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便利なクラウドシステムが生かせない!

最近の総務、人事、経理、給与、法務といった分野のクラウド上で提供されるサービスの進歩はかなり急速であり、機能の追加競争も激しく主要なものは普通の会社では十分実用的なものとなりました。私のような新しもの好きには、webサイトを見ているだけで楽しいし、昔の高かったシステム、面倒だった作業が何だったのだろう、と思うほどに価格も安く、作業も軽減されています。

これらのシステムは典型的な業務フローや処理ルールを反映して構築されていることが多く、昔のERP営業でよく言われたところの「ベストプラクティス(これはベストではなく、ただのUSUAL(一般的な)だ、というのが私の持論なのですが)」をそこまで検討がきちんとしきれていない企業でも容易に利用可能にするものとなっています。これらのシステムに「承認」などの統制制度があらかじめ備わっていると、組織運営のルール化の際にとても助かります。若い方にはよくわかっていただけないかもしれませんが、業務システムを設計・構築するときに、工数がかかるのは業務の処理自体の把握や構造化ではなく、むしろ「帳票のわがままへの対応」と「承認フローが部署や業務により言うことがバラバラ」というところであるのが10年ほど前までの日本のSIの姿でした。

その上、「サーバーの維持・更新費用」や「ハードウエア維持人員」、「システムトラブルのストレス」から大幅に開放されます。(システムトラブルがないわけではない)ライセンス購入だとバージョンアップ費用がかかるのが一般的だったのですが、メジャーな提供元を選んでおけば当面はバージョンアップが自動的にされ続ける、特に管理系の場合法律改正対応というのが税制関連を中心に毎年のように発生するわけで、これが旧来のソフトベンダーの儲けどころになっていたのですが、これらのクラウドシステムは見事にそれが解消しています。

また、多くのサービスで料金が利用人数に応じた設定となっているため、比較的小規模な会社でも導入しやすい、というのは、今の私の中小企業の業務の合理化と生じた余力のマーケティングターゲットへの再配分、という仕事をする上でとても助かります。ついでに、多くのサービスがスマホ対応になっているため、どこでも業務対応ができる便利さもあります。

以上のような背景から、多くの会社では確認の上、今の手作業はもちろん、レガシーなサーバーにインストールされたタイプの業務システムを低価格の新興勢力のクラウドサービスにリプレースしていく、ということをお勧めしています。

 

■単純に導入すればよいというものではない

ところが、最近いくつか、単純にお勧めすればよいというわけでもない事例に出会いました。いずれも中小企業の事例です。私にとっては仕事があってよかったとも言えますが。

一つ目の事例は、経理系なのですが、経理担当が退職して税理士さんに伝票を提出しながらなんとか日々の業務を専門外の社員の方がこなしている、という会社がありました。月次決算どころか年次決算も時間がかかって、財務計画の立案に支障があるため、私よりも全然優秀な銀行出身のアドバイザーの方がクラウドサービスの導入と初期設定の外部依頼等でこれを改善しようと提案してくれました。それ自体は良いのですが、本当に大丈夫かなあ、と思っていたところやはり盲点はありました。それはアドバイスする立場にある私にも責任があるのですが、年末調整の準備が漏れていました。何をシステムで実施しなくてはならないか?はシステムは教えてくれないのです。実は慌ててその会社様の給与管理システムで前年状況やシステムで対応できる範囲を確認すべく代理でログインしたら、「今月は年末調整の準備をすすめましょう」というメッセージが表示されていました。ただ、知らない人には、その文字列は対応のトリガーにすらならないのです。管理系には、こうした「業務カレンダー」事項がたくさんありますが、それの把握をする人は結局必要なのです。

ほかにも、会計基準を統一するとか、同じ請求書でも前請金なのか、売上なのかを見極めるとか、結局「知っている人がいないとできない」という業務はたくさんあります。そこを用意することが難しい場合には安定化のためには結局専門家への丸ごと委託という方法を用いざるを得なくなる、ということに陥り困りました。私も漠然と眺めていないで、もう少しコントロールする意識がいるな、と思いましたし、経理の一部業務は指揮管理だけで実務はこれまで部下任せで詳細を知らないということもあるので(この年末調整も実はそう)この機会に勉強しているのが実情です。

 

二つ目の事例は勤怠管理や有休管理を便利にしもっときちんと管理しよう、というケースでした。この分野もずいぶん便利になったジャンルです。ただ、この問題の本質は、データを取得して残業代を計算することではなく、休暇や残業について申請と承認の流れがきちんとしていること、それを正当に受け付けながら社員とコミュニケーションを図り、同時に効率アップを図る「所属長の責任意識」にあるというように私は思っています。つまり勤怠がキチンと管理できていないというのは、「システムの問題」ではなく、「管理者がどのようにメンバーをまとめ生産性を上げていくかの問題意識」が根本にあることが多いと思うのです。

このようなケースでクラウドを導入しても、部長さんが部下に何か聞かれて「しらなーい」と答えているようでは手間だけ増えて何のためだったのか?(法律上最低限怒られない仕組みを作る、ということを除いて)ということになりかねないと思うのです。というわけで今日は朝から「勤怠管理マニュアル」を作成していました。

 

システムは確かに便利です。しかし、システムの対象とする業務の目的や流れ、例外処理などを知らないまま、それを導入してもさらに混乱を増す結果になりかねません。結局業務設計と担当者教育というところは残るわけで、しかもそこが出来ていない、ということを、今それができていない経営者はわかっていないのです。必要性がわかっていないからできていないわけで。

しばらくは私の仕事もなくならないで済みそうです。

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