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「自分で頑張る」が生産性向上の阻害要因である

 多くの中小企業-従業員にして10人以下-では、あまり外注も使わず、いろいろな作業を自前で行うのが通例である。中小企業だけでなく、大企業の一部門を見てもそのような例は多い。資金を外部に流出させず社内でやりくりする、ということがこの20年ほど、当然視されてきた。この方針は確かに空いている社員を活用して無駄を減らすという意味でその場での収益を改善する効果はある。

 その一方で、最近の30代、40代の企業の中堅社員は、組織が拡大するとか、部下が次々入ってくるという経験があまりない。入ってくるのは中途採用の自分のライバルだったりするので、「人に仕事を指示する」という経験に乏しく、係長でも課長でも(部下が大していないでその呼称なのでしょうがないといえばしょうがないのだが)自分でやってしまう。果たして、それは「頑張っている」と言って評価してよいことなのだろうか?

 「生産性が上がらない」原因のかなりの部分は、この「できるまで自分で頑張る」ことにあると私は思っている。その理由を3つ述べたい。

1 最大の理由は…

 その最大の理由はやや分かり難い言い方になってしまうが、「自前主義ならば小さい売り上げでもよい」という誤った推論を許すことにある。外部に資金を出すならば、それ相応のリターンが必要である。そして、外部に作業を委託するならば、そのための手順書の作成やトレーニングの実施、チェックリストの作成や検収基準の作成など事前の準備が必要であり、短期ですぐ終わってしまったり、いつ次があるかわからないような業務では掛けた手間も無駄になるし、外注先も困るし第一委託費が安くならない。そういう「自信のない業務」をとりあえず自分でやり、それが定常化しているのである。

 だが、ちょっと待って欲しい。外部に出さずに自分でやっていても、給与という形でコストはかかっている。自分でやるならば、手順書やチェックリストを作成しなくてよい、という理由も会社である以上おかしい。ましては、「次にいつ来るかわからない不安定な業務」をあてに事業を行うという事業方針もおかしい。つまり、「会社としてやるべきではないこと」をやるために、「自分で会社の時間を使ってやっている」のである。だから、その分は追加でサービス残業するという意識になる。
 これを私は、「中小企業根性」と刺激的な言葉を用いて言うが、実は大企業でもよくみられる現象である。そして、「小さい不採算な業務がたくさんある」状況を生み、合理化を阻害する最大の原因となっている。

  「自分でやるから儲からない業務でもやっていい」といつからそういうことになったというと誰もそんなことはいいとも悪いとも言っていない。それはやめるべきことなのである。

2 時間が最大の経営資源であることを経営が軽視している

多くの会社で最もコストがかかっているのは社員の人件費である。こちらの記事にもある通り、ざっと給与の2倍のコストがかかっている。

 それだけのコストを回収できる見通しがあることに時間を投下し、そうではないことにはやめさせるという「賭け」る先(と割り当てる「人」)を選択するのは、経営者、管理者の重要な役割である。

 逆に言えば、管理者は必死で効果を大きくするにはどうしたらよいか?を考えることになる。そうすると、単体作業ではなく、周辺の複数の関連する強化策も同時に実施して一気に強くなることが必要という結論になることが多いはずである。「ちょっとぐらいの改善」ではユーザーに伝わらない。しかし、自分で一個一個やっていては、その「改善」がユーザーに伝わるぐらいのインパクトになるにはずいぶんと時間がかかり逐次投入では伝わらず、その間に市場も変わってしまう。つまりスピーディーに改善を進めることが必要という結論になる。

 そのためには一人ではできないのである。

「前進する速度」の重要性の軽視

 経営はよく「かじ取り」と言われるが、私はアクセルとブレーキの方がむしろ適切だと思っている。限られたお金と時間をどこに費やすか?の意味は、「どの分野でアクセルを踏み加速するか?どこは止めるか」である。
 これから一番儲かりそうなところで競争力を高めることを短時間に実現することが必要であり、極限まで人を減らし、その上残業が昔のようにはできない現代の日本企業では、これを重視しようと思うと、「日常業務・ルーチン」をやっている時間をできるだけ減らす、つまり外注せざるを得ない。すでにやり方の分かった「作業」を外注により時間を空けて、それを次の戦略目標に突っ込むのである。

 そして、外注先のノウハウやフィードバックによりやり方を改善することによりコストダウンや品質の安定化が進む。もちろん、最初は自分でやるよりも手間がかかるのだが、担当者が嫌がるのは手間の問題ではなく、「定型化」「基準」を決めることが高い能力を要するからであり、それができる人とできない人の差がハッキリとつくからである。
実は、多くの役職者は「自分で仕事がバリバリできる」ことを買われて役職についているので、この「ルールブックの作成」をやろうと思えばできる人であることが多い。それが、会社が要求しないために錆び付いて、安楽な方へと流れているので、ここに「価値基準」を正していけば、ちゃんとしたリーダーとなれることが多い。そして、社員数×3倍ぐらいの推進力を外部を巻き込んでできるようになる。

価値を生み出す方法に対する認識

 以上が、「頑張ることが生産性向上を阻害する3つの理由」である。しかし、その背景にはもう一つ根深い「文化」の問題がある。それは、「価値」が外注先から自社を経由して顧客に届く過程で生まれる、というバリューチェーンの概念が、生産物ではあるのに、事務作業では日本にはほとんどない、ということである。事務作業であっても同様に価値連鎖の考え方は適用できる。

 そして、中小企業が持てる力を社員数の10人の数倍発揮するためには、こうした価値観の転換が必要である。

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