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本当の理念とコアコンピタンス~チェンジマネジメント2~

新年は、弊社が考える「チェンジマネジメント」の要点をご紹介しています。これ、年末の四季報で予告した「チェンジマネジメントのカリキュラム」の準備を兼ねています。

時代に合わせて変えていく必要があり、それは往々にして制度の部分調整ではなく、人事、財務、マーケティングなどの抜本的な戦略の見直しを行いそれに従うものでないと、定着・実効性に問題が出ることが往々にしてある、ということを前回述べました。(こちら)

しかし、何でも変えればよいというわけではありません。そこには現に経営者が膨大な保証をしている借入もあり、長年勤めた社員も、供給に何ら疑いを持たずに待っている取引先もあるわけで、それらを一旦は維持しつつ進路を見定めなくてはならないのが、スタートアップとは異なる、それなりの歴史のある中小企業の難しさです。その時に、何をどのように考えていくか?というのが今回のお話です。

「その会社がもっている強みは何か?」


最初に弊社が経営者の方とお会いした時には、経営者の方が口にされる課題はこんなものが多くあります。「もう少し現場で考えて利益をきちんと確保できる体質にしたい」「なんか知らないうちに経費が増えて利益が減っているんだけど、これって体質改善できないの?」

いろいろお話を伺っていくときに、私が何とか探り当てようとするのは、「この会社が強いもの、利益の源泉はなんなのだろう?」ということです。一般的にはこれをコアコンピタンスと呼びますが、中小企業、特に零細企業の場合はまともにそう聞くと、多くの経営者の方は「特にないよ」かありふれた3,4の側面の「総合力」と言います。そして、実際に少し見ただけでは「経営者の人脈・信用」にほとんどの価値があり、特段社員にその価値がないように見えるようなケースも多くあります。しかし、その信用が構築されてきた過程を紐ほどくと、たとえば真っ先にリスクを負って中国に生産委託を実現したパイオニアであり、その過程で現場で苦労した社員がいる、とか、特別高い売り上げを誇る顧客、社員がいるが、実はそこには必要不可欠なニーズがあるとか…実際にはどの会社にも「存続できている理由」がそれなりにはちゃんとあり、磨いていないので輝きを失って自分たちでもわからなくなっていることが多いだけです。

そうした「コアコンピタンス」候補を見つけ出して言語化してあげると、経営者や当事者はとっても嬉しそうですし、自信を持ってくれます。ただし、それが本当に事業の収益の柱になってくれているか?というと、そこは前回お話ししたように、時代に合わせて変えていくことがうまくいかないまま、売らなきゃいけないという圧力や習慣によって劣化しむしろ赤字受注や工数増の原因になっているケースがあります。そして、不思議なくらい多くの場合、「案件処理に忙しいから人を増やしてくれ」という圧力を受けています。

その原因は、そのノウハウが公知化されないままに組織にブラックボックス的に存在しているため、他の社員にとっては「権威者が与えたルール」として扱っておけば責任は自分にはない、という対応を取るようになっているようなケースが代表的です。この現象は、特に公知化の徹底が難しく、人材のスキルに差がある中小企業では大企業に比べて出現しやすい状況なのです。そして、それが昔は効率的だったのに今はそうではないので、みんな忙しいし、みんな疲弊・徒労を感じているのです。

しかしながら、ビジネスフローの結節点は赤字の原因になりやすく、同時にかつてはその会社の重要要素であった可能性が高い(だから、それを複数サービスで使いまわそうとした)点です。だから、「赤字の原因になっている箇所にかつて輝いていたコアコンピタンスがある」ことを疑うのです。

一方「理念」は?

一方、多くの教科書で冒頭さだめるべきとされている「経営理念」や「ビジョン」は私は、話を伺い、整理の手がかりにはするものの、特に中小企業では最初の段階ではそれほど重きを置いて定めることをしていません。重要でないと思っているわけではありませんで、本当はここから一貫性を維持して整備することが近道なのですが、この後回しにはいくつか理由があります。

一つは、当初からそんな大上段に構えた話をしても、関心も経営リテラシーもない社員には「お経」にしか聞こえない、ということです。この「お経」というのは我ながら良い例えだと思っていまして、仏教の法典にも人生の真理がいろいろと説明されている(のだと思います。通読したことはありません。)のに、誰も何を言っているかわからない、けどまじめに聞いているフリをそこにいる全員がしています。お坊さんの方は、自分は価値のあることをしたつもりになっていますが、実は参加者にとっては時間の無駄で全く無価値、仕事にも生活にも役立っていないわけです。

こういう賢い人の言説がかつてはありがたがられたのに、空論化しさらには迷惑がられるというのは実は様々な事例があります。最近では新聞の社説やテレビの論説委員がこの域に達しています。

そうしないためには、社員にとって必要性が感じられていること、そして意味が通じるようボキャブラリーや基礎知識があることが必要になります。その状況になるまでは、大上段の理念であるとか、社員主体の行動規範の策定や中期のビジョンの作成は言葉遊びでしかなく、経営者が「仮設定」し、その意味を説明し、それをみんなで検証しながらやがては皆さんで修正していきましょう、という立場に立つのが良いと思っています。

もちろん、私と経営者の方とは、「おそらくこの辺が当たりなんだろう?」という勘を持って「仮設定」します。そして、具体的な課題に対処するにあたって、課題の背景にある制度の問題、そして制度が何に依拠して何を目指して策定されるべきなのか?ということが実はこうした理念やビジョンと切り離せない問題であることを幹部やニューリーダーに経営者が語ることで徐々にこの「お経がわかるようになる」状況を作ることが、「経営なんて考えたこともない」という現場で育ってきた社員が参加できる環境を作るには一番良い方法だと思うのです。こんな方法を採用できるのも、経営者が見渡せば社員が目に入るところにいる中小企業だからこそであり、大企業ではこうしたやり方は難しいことです。

理念やビジョンは後まわし、のもう一つの理由は、もっと現実的であり、早めに改善して実際効果が出た、という実感を組織内に見せて行き、この道が正しい道であり、自分たちが前進しているという実感を社員が持たないと、徐々に抵抗が増え改革は早晩潰える、ということです。その時にここに時間と労力を社員に割かせても飯のタネにはなりません。「成果が上がって給料があがる」ところから実現しないと、社員の支持が得られないのです。

今、社員と言いましたが、実はこれは経営者に対しても同じことが言えます。経営者は理念やビジョンが大事なことはいろいろなところで聞かされてわかっているわけですが、それでもそれが優先度が高いとは思っていないことが通常で、徐々に悪化している、あるいはすでに危機に瀕している貸借対照表を改善する処方箋をくれ、と当社は言われているわけです。そこに、理念だのビジョンだのというのは多くの場合「体質改善のため、運動習慣と食事を改善しましょう」と言っているようなものです。大ごとになる前に多少苦くてよく聞く薬を欲しいという当座の要望に答えつつ、小康を得てからそちらに向かわないと小さな組織で限られた時間の中で効果を実際に得ることはできないのです。

MBA系の経営戦略の授業では、経営理念に始まる戦略の一貫性の説明が多くの場合最初に行われるため、少し聞きかじった人は一貫性のある戦略をきちんと整備するには、その順番でやるのがよいと主張する傾向がありますが(社員の受け入れるリテラシーがあれば、その方が工数が少なくて済むというのは多分正しい)、現実の中小企業の生きている組織の中ではそこは一工夫いりますよ。

というわけで強みがとりあえず明らかになったら、それをどのように変化につなげていくか?ということを次回は取り上げていきたいと思います。

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