待遇が約束されるのです。そうでなければローテーション人事や、若年時の賃金の抑制に働き手が耐える理由がありません。

しかし、それは「会社の寿命が十分長くて経営規模が安定的に拡大」していることが前提となります。というのも「若い時の給与を年を取ってから、あるいは退職時に後払い(これにより長期雇用の動機付けをしている)」しているため、常に高齢層と若い人の割合を後者が十分多いように維持しつづけなければこの「約束」を守れなくなるからです。そうして人口減と政党鈍化、アジアとの競争の本格化ということを背景に「約束を破った」事例が早期退職、転籍という形で相次ぎ、誰も「メンバーシップ」を信じなくなったのです。

一方で長期、長時間の従属という関係性に従うこともできないし、従う気もない層もいます。外国人や従来の常識にとらわれない女性たちです。この人たちは、「うわべだけの公正、実力主義」に当初は騙され、我慢していたものですが、今となっては、その必要もなく会社を選べる状況に改善してきていますので、「自分のやりたい内容、やりたいスタイル」を積極的に選ぶという行動をとり、この人たちの力を借りたい会社は、それが可能な勤務体系、給与体系に移行することを選びました。それを見ていた若い層も、「なんだ、社会のルールと思っていたものは実はそうでもないんだ」と言い始めたのです。

2020年現在、中小企業の多くは、いまだに「男性優位」社会のままです。それは多くのケースで「変えられないまま今まで来た」ものであり、積極的に選んだわけでもなく、利益率や人材の補充の点で困っていないわけでもありません。本当に、あなたの会社の営業や、物流や生産は、男性でしかできないものですか?そして、女性や若手や外国人が「すぐやめる、根性がない」と文句を言っていませんか?女性でも外国人でも男性と同等の能力を有していることはすでに多くの事例が証明しています。それを少数派である日本人男性に限定するようなことをしては、補充や能力不足に困るに決まっています。

あなたが社員を選ぶように、働き手も会社を自由に選ぶ時代なのです。選ばれる会社になるために必要なことの一部がこれ、ジョブ型雇用なのです。

2 短時間勤務、副業、在宅など柔軟な働き方で大手人材を中小企業に!

上にも関係しますが、日本の労働制度は、法律の制約から「時間」に縛られていて、「時間管理」を必須のものとしていますが、21世紀の仕事は「成果」「稼ぎ」があれば、その身体的拘束の形態や時間は関係ないものがほとんどです。そして、今回の新型コロナウイルス騒動でも明らかになったように、「在宅でもできることがかなりある」わけですし、育児や介護の状況に応じて男女で短縮勤務や休暇を取って協力することが「良識」であり、若い男性はむしろ「自分も休んで育児に参加したいと思っている」という状況になっています。

あるいは、終身雇用や固定的賞与水準を保証できなくなった中、副業を認め、また副業を人材育成の一部ととらえている大企業が増えています。その副業の行き先は、「専門知識や人脈の欲しい中小企業、特にベンチャー企業(が大企業人材に人気)」が第一候補です。このような人材を戦力化するときに、あなたはどのような提示をしますか?時間分だけ支払いますか?そもそも何を期待し何を目標としますか?

その時に考えるべきは「人」ではなく、「組織」のあるべき姿であり、今いる人材で不足する「機能」です。そして、その機能を補うのに適した人材がいれば、それは週40時間のオフィス常駐にこだわる必要はないということです。

給与水準や福利厚生で大きな差のある中小企業はどうしても人材面で大企業にかないません。しかし、それを補う手段が現れてきているのです。その時に、やっぱり「時間比例」で報酬を決めますか?社内の長年勤めてくれている人と釣り合いが取れない、と悩みますか?

3 30代、40代、50代それぞれの学びと交流の場の創生

ジョブ型に変えたときに、「社歴という要素は全く関係ない」ということは、一見、高齢層にとっては既得権益のはく奪とも受け取られます。しかし、50代、60代になっても利益に貢献する働きさえできれば役員になったり、起業したりしなくても給与は維持できる可能性があるということでもあります。歳を取ると誰しも性能が低下するものですが、もともとの能力も、その低下度合いも「人によって違う」のも事実で、50,60でも現場でバリバリアウトプットする人が少しはいるのも事実です。現状では大企業はそういう人まで制度上不遇となってしまう会社が少なくありません。

もっとも大企業から中小企業に出向させられる人の中には、パソコンも満足に使えないし仕分けも知らない経理担当とかも(それも2人連続して)いた事例も現にみていますので、私はその「人によって違う」を過度に信じるのは危険だと思ってもいるんですが…

で、そういう人生を歩むには、やはり技術とか知識とかを勉強し続けないといけないわけです。その方法としては本が一番手軽ですが、大学で学び直す(かなりの金額ですが)ことも考えられるし、社外の勉強会に参加するような方法も考えられます。実は私も30代前半のかなりの時間と年収の2割以上をこれに費やしました。その時の動機は、「このまま中小企業にずっといても、大企業にいる人に経験や知識で追いつけないままになってしまう」という焦りでした。妻には今でもその時のことを文句を言われていますが…

毎日午前様だった時期にそれだけの執念をもってやれたことが今の仕事(中小企業を渡り歩いた私のマーケティングの実務知識は実務よりもむしろその場でのケースや他社からの出席者との交流の中で得られたものが多いのです)につながっているのですが、これは本来正しくないのであって、「原則は残業なし」で「勤務時間が終わった後の時間の何割かは家族、何割かは自分の未来に投資する」のが正しいのだと思いますし、社会人としての長い期間のその積み重ねで差が徐々に開いていく時代になるのです。

4 会社と社員の対等な関係

日本では、「会社が食わせてくれて当たり前」ということに加えて、「会社が家族のあれこれを祝ってくれて当たり前」、「会社が業務に必要な知識の研修を受けさせてくれて当たり前」ということを平然という人が若い人にも多くいます。しかし、ジョブ型雇用においては、「契約に定められた給与を払う」ことは当然のこととしても、それ以上の約束を会社が社員にする必要はありません。

それは、「内部人員で、能力とコストが見合う人材が見当たらなければ、より適切な即戦力を外部から探せばよい」からです。

日本では一人の人材に莫大な時間と費用をかけて研修を行うことがあたかも正しいことであるかのように言われていますが、これはジョブ型雇用の観点から言えば、「適切な人材を採用できていない」という人事部のミッション達成不良であるととらえるべきことです。もし適切な採用ができていれば、社内で行う研修は、コンプライアンスと内部統制(ガバナンス)維持を目的とした社内ルールの説明や法律改正時の社内の対応変更のための適切なキャッチアップなどだけでよいはずで、「研修」は個人の努力でなされる、その個人の努力に応じて給与が決まるというのがジョブ型の世界観です。

では「新卒」はどうするのでしょうか?

その「新卒」という概念自体がメンバーシップ型雇用から抜け出せていないことを示す言葉です。「新卒かどうかは関係ない」のです。「学校で得た実用知識とインターンシップなどで得た即応能力でポジションを決められる」のであり、そのいずれもないのであれば、誰でもできる仕事に回され放置される、というのがジョブ型の世界です。ですから大学は実務に即応できる知識を教える必要がありますし、個人は、専門性を身に着けるとともに、職業経験を積んでこれに備える必要があります。別に人生における教養系学科の価値を否定するわけではありませんが、そうした専門を学んだ学生はジョブ型雇用においてはその分野の専門職(例:ミュージアムの学芸員)のような非常に狭き門を目指すか、その知識の生きる官僚分野でもないと、結局インターン等で大学の知識とは別の実務経験を補う必要があるというのが海外での例からは見えてきます。

当然、「言うことに従順でハードワークできる体育会系が優遇される」というようなことはジョブ型ではなくなっていきます。体力は重要な能力の一部ですが、「体力」だけではだめです。組織をマネージする力は同じく重要ですが、それだけではだめで業務の基礎知識も必要ということです。

シリーズを終えるにあたって

最後に私がなぜ、こんなにジョブ型に興味をもって研究したか?について少しお話します。それは私が最後に勤務していた「株式会社光通信」の組織の強さの根源がこのジョブ型に共通する仕組みに根差していることを入社して間もなく気づいたからです。同社はすでに15年ほど増益を続けているのですが、その強さの根源は、人事評価や組織制度にあります。

一部をご紹介しますと、同社では、「ジョブ型」を公言しているわけではないのですが、役職者や担当者のミッションが明確にされ、成果に応じた昇降級や昇降格が頻繁に行われます。また、組織階層をできるだけ減らすことや組織設計が常に最適化されるように見直されています。ただし、新卒一括採用は人材補充のために併用しています。

同社では若い上司の下に年上の部下がノルマを抱えて配属されることは普通にありますし(私も上司はずっと年下でした)、だからと言って「ギスギスしている」とか「やる気を失わせている」とかいうことはむしろ普通の会社よりもはるかに少ないと思います。ただし、数字に基づく「実力主義」と「集団成功主義」という同社の2大原則を是認できない人にとっては「居たくない」会社には違いありません。

なぜ同社が新規事業を次々生み出せるのか?なぜ強い営業マンを輩出できるのか?はもちろん様々なノウハウを蓄積している、ということもありますが、その根源にあるのは、「常に競争意識と緊張感をもって部門の成果を追いかける」ことが必然である組織制度があるからです。

30歳ぐらいの時、旧態依然な中小企業に勤めながら、スクールで学んだ人的組織管理との差異に、「日本でもこういう会社が増えて行けばいいのに」と思ったものですし、自分が経営にかかわったときには、この要素をなんとか取り込みたいと取り組んだものですが、実は日本にも成功事例はちゃんとあったのです。

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