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ストックエコノミーを実現する⑤~お金の払い方が違うだけ?

社長への報告まであと2日、「インターネット接続事業への参入の事業計画」を命じられたオフィス家具メーカーの営業担当のAとN美は、自分たちがやろうとして検討いることが、「新商材の取り扱い」ではないことに気づいていた。

N美が、オフィス家具を回線とセット販売する、つまり、月額料金化することの検討結果を説明し始めた。

Topic5 月額制にする意味は何?

「オフィスの机やいす、それに資料棚やパーテーションは全部そろえると小さなオフィスでも数十万円かかります。これを「分割払い」する方法としては、リースやショッピングクレジットなどの方法があります。ところが、新設法人ではリースやクレジットの与信も通りにくいため、一括払いが多くなっています。これが現状の報告の一点目」

「うん、でも新設法人はそもそも2,3人、あるいは一人で始めているし、最近ではネットビジネス系は自宅マンションでやっているようなものも多いよね。それは数十万円もかかっていないよね。それに、新設法人に与信しにくい、というのは実は当社も同じだよね。たくさんデータを持つ金融会社よりも多くリスクを取ることが良いかというとそれは危ないよね。」

「そうです。それに、オフィス家具のうち、机や書棚などは、非常に耐用年数が長く、かつ同じ規格のものが沢山売れるので、当社だけでなく、アスクルなどの文具通販などでも基本デザインのものが格安で販売されています。それを買い取ってできるだけ長く使うのがお客様にとっては一番お得です。それを無理に買い替えろ、あるいはレンタルにしろ、と言ってもお客様にはメリットがありません。」

「そうだね。だから、買いもしないとわかっていて月末になると電話かけまくる、ということになるんだよな。普通の机やいすは増員でもしないと買ってくれないんだよ」


「そうなんです。定番品と私たちが呼ぶものを月額課金にしても、お客様にとっては何のメリットもなくて、リース会社との競争でしかないんです。そもそも、そうした今までと同じ『ものを売る』というところからでは、そこから抜け出せませんでした。」

頼もし気な口調でN美が続ける。

「お客様が新規開業するとき、あるいは新規に支店を出すとき、実際には値切りに値切られて販売店さんたちもぎりぎりで販売しているはずですし、それでもお客様が購入をあきらめているアイテムや商品ランクが実現するものでなければ、お客様にも協力販売店様にもメリットがありません。つまり、この仕組みを利用すれば、『本当はお客様が実現したかったけどいままではあきらめていた快適、かっこいいオフィスが実現できる』ということです。」

「それはなんとなくわかる。いままで調べてきたソフトウエアでもサービスでも、基本機能のほかにそれを活用するためのデータであるとか、拡張的な機能が用途の拡大にあわせて選択できるようになっていたよね。だから、ユーザーは便利に活用できて利用範囲を拡大したいと思うと、そのオプションを利用してくれるようになっていた。これをお手本とするとさ、今度のオフィス家具の場合、『基本」はなんなんだろう?基本に満足してもっと、いろいろなものを使いたいってどういうことだろう?オフィスは面積は有限だからね…。それに…」

「返品ですね」

「そう。ソフトウエアは1件当たりの限界費用が非常に安い。最近ではダウンロードやクラウドが主流だし、顧客の登録作業すら顧客側がやってくれる。でも、家具は『仕入費用、製造費用』があるし、輸送・組立費用もあるし、月額利用ということで返品時の輸送・分解費用もある。」

「実費は負担してもらいましょう。でも、返品は、原価回収付近を過ぎたら可にしましょう。それにその実費は直接ではなく、「月額料金に含む」にしましょう。その時に、『同額以上に交換』ならば、です。つまり、無償アップグレード。もし、完全終了の場合は、「返品手数料」をもらうという形ならどうでしょう?」

「月額料金に含んでしまい、その結果頻繁に変えられると、原価回収がやっとになるよ。」

「それでもいいんじゃないですか?本当にその人がいろいろな当社製品を試してくれるならば。お客様との接点を増やす、ということが当社にとってはとても大事なことだったのですから。それに返品交換を意味もなく頻繁にしても、その会社も社内の作業が嵩んでしまって意味ないですよね。本当に気に入ったのが出来たらしばらく使うはずです。あとは…季節ごとに模様替えとか…それならば、保管料いただいて保管してまたご利用いただく、という形にもできます。」

「うーん。正論だけど…返品された商品はどうする?」

「清掃してまた、貸すんです。少し安くして。一応原価回収できているわけですから。」

「そこに人手をかけるのか…物流センターでやるか?」

「ちょっとそこは自信なくて、中古品として販売するとかも考えたんですが…あくまでも『ブランド体験』だと思うんですよ。それでほしければ新しいのを買うか契約してもらえばいいと思う」 

「ブランド体験!オフィス家具なんてどれでも同じという日本の企業の思い込みを打破する!というわけだ。そして、一生の顧客化。そんな感じか。逆に言えば、ベーシック商品を体験してもらう意味はないか」

「はい!」

「でも、肝心なことがある。ベーシックや机や棚は買った方が得、だったよね。じゃあ何をやるの?」

「対象商品はアイデアがあります。一つは「会議室・応接室」です。なかなかいいものを選ぶのに最初は勇気がいりますが、外部の方が来るということで見栄えも良くしたいし、会議に使う機能のため比較的ニーズがアップグレードしやすいです。会議室内に必要な機能もたくさんあります。そして、「通信」と関係があります。」

「通信と…電話とWiFi環境のことか…他社商品だけど、プロジェクターとかポインターとかも会議室だとあるな」

「もう一つは、さっきの返品の件と関係があるのですが、『ブランド体験』ということとも関係があります。『統一感のあるデザインのオフィス』にしたくても費用面からなかなかできないじゃないですか。高い机やいすは結局大企業でないと売れません。それは月額課金にしても同じこと。」

「うん」

「だったら、演出に使う小物だけをレンタルすればよいのでは?」

「それは、既存シリーズに小物類も拡張するということ?たとえば、傘立てとか、カタログラックとか、コート掛けとか?」

「たとえばそんなものです。ホントは販売店さんが提案したいのに、なかなかできないでいるものです。それをまず、会議室から始めて徐々にオフィスにも展開していけばいい。」

「デザインの統一か…ブランド体験か…それで一度統一したらそれが快適になって使い続けてくれるか…、ということだね。つまり、簡単にいえば『レンタル』だ」

「なんか…そうなっちゃいますね。いまいちですよね…レンタルとどう違うんですっけ?」

「それは君が言った通りだろ」

「えっ?」

「『収益ではなく、つながり』と君は繰り返している。そして、『ファンになってもらう』たとえば、2か月に1回顧客に利用状況を聞きに行き、利用が芳しくなければ、よりニーズがあるものに入れ替えていく。好評なものは、デザイン性の高いものを提案していく。あるいは、「応接室は定期的に模様替え」でもいいのかもしれない。応接室まるごと提案&レンタル。ものではなく、利用価値、もっと言えば快適な環境を提供する、ということが本質

「まとまりましたね。」

「いや、もう一点考えないといけないことがある。そのオフィス家具とネット回線ってどう関係があるの?全く別々のことなの?僕らオフィス家具屋だから、今朝から家具のこと考えていたらもう、回線のことどっか行っちゃってたし、販売店もそうなるよね。それでいいんだっけ?」

「そうですねえ…新設拠点ならいいんですが、すでに他社の回線を入れているところに、うちの回線に変えてもらってもそんなには安くならないですよね。家具単体で月額課金にしない合理的理由もないですから、回線契約を条件にするのもあくどい感じですよね…」

「いや、それでいこうか?ほかにいい案もないし。家具の月額利用サービスの利用条件は、当社回線の継続利用。本当はユーザーにとっての必然性みたいなものが欲しいけど」

「うーん。ここであきらめるのはちょっと悔しい。せっかく顧客本位で考えてきたのに。少しだけ料金上げてでも、会議室、応接室のWifiセットとかどうですか?会議室の家具から始める、ということだから…」

「技術的なことはようわからんので、あとで情報システム部に聞いてみるが、それで行ってみるか…時間も限られているからまとめよう」

「はい」

「しかし…オフィス家具、いやオフィス環境のレンタルって…どうやればわかってもらえるんだろう。それに…売れるんだろうか?」

(⑥社長の真意につづく)

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