最近は社外取締役の選任と取締役会の活性化ということの価値がとても重視され、上場企業では義務付けに近い形が要求されるようになりました。これは、「コーポレートガバナンス」をどのように確保するか?という観点からの視点が多いようです。アメリカや中国では、取締役と執行役は役割がかなりはっきり分かれています。日常の業務を執行しリスクを抑制し、計画した利益を達成するのが、執行役や主要な幹部の責任であり、取締役はそれらの実行状況やその実行が適切にコントロールされている状況が実現しているかを監視し警告の上、適切でなければ執行役を変える、という役割分担があります。私が中国で「総経理」だったのは、この「執行責任者」であり、この上に「董事会」という株主代表らによる取締役会に相当する組織があり、ここで人事と大方針、それに予算が決められます。
取締役会やその下部組織で本当に計画の立案と遂行状況がチェックされ、あるいはリスクコントロールがされていることを確保できる人材が内部登用で選ばれていれば何の問題もないわけですし、そういう会社も中にはありますが、私が見知った限りでは社外取締役がいるにせよいないにせよ、取締役会はお互いの傷を指摘しあわないようにし、責任の所在を不明確化して無思考的に継続する「グループシンク」やいい大人が同調圧力に負けて形骸化しているケースが多く、空気を読めない(そういう能力が実に低い)私など「そんなに言いたいことがあるなら事前にやっとけ」と取締役会で社外役員に言われたことすらあります。それが日本のそこそこの上場企業のグループ会社の現状です。
■中小企業にも社外取締役を
最近、オーナー兼社長に「社外取締役を招いてきちんと取締役会をした方がよい」と2件お話しました。2件とも嫌なのでしょう、返事は無言でした。
私がそう言うのはいくつか理由がありますが、それは上に記載した大企業グループの場合とは違うものです。
一つ目の理由は中小企業では社内のプロジェクト進行のリーダーがほぼ社長その人で、社内は誰も社長に指摘・注意ができないことが普通なわけです。私も中小企業に細かなコンプライアンスとかリスクコントロールとかうるさいことをいうつもりは全くありません。大企業に危ないことを押し付けられているのが中小企業で、それをきれいごとで済まされないと思っています。ただ、その中でも何かを成し遂げる、ということがとても難しい理由は、「いつまでに何を完成させるか」や「業績の計画に対しての達成状況とこれをどうするのか?」を報告する、という義務をそのプロジェクトリーダーである社長が負わないことが、なし崩し的に現状に妥協する状況を生んでいるのではないか?と思っているのです。その時に「うるさい社外取締役」がいて、「まともな報告をしなければならない」義務を社長が追っていれば、命じられた担当者も必死にならざるを得ませんし、不達成時に次までに何をするかを社長が報告するとなるとそれをやらざるを得ない状況を生むわけです。
もう一つの理由は、これも中小企業とお付き合いするようになって思ったのですが、オーナー経営者は付き合いの世界が狭く、しかもひろげようという動きが少ない中でその枠の中でしかものを考えていない、という状況を感じるようになったということです。新しい市場、新しい製品に挑戦しようとするとき、まず社長が新しい世界(人材、取引先、提携先)を社内に引っ張ってこなければならないのが中小企業の実情であるのに、それをどのようにするか、のノウハウがある人が少ないと思うのです。以前、「業務のプロと起業のプロ」でも記載しましたが、多くの中小企業では、社長は、「業務のプロ」であり、事業を立ち上げ拡大するプロがいない状況が多いように思います。本来の「取締役(チェック役)」という定義からは外れるのでしょうが、社外から違う世界を有する人に経営に参画してもらい「味方」として、自分が知らない世界の人々を効率的に紹介してもらうことは、金銭換算するととても大きいことであると考えます。
取締役は取締役会の議決権が生じます。主なものは、予算や決算の承認、重要な人事や重要な契約(その範囲は別途規程により定めるわけですが)、金融機関との新たな取引契約などが対象となります。この説明をきちんとする、ことが社内の取締役である社長の新たな業務となり負担は増えますが、本当は仲間内にも必要性・合理性が説明できないような取引は、会社のためになっているかどうか自分でもわかっていない、ということでもあるわけですので「できるべきこと」だと思うのです。
もちろん、その辺の規程整備や選任させる方への期待事項や現在の社内の不備事項と整備計画、あるいは社外役員の責任限定契約をどうするかなどの実務面はお手伝いできますし、取締役会の進め方や議事録の作り方も最初は伴走させていただきます。
■さらに踏み込んで株主探し
今更上場を目指すわけでもないのに、株主探し?という会社は多いと思いますが、中小企業にとって株主は本来は「最大の協力者」であるべき存在です。なにせ、私財を投じて発展を願っている、御社が利益をあげないとおかねは眠ったまま、潰れたら損するわけです。御社が欲しいと思っているチャネル、人脈、技術をお持ちの方にそれほど大きくない規模で株主になっていただく、ということは御社のニーズと相手の配当が増えるという利益が一致している状況を生みますのでかなり望ましいことです。
かなり組織的に経営している本当の投資ファンドや投資家は、「役員を送り込めないと意味がない」「議決権がないと意味がない」「上場できない場合は返済がガー」とかおっかないことをいうわけですが、世の中そんな人ばかりではないのも事実です。たとえば、今「エンジェル税制」という税制優遇措置があり一定の条件を満たす新興企業の新株発行の引き受けに関しては、その金額が所得税控除の対象になる制度があります。つまり、貴社に投資すれば税金を減らせるうえ、将来の配当が得られる、ということが実現できる可能性が出資者にはあります。
私は上場益を出口にする投資ファンド、というものにかなり懐疑的です。上場には実現時にもその後の維持にも非常に大きな負担かかります。例えば事前には規程整備から始まりリスクに関する内部統制、予算統制体制の整備などがかなり細かい水準で必要になりますし、上場したあとも、これらの検証を行う上、株主への説明責任、監査法人への監査報酬、有価証券報告書などの作成の人員に、情報システムの維持管理などが「お客様へのサービス改善のため」ではなく、「上場維持のため」に発生します。しかも、その影響範囲は連結子会社にも及びますので、小さな会社だからといって多めに見てもらうことができません。社長さんのやろうとしている「夢」が上場により得られる巨額の資金が必要なことであるならばそれもやむを得ないでしょうが、多くの中小企業にとっては、事業上必要な資金は、きちんとした計画さえあれば金融機関が貸してくれる範囲で通常はまかなえるものが多いですし、そのための安定した基盤づくりは実は小口の共感者、協力者を集めることによっても実現可能なのです。そして、そうした協力者は実はすでに社長の周囲におられるがそれをお互い意識していないだけということが多いように思います。
この場合、さきほどのエンジェル税制を活用しながら、社長さんが過半、あるいは2/3を維持したまま、チャレンジのための資金とパイプを同時に用意することがこの方法で可能になり、それは相手の税、本業にもプラスになるということがあります。このような取り組みもぜひ弊社では一緒に考えていきたいと思っています。
なお、株主を集める場合、30人を超える人に声をかける(不特定の場合も含む)場合には、「公募」という扱いになり資格が必要になります。(たとえば証券会社がこれを行うことができます。)これはコンプライアンス上の問題となりますので、進め方に留意する必要があります。
■「顧問」という方法
古き慣習では 社長→会長→相談役→顧問 というコースがあり、とある会社は役員フロアの上に相談役の部屋、顧問の部屋のフロアもあった(そして、そこへのエレベーターは社員には止められない!)のですが、まずそのイメージは大企業の悪いところと割り切り捨てましょう。中小企業にとって顧問とは何か?というと結局は上の二つと同じく、社長の足りない「世界」を補う存在であり、年齢でもないし、社内の人というよりは社外の知恵を週1回なのか月1回なのか吸収しあるいは人脈を紹介してもらう存在なのだと思います。そういう意味では、上の社外取締役や株主よりは、オーナー社長にとっては緩い存在だと思います。
私もたくさんの優れた顧問の方にお世話になったことがあります。どのような方向の市場開拓や問題解決を行いたいかにもよるのですが、力になってくれるケースが多かったのは、自分よりも大きな規模の会社で営業系の役員や部長を務められていて、辞めてまだそれほど時間が経っていないか、あるいは辞めたあと自分でその人脈を生かしながら事業をやられている方が多かったように思います。管理系の方は専門知識はあっても、社長の事業の世界を広げる、という点では不足しがちです。
これも誰でもよい、というわけではなくその会社のその時々の経営課題にあった方を探す必要があります。世の中にはこうした方を紹介してくれる組織もあるにはありますが自分で探すことも可能です。実はそのほうが、御社にも顧問をやってくただく方にも間を抜く会社がないだけにメリットがあります。この場合にどのような契約を結ぶべきか、あるいはどのように具体的要望を投げ、どのようなミーティングを行うべきか、という点もコツがあります。そうした点もお手伝いしているのですが、そんなことをしているうち私がご要望を受けてその1社の顧問になってしまいました。ありがたいことです。経験と御社のニーズが合う場合には、新卒よりもよほど安く、より大きな役に立ちます。
こうした社外取締役、株主、顧問をどう探すか、というのはまた難しい課題です。それについてはまた、機会を改めてご紹介したいと思います。