何回か、統計データをもとに今の、そしてこれからの日本のマーケットを概観するということをしてみたい。第1回は「人口」の話である。
仕事柄、新規事業や事業転換の相談を多く受ける。中小企業のお手伝いを看板に掲げているので、日本全体やグローバルの話…はあまり多くはない(EC関連などはマーケットは日本全体なので使うのだが)のが実情で、エリアレベルの話が相談としてはかなり多い。そのようなケースの多くは、経営者が「社内資源や取引先」など内部の話ばかりをしたがる傾向にあり、一旦話を「市場はどうなのですか?」と戻すことになる。その時点で相手の経営者の私と事業の対する興味はかなり減退してしまうのだが…。性格上、いったんはちょうちん持ちをして相手の気分を高めておいて、自分のお金の話を終えてから現実に引き戻すというような戦術は取らないことにしている。
年始来、人口にまつわる話題が多かった。二階さんが和歌山の人口が減って議員定数が減るのは腹立たしい(気持ちは分かる)と言ったとか、成人人口が過去最低の120万人(ちなみに2021年生まれは81万人)だったとか、寅年生まれは昭和49年生まれが198万人が最多で昭和25年がその次(実は、少し前までは72歳が一番多かったのだが、第二次ベビーブームが48歳になって昨年から逆転した)だとか、JR西日本が路線網再編を急ぐ(これは、人口のほかに、モータリゼーションの影響もある)とか…
事業計画においても、人口推移は、決定的に重要な要件である。そして、変えようがないし、概ね正確に未来を予測できる。この正確さというのは、自然増減(生死)だけでなく、社会増減(移動)もほぼ正確に予測できている。それも、都道府県単位、市町村単位でかなり正確である。
もちろん、明石市や流山市のように、政策の巧みさでこの流れに多少のインパクトを与える事例はあるし、関係者の努力を否定するわけでもないのだが、政策関係者みんなが相当頑張っている割には、ほとんど何の効果もない、と言う方が大局観としては正しい。
「外国ではできている」という論調もあるが、それもまったく正しくない。経済発展が進んだ国では、特に東アジアでは、人口減は共通して顕著な社会現象であり、しかもどこも止められていない。フランスが成功例のように言われているが、フランスの出生率が2.0を超えたのは、10年以上前の話であり、直近では、1.8台、非移民では1.7付近に下がっている。韓国、香港、スペイン、イタリアなど日本よりも出生率の低い国もある。「優等生」と言われる北欧でもフィンランドは日本よりも低い。
何が言いたいかというと、我々はビジネスマンであって政治家ではないのだから、つべこべ言わずにデータに基づいて市場を理解するべきである、ということである。そして、その話をすると、多くの場合・・・経営者の理解は、20年前の知識に基づいていることが多い。直近の情報をフォローしきれていないのである。確かに市場は人口だけでなく、社会風習の変化、所得水準の変化などいくつもの要素を考える必要があるが、事業を選択するという経営者だけにしかできない仕事でいうと、「縮小市場に手を出さない」ということは非常に重要な要素である。「競合に勝てる」「市場でシェアアップできる」などというのは、競合だって頑張っている中では、まさに「絵にかいた餅」でしかない。
その市場は、文化や経済の影響を受けて、常に変わり続けている。それは当然なのだが、それ以前に「人数」の影響は重要である。ターゲットの決め方には「富裕層」とか「高感度生活者向け」とかいろいろなセグメントの切り方はあるが、中小企業であったとしても、一定以上の母数がなければそれも成り立たない。
ということをわかっていただくために、今回は少しデータ紹介をしてみたい。上で「20年前の知識」という事を書いたので、ここで上げるデータは、2000年~2040年まで10年置きのデータとする。2010年までは国勢調査のデータを用い、2020年(国勢調査の確定値はまだ出ていない)以降は、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の予測データを用いることとする。
1 全国では…
手始めに全国のデータからご紹介する。この辺はよく知られているのでご存じの方も多いと思うが、この後紹介する都道府県別データとの比較のために掲げる。
では、これを地域別にみていくことにしたい。まずは都道府県別に順にみていくことにしたい。
2 北海道・青森
北から順番に都道府県コード順にやろうとしているだけで、「状況が厳しい順」ではない。そのうえで、まずこの2道県をまずご紹介
賢い方は、県庁所在地とそれ以外ではさらに全然様子が違うよ、と思っておられるだろう。それは後ほど述べることとし、話を進める。各県解説していると時間がかかりすぎるので、この先は、特徴的なところを説明していきたい。
3 秋田県
過疎に悩む県としてたびたび取り上げられる秋田県はどのような状況かというと
時々、夢をもって地方での「地域振興」を事業にしたいという人に会うのだが、なるべく首を突っ込まないことにしている。それは、その人が間違っているというのではなく、「これなら大丈夫」と責任をもって言える案を立案できるめどがなかなか立てられないからである。
秋田は一番厳しいとはいえ、上の青森でもわかるように地方は皆こんな状況である。都道府県レベルで20年前から20年後までで子供は1/3、働き手は半減以下、そして、高齢者もこれから減っていき、人口が4割以上減る。鉄道が維持できないとかそういうレベルの問題ではなく、地域の消費が半減する。そこで域内需要を中心に「事業」を継続的に成り立たせることは相当難易度が高い。観光という声もあるが、日本中から大勢来れば話は別だが、そうでなければ多少お金持ちが来たとしても、年に1日、2日来てもらうだけでは地域にとって大したプラスにならない。
ついでに、二階さんが議員定数削減にお怒りの和歌山県
青森・秋田を見た後だと、だいぶ良く見えるが、ここも高齢者数すら減り始めている。
ここまで、全国平均よりも厳しいところばかりだったが、ということは全国平均よりも厳しくないところがある。それは「都会」だというところまでは推測ができるのだが、どうだろう?
4 東京・神奈川
東京都と隣の神奈川県を見てみる。
ちなみに200年比で2040年に人口が増加しているのは、率が高い順に1 東京、2 沖縄 3 神奈川 4 愛知の4つだけである。若年人口が2000年比で2040年に減少していないのは、東京だけで、2位は84%の沖縄、3位は神奈川と愛知である。生産年齢人口の減少幅が小さいのは、東京が96%で1位、2位は91%の沖縄、3位は81%の愛知である。沖縄は、全都道府県で断トツ高い出生率(2020年は1.86、2位は島根の1.69)の影響であり、愛知は、若年労働者を大量に吸収する自動車産業があるからである。20年後もトヨタが日本で顕在であるという前提だが。
そして、高齢者爆増率(2000年→2040年)は1位は実は埼玉県の258%、神奈川が2位で、長寿県(最近は落ちているが)の沖縄が3位で237%、千葉が4位で235%、愛知はずっと低くて219%である。愛知で働いても愛知では高齢になったら住まないということなのか?そして、かつてのベッドタウンは、大量の高齢者を輩出するということである。これはもちろん問題も引き起こすのだが、関連ビジネスの需要の増大も起こす。東京のみが若年人口、生産年齢人口もさほど変わらないので、域内ビジネスでもある程度安定した需要があり続け、関連産業の連関が維持可能である。そして、東京と沖縄のみが、全人口に占める高齢者の割合が30%以下を維持可能である。
では、一部の人がいうように「コロナの影響で東京への一極収集は止まり、逆に地方への移住が進み、ゆとりある暮らしを若者が選好するようになった」は本当だろうか?新型コロナが最初にニュースになったのは、2020年1月のダイヤモンドプリンセス号での罹患であるので、その前後で津京都の人口を比べてみると
https://www.stat.go.jp/info/today/172.html
5 県庁所在地と郡部の差
ここまで、都道府県単位での比較を見てきた。よく言う「都市部」VS「地方」の差がハッキリしているということはお分かりいただけたと思う。簡単にいうと、40年で若年人口・労働年齢人口が半分になる地方。何とか規模を維持する東京、ということである。
では、都道府県の中ではどうなのだろう?先ほど最も厳しいという例で挙げた秋田県で見てみるとこうなる。
なお、秋田市が2005年に市町村合併を行っているため、合併した2町の人口は2000年の秋田市にも加えて時系列での比較を可能にしている。これを見ると、秋田市も決して楽観できる状況ではないが、秋田市と秋田市以外の秋田県ではまた大きく差があることがわかる。この「県庁所在地以外がより厳しい」という状況は、各地方で顕著であり、都道府県内においても、また、大きくバランスが変わっていく。県庁所在地以外の人口は、ドコモ県庁所在地よりも大きく減少する。(福島県や群馬県など県庁所在地以外の人口が多いところはそこも減りにくい)
ちなみに、社会人口問題研究所では、秋田県の人口は、2065年にさらに減り続け36万人と予測しているが、秋田県は、2015年に策定したビジョンでは「きっと社会増減も自然増減も改善できる」と信じて60年に60万人としていた。それを先月12月に見直しを行い、65年に51万人に下方修正したが、まだ科学とはだいぶ差がある。
政策的に頑張らなくてはならない立場であることは分かるし、洋上風力などで必死に産業育成に努めていることも知っているし、今の仕事の近くに秋田出身の若者もいるので、自分も何かできないかともたびたび思うが、事業計画という立場では、社会人口問題研究所のデータを正として立案することが正しい。
というわけで、ひとくくりに報道される「人口減少」社会とマーケットサイズ。あなたは現状、そしてこれからを正しく認識できていただろうか?
そのうえで、一体どうすればよいのか?ということについて私は答えていかなければならないのであるが、ビジネスや今の拠点によっても対応は異なってくる。ただ、当たり前のことではあるのだが、次のような事は言える。