大きい会社は盛んに「プレスリリース」を出して、他社との「協業」で新しいことをやる、と発表しています。自社にはない販路、技術、ノウハウをどうやって取り入れ拡大していくか?というとき、昔、というのは20年ぐらい前までは「なるべく自前主義」ということが多くの日本企業の思考の前提にあったように思います。
実はそのころも、企業買収(M&A)というのは行われていました。私も同業他社から敵対的買収をされた会社にいたことがあります。ただ、多くの経営者の間にはこうした手法は「不正常」と思い込んでいるところがあったように思います。私のその「誤った勤勉奨励感」を払しょくし、いろいろな実務テクニックや修羅場体験談を授けてくれたのは、元大手証券会社系の投資顧問会社の社長からその会社の役員になられた方なのですが、その方に言わせれば、「自社で整備するなんて、できる確率も低いし、何年もかかる。そんなものを株主は待ってはくれない」ということでした。ずいぶん乱暴な人だなあ、と思っていたのですが、時代が彼に追い付いたのか、今ではそれが世の中の常識になってしまいました。
【本当は中小企業にこそ、外部との提携は必要】
こうした他社との提携は大企業よりも中小企業の方が遥かにニーズが高いはずです。多くの中小企業は「一芸に秀で」「限られた市場や限られた取引先での特徴」を強みとしていますが、多くの場合それ以外を知らないからです。こうした会社の経営者の方と話しているとその分野にはさすがに技術も取引先も詳しいのですが、世界が狭いな、と感じることがあります。
そうした会社は、たとえば、違う販路を得意としている会社がその会社の商品を売ってくれるだけで、あるいは、その販路に優れた他の商品を持っている会社があり、その商品を合わせて提案するだけで実は売り上げが大きく伸びることが起こり得ます。もっといえば、そういう組み合わせがきっとあるはずであり、まずはそれを探すことが業績に一服するのによい方法だと考えています。そのため、そうした先を探すこと、そして橋渡しをし、共同プロジェクトを具体的に走らせることを弊社では主要な事業の柱としています。
ところが、中小企業はこうした合従連衡には概して消極的です。その理由は「よくわからない、知らないから怖い」というようなものに近いように感じます。具体的には買収のような全面的なリスクを負うのではなく、リスクを限定してそのうえで成功確率を如何に高めるか?あるいはリスクを限定的にするための取り決めをどのようにすればよいか?というような実務知識や経験がないためであると思います。
【協業のパターン】
まず、協業にはいろいろな方法があります。そのパターンと特徴を整理します。
1 買収 相手の会社の株式の過半を買い取り、相手の会社の経営権を握ります。ただし、健全経営企業のオーナー経営者にはなかなか受け入れられないことでしょう。相手に潜む瑕疵への心配もありますし、買収後の相手の特徴を生かしながら統合することも大きなグラウンドデザインと細かな計画が必要であり難易度が高いといってよいと思います。
2 資本提携 1の柔らか版で、片方、または双方が相手の株の一部を持ち、取締役の取締役会への送り込み(これをやらないケースもある)や、社員の出向、販売や製造での協力などを通じて協力関係を強化していく。
3 契約に基づく業務提携 2のような資本のやり取りはないが、特定の業務について契約に基づき相互の販売や開発について協力する。具体的には、販売コミッションに関する契約や開発委託契約などが結ばれ、多くの場合、「定例ミーティング」が設けられる。
4 合弁会社の設立 2社以上の間で特定の事業を行うことを目的として新会社を設立し、そこに双方が出資し、その事業の目的にあった社員を送り込み事業を行う。
多くの経営者の方にとって、第一感でこれしかない、という選択肢は3の「業務提携」でしょう。ただ、思い起こしてください。こうした「提携話」あるいは、実際にそれに基づいて結んだ契約書は過去にもたくさんあったけど、実際にはほとんど~たぶん95%以上~身を結ばないで自然消滅したものがなんと多いことか。そのたびに営業も管理も結構な手間をかけたのに全然実を結ばないことが、「外部のノウハウを積極的に取り込む」ということに気が進まない本当の理由ではないでしょうか?
【なぜ多くの業務提携はうまくいかないのか?】
私が知る限り、多くの業務提携がうまくいかない理由は、「そのことに責任を有し、そのことだけを考えるチームがない」ため、新しいことから逃げ、既存の業務を継続してしまうことにあります。そして、担当者はいうのです。「既存業務に追われていてやる時間がありません。」それが相手方でも起きていて、最初のうちは、「週に一度の定例会議、持ち帰って宿題をメールでお互い報告」だったものが、2週に1回になり、1か月に1回になり宿題、報告も散漫になる。ここまでくるともう終わったも同然です。
本当に会社にとって必要な業務提携であるならば、このような「兼業」は避け、相手方と席を並べて四六時中、そのことを考え議論し、一緒に行動する環境を作るべきです。逆にそこまでの覚悟がないならば、私は、社長に「その提携は本当に必要な事ですか?」と問いかけたいです。中小企業は資源が限られています。その手間をもっと他の戦略中心に集中投下するべきです。
【合弁方式のメリット】
そう考えると最後の4 「合弁会社を作る」というのは世間ではあまり優先度高く検討される傾向にありませんが、ある意味合理性があります。
まず、双方のこのプロジェクトで負える、もっと言えば頑張る前提で最悪棄損してもよい最大額を双方の出資額として合弁会社に入れればよく、その出資額がなくなったらその会社は解散してしまえば責任と金銭的な損失リスクは明確に限定されます。(子会社が勝手に金融機関から借入しようとしても親会社の保証が必要になるので、そのリスクもありません。)
そのうえで、その会社にその事業に適した人材を双方から最初は出向させればよいのです。机はどちらかの会社の空きスペースに並べればよく、別のスペースを借りる必要などありません。(賃貸の場合、ビルオーナーに同居申請がいる場合がありますが、昨今新しい出資先が同居するのは普通のことです。)コピー機も電話機も机も新しく買う必要なんてなく、今あるものを借用し、適用な基準で賃料と合わせて使用料を払えばよいのです。(これを不適当な額にしたり、免除するとたとえ子会社でも、税務検査で利益供与といわれて課税対象とされる可能性があります。)
「お金を出す」という形をとると途端に経営者の心理的ハードルが高くなるのはわかります。しかし、目的に対する合理性はこのようにあります。社内で業務提携でやっても、うまくいかなければ実際には、その労務費の無駄は資本を食いつぶしているのは同じなのでそれを可視化して成果と撤退基準を明確化する、という意味でこの方法はよい方法です。
会社も今は株式会社ではなく、合同会社を使ってコストを抑える方法もあります。ただし、合同会社の場合、配当に関しては別途出資者がきちんと出資比率に応じたものとするよう契約で取り決めておく必要があります。
【合弁方式でしかできない人材育成】
もう一つ、この方法には若いリーダーに経営体験をさせる、という効果があります。おそらく、その「期待の提携」を任せる人材は、「将来の幹部と期待される」人でしょう。その人に本体の「社長」「本部長」になるだいぶ前に、そのミニ版を経験させることができるのです。経営は知っているのとやってみるのとでは大違いなのは、これを読む経営者の方はよくお判りでしょう。常に瞬間瞬間自分の責任で判断しなければならず、それが損失に直結する。そのための情報もどんなに集めても不完全で、その中で最善と思われるものをできるだけ早く判断しなければならない。あるいは社員に不満の対象になる、お客様に全責任を負う。そういう体験はこの方法でしかできません。
双方500万円ずつ出資すれば、その会社は3人体制として、仮に売上が0円でも半年は持つでしょう。新商品開発というわけでなければ、0ということもないでしょうからもう少し、1年ぐらいは生きながらえるでしょう。その1年間でその3人は失敗して1千万円損失を出してしまうかもしれません。でも、その3人がそれぞれ帰ってその会社で一人前の口を利くようになれば、それでいいのではありませんか?
実際に行うとなると、契約書やら、設立方法やらは慣れていないと面倒です。あるいはwebサイトはどうする?最初のお披露目や営業スタートはどうする?そんなことはお手伝いしますので、ぜひお問合せください。
最後に申し添えますと、この話は、前の会社の上司の持論と、そのさらに前の会社での数々の無駄な契約締結を今になって反芻して書いたものです。当時は、「そうはいっても、お金出す話は相手にとってもハードル高いよな」と思いながら営業していましたが、どう説得すればよいのか、今になってようやく整理できたと思っています。