朝からこんなタイトルですいません。
家電店の情報関連商品バイヤーだった時、自分の信条と売上との間で、とても困ったことがあります。私はパソコンソフトも仕入れを担当していたのですが、その売り上げの3割近くが18禁アダルトソフトで占められていたのです。Windowsや一太郎、Officeがそこそこ売れていたのに、この割合です。都心のパソコン専門大型店で独立したアダルトソフトコーナーが作れるようなお店ならばそれ専用コーナーにしてしまえばよいのですが、郊外の量販店、それも奥さんと洗濯機見に来たついでに「パソコンコーナーも将来の子供のことを考えてみておこう。」ということを大事にするお店でオープンスペースに人気アダルトソフト(当時はリーフという会社の全盛期で)が平台に山積みになっているのはいただけない、と若い私は思ったわけです。
ただ、店舗にしてみれば、すでにファンもついていることでもありなかなか逃せるものでもありません。実際、同じ人が月に5本も10本も買って行ってくれ、しかもその人たちはヘビーユーザーでCD-Rディスクやらアクセサリー類も買ってくれる上得意様なのは私もお店でパソコンやソフトを売っていたので知っていました。でも、私はマーケティングの観念論が先立っているような若造(当時20代です)でしたので、私が以前売り子をしていた、住んでいた家の近所のお店にお願いして、一旦アダルトを除去し、その代わりそのお店に「シンフォレスト」というメーカーの美しい風景と音楽が収録されたVideoCD(この言い方も時代ですが)集を30集ほど仕入れ、CD売り場から借りてきた古いCD什器に前面出しして売り場を作りPOPを作り、職権を濫用?してそのお店のセールチラシに「パソコンの前で家族で世界の絶景を楽しみませんか?」というような宣伝を入れてみました。そうすれば、店の雰囲気は変わるかもしれない。家族みんなでCDを見に来るようなお店にできるかもしれない・・・いや、きっとそうなる。と思っていました。
コーナーを作ってしばらくお店に立ち寄ってお客様を見ていると確かに手に取ってみてくれます。滞留もしてくれています。しかし、売れ行きは非常によくありませんでした。アルバイト時代からおせわになっていた先輩(といっても私よりも年下なのですが)のYさんが、「定着するには少し時間が必要でしょう。」と言ってくれるので、様子を見ることにしました。けれども1か月たっても結局状況は改善しませんでした。
私は、版元さんへの毎月の詣でを欠かさずするなどして、書籍コーナー(それでもアスキーだけは取り扱わせてもらえなかった。)を充実させ、入門書を増やして、キータイピングレッスンソフトを山積みして大会を開いたり、ポンキッキーズ(コニーちゃんのじゃかじゃかじゃんけん)やディズニー関連を立体展示したりして地元の家族がパソコンを始められる場所、というコンセプトを大事にしたかったのですが市場はそんなに甘くはありませんでした。そのあと、Y先輩とアダルトコーナーを復活させたときにとても恥ずかしかったことをよく覚えています。
マーケティングの本にはよくこんなことが書いてあります。「あなたがトヨタでも、GEでもあなたに市場を変えることはできない。あなたが市場に対応するのだ。」私は、郊外の家電店には家族連れでパソコンの使い方を話し合いながら選ぶ、という市場がある、それが都心の大型店とも、売上ランキング上位を並べる競合店とも違ううちの差別化要素、と思いこんでいました。それがWindows98、SEと発売されていく中で顕在化する時期だと信じていましたが、多くの売り場担当者は、「そうなるといいけど、全然そんな人は今は売り場にはいないよ」ということを見切っていました。私はオタク消費の力を軽視していました。その彼らの肌感覚を信じなかったことが一番恥ずかしかったのです。