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オープンイノベーションの現実と対策①社内起業はなぜ失敗する?

12月となり流行語大賞の季節ですが、ビジネス界では今年はあちらこちらで「オープンイノベーション」という言葉が大きく取り上げられる一年でした。オープンイノベーションとは、もともとの定義は別として今の日本で言われている文脈では、大企業が新規事業を起こす際に、社内だけでなく、社外の資源をうまく活用して、社内だけではできなかった大きな前進を実現しよう、という方針を指しています。詳しくは次回以降また、解説します。

でも、これって大企業のいままでの「外注」「調達」とどう違うのでしょう?うまくいかない原因のかなり大きな一端は、運用制度も評価制度も、「外注」「調達」を用いて、「外注先監査」「検収基準での完納」を要求するこの点にあります。でも、もっと大きな、そして根本にある原因は、大企業の社員の心的態度の問題、そして、パートナーとなるべく挑む中小企業の側の「大企業の事情も理解していない」そのズレにあります。双方をよく知る私に言わせれば、「うまくいく仕組みで始めていない」から最初っからボタンを掛け違っているのです。今回は、そんな状況を何回かに分けて明らかにして、対策を提示していきたいと思います。

一回目の今日は、まずは「イノベーションできない」わかりやすい事例で「社内起業」について取り上げたいと思います。

まともに立ち上がるのは10個に1個。会社の新しい柱になるのはさらにその10分の1

この記事を書くにあたって、企業勤務時代に社内起業的なことをどのくらい関わってきたのか?(責任者、あるいはすくなくとも中心メンバーとして)をリストアップしてみました。記事の信頼性にもかかわるので、ここでご紹介してみたいと思います。私は生涯で、「統合」「撤廃」仕事が多いと自分でも思っていましたが、それでも「新規」も結構やってきていることを改めて実感しました。

  • 家電量販店(上場)にて、再生トナー回収・配送をベースにした法人訪販「御用聞き」事業の新規立上げ
  • 家電量販店(上場)にて、「文房具事業」「書籍事業」の新規立上げ
  • 家電量販店にて、PC店頭即応修理事業の立上げ
  • ソフト開発会社(上場連結)にて、インターネット地図サービス事業の立上げ(ベクトル配信を含む)
  • ソフト開発会社(上場企業連結子会社)にて、町丁目単位での各種データのリアルタイム販売事業の立上げ(選挙対策商品)
  • 中国現地法人(上場連結子会社)での現地での業務請負の立上げ(たちあがらなかったのですが)
  • SP会社(上場企業連結子会社)でのIP関連事業の立上げ
  • SP会社(上場企業連結子会社)での駅発車メロディの広告活用事業の立上げ
  • コスト削減診断・導入支援事業の立上げ(これも上場連結)
  • 中小工場向け電力販売事業の立上げ(正直うまく立ち上がらなかった)

このほかに、メイン担当ではないがちょっと関わった、ちょっと参加したというレベルのものがこのほかに15、初期段階での市場や技術、資源や法規制の調査準備を進めたがその段階で止めたというものが25ぐらいありました。私自身、臨時のM&A対応や経営改革対応が多かったように感じていたので、これを整理しながら、結構多いなあ、と思いつつ…そう…失敗ばかりだなあ、私の人生!と再認識しました。このなかで年商一億円に達したのは…50個もチャレンジして…2つしかありません。

これは私が無能だったのでしょうか?もちろん、もう少しうまくやれたはず、という後悔はたくさんありますし、自分の人徳のなさを嘆く部分もありますが、多分実際には、そうではなくて、誰がやっても成功確率はこんなもんです。経営には時間的制約がありますので、うまくいかなければ、辞める決断も大事です。やめるべきと自分から言ったものも相当数あります。

実際、私は年商数千億円で毎年100以上の新規事業を開始する企業グループの「事業開発部」にいたことがありますが、そのような「インキュベーションセンター」をもって、豊富な経験を持っていた会社であっても、なお事業として走り出せる確率は1割、2割、その中で3年持つ事業は立ち上がった中からまた1,2割がいいところです。つまり、「大部分は失敗する」ことを前提にしなければならないのです。もちろん、ある程度のスキルの差はあるにはありますが、ブレイクスルーのポイントを見つけられるかどうかには、「運」も多分に影響しています。成功するかどうかは、確率的な事象でもあるのです。

ここから得られる知見は次のようなことが必要だということです。

  • 失敗する可能性が高いことを前提に、失敗をマイナスとしない評価制度
  • 残るものはごく少数であることを前提に、年に数十トライアルする方針と資金と人材の配分。
  • 調査段階、テスト段階、事業化段階程度にフェーズを分け、調査段階を専門に行うマーケティンググループと、テスト段階移行を任せる事業リーダーの育成、確保。

もちろん、どのような事業を選ぶか、ということはそれ以前に重要ではあるのですが、これは別の機会にまた述べることにします。

そして、評価制度も人材育成も、大企業の中で既存のものを改良し、売っていくことを前提としたものではうまくいかないのです。部署なのか、子会社なのかの形態は別として、その事業リーダーは、今までのすでにある事業の中で人もお金もノウハウもある状態で仕事をするのではなく、時間が限られた中で、何もないところから優先順位をつけて自分で調達しなければならない、という経験を多くの場合、人生で初めて経験することになるのです。そんなタフな人材を年間数十人も確保していかなければ新規事業は立ち上がらないのです。

その辺については、一年前のヒット記事であるこちらでも触れていますので、参考になさってください。

1億円、たったそれだけ?

先ほどの私の事例では1億円を超えることに成功したのは2例しかない、と告白しましたが、大企業のグループの新規事業としては、売上だけではない部分はあるにせよ、1億円未満では失格で、ほめてもらえるのは数億からでしょう。

いや、私自身その「1億円未満では失格でしょう」という大企業(親会社)の感覚が分かったのは実はだいぶ年月がたってからでした。まず、その最初のゴール設定で中小企業と大企業との間ではずれていて、中小企業では、頑張ってそこそこ動いているという感じを持っていても大企業の事業評価としては、そうでもない、ということが実際に起こっています。共同プロジェクトに参加してみると、その温度感の差に腹が立つこともありますし、相手方のメンバーの居心地の悪さを気の毒に思うこともあります。

実際、人を5人専従させれば、それだけで粗利で5千万ぐらいは必要になるわけですが、新規事業で0から始めて5千万、1億円の売上を作るというのはやってみると大変なことです。しかし、仕組みに乗って稼ぐ10億円と、0から力づくで作る1億円では、前者の方がはるかに楽なわけで、大企業のほとんどの人はそちらのベースで動いていますし、新規取引先開設、内部統制などの全社ルールもそちらのルールが新規事業にも適用されます。それは連結決算という仕組み上仕方がない(義務である)面も制度上あるのですが、新規事業の「ぐちゃぐちゃ覚悟で白兵戦を挑む」という戦いに事前に水を差してもいるのです。

1億円がゴールの事業を大企業で立ち上げる必要はないと思いますが、途中経過としての1億円まで到達することの新規事業の大変さを許す仕組みは必要です。具体的には、同じ1億円の尺度では評価しないで欲しいし、計画通りの赤字は認めていただかないと担当者は困ってしまいます。それは5年も10年もかけてよい、という時間軸の問題ではなく2,3年の軸で、人やスキル、販路を整備する際の、既存事業とは異なるお金、人の使い方で柔軟で機動的な対応という面での必要性です。

「勝手にやらせろ」 と 「営業面で応援しろ」

新規事業を始める時、販路なのか、商材調達なのか、あるいは技術なのか…何かしらは今の社内の強みの一つ以上を再活用することを前提に事業を企画することが多いはずです。しかし、実際にやってみると、ほとんど誰も協力してくれません。これは大企業グループであっても同じことです。主な理由は、

  • 「人の部署を応援するほど余裕がないし、自分の評価にならない」
  • 「まだ不完全でいつまで続くかわからない商品を自分の得意先に奨めて自分が泥をかぶることになるのは嫌だ」
  • 「どんなメリット、デメリットがあるか新しいものはよくわからない」

の3つぐらいですが、表面的には3つ目の理由を口にして言い訳しますが、販売用資料を作り勉強会をしても事態は好転しません。それは、1、2番目の理由が大企業では大きいからです。したがって、大企業においても営業部門は新規事業部門自体で作ることが結局必要である、というのが私の考えです。これにはもう一つ理由がありまして‥‥新規事業においてマーケティングターゲットを変える、絞り込む、ということは非常に頻繁に起きるわけで、多くの場合、既存事業よりも狭いし、既存事業と異なる領域が実は正解らしい、ということが見えてくることもあります。親切で協力的な他部門の人が紹介してくれる顧客が実は全然ターゲットではないのに、心情的には断るに断れない、ということも頻繁に起きる新規事業部署の困りごとなのです。

私が経験した中では、社内のほとんど全ての事業が中小零細向けの事業であるのに、私が継承し責任者になった事業は実は年商100億円以上の大企業向けであることが明らかになった、ということがありました。その程度の「勘違い」は新規事業立ち上げではよくあることであり、「それでも売上伸びるんならいいんじゃないの?」と構えることも必要です。ただし、その場合の売上は1億円程度ではだめですが。それでも新規事業が売れてきて社内で目立ってきて、自分の数字になるとわかって来ると、既存事業部門もとたんに協力的になるものです。

新規事業を立ち上げる時、一番面倒でネックになるのは、既存事業も管掌するライン上の上司や他事業との「調整」です。自分は新規事業の成功だけを考えているのに、上司はそうではなく、会社の他商材を新規事業で売りたかったり、他事業の顧客内の自社のシェアを拡大したかったり、あるいは社内の人材の異動先であったりといろんな「余計な事」を考えていて、「新規事業の成功を第一」には考えていないのです。(私の上司がそうだったと言っているわけではありません。念のため)

また、その上司の成績評価の9割は「既存事業を伸ばすこと」であり、新規事業はかなり小さな比重であることが通常です。エース級の管理職と営業マンを現在の主力事業部に貼りつけるのも同様に多く、会社の安定性を維持する前提ではそれは当然のことです。このような理由から新規事業の責任者に見えているものと、上司の見えているものもだいぶ相違していて、情報量の違いからそれがなかなかすり合いません。

第一多くの会社では、そして、会社から新規事業の枠を与えられている、とは言ってもやはり、損をできる範囲は当然限られています。おそらくは、調査段階では100万円以内。テスト段階では1000万円というようなスケール(もちろん人件費込み)感で進行し、そこをクリア出来たら、複数人を投入する「事業化フェーズ」に入れる、というフェーズ分けが私は適当だと思っていますが、この程度は要領を得ないとすぐに使い果たしてしまうのです。

新規事業を立ちあげるための仕組みづくりを

大企業で新規事業がなかなか立ち上がらない、という「言い訳」をいろいろ書いてきましたが、ではどうすればよいのでしょうか?私の大企業向けの提言は甲です。

  • 新規事業を立ち上げる調査からテストまでを専門に行う「新規事業開発室」を他事業部から切り離して設ける。ここに、マーケティング論とある程度の営業、技術のできる「カロリーの高い」人材を2名程度配置し、年間100程度の調査、10程度のテスト投入をミッション化する。
  • そのテーマは会社の開発の方向性の中から社内で集める。
  • 新規事業開発室には、テスト段階で関連部署から「リーダー候補」をまず、3か月間異動させ専従させる仕組みを取る。これは社内公募でもよい
  • その「リーダー候補」になりうる人材を35歳以下から毎年20名、5年で100名確保する。そのリーダー候補とはどのような人物か…というのは次回のトピックスです。
  • 標準で調査は3か月以内、テストは9か月以内で結論を出す。(継続調査という結論もありうる)調査は100万円(人件費以外)、テストは1000万円(人件費込)という「標準」を設ける。
  • 売上が10億円に満たない事業計画しかプラニングできない事業は最初から手を付けない。
  • そのあとの立上げ期は半年ごとに目標値と撤退ラインをあらかじめ決めながら、ダメと判断したら素早く撤退する。
  • 新規事業立ち上げの失敗は、人事査定上のマイナスとしない。
  • 説明等で興味関心を引いたり、顧客像の理解に協力をもらうことはしても、既存事業部門の協力を当てにした事業計画にしない。

実は新規事業開発室には、M&Aやファイナンス、子会社化などのプロセス管理などもこのほかに発生します。最近はやりのCVCもこの文脈で位置づけられるべきものです。


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