ここ最近は弊社にも、再度「経費節減」の相談が急激に増えています。こういうところに「不況」を如実に感じています。その中でも従来型の調達先見直しを中心とした単価低減手法は併用しつつも、それ以外の方法も併用することが望ましいケースが従来よりもかなり増えています。この一因は、新型コロナウイルス感染症もあるのですが、実はそれ以外にも「時代の流れ」によりすこしずつ変化していて「使用量が減っている」状況に対して、従来用いていた仕組みが追いついていないというものが多いようです。
もうこんなにいらないだろう
こうした「もうこんなにいらないだろう」、というものはたくさんでてきています。まず最初に最近本当に出会った事例をいくつかご紹介します。
- 長い歴史を持つ自社ビルで運用されたきた固定電話設備と内線数…多くの会社ですでに携帯電話の通話量の方が、固定電話の通話量よりもはるかに多くなっていて、固定電話の回線数やチャネル数(同時通話数)、あるいは固定費のかかる通話料割引サービスが過大になっています。チャネル数を減らし、子機をスマホで代用し、場合によっては番号を減らしても何ら問題がないことが増えています。
- 同様にファックスも昔は同じ部署に受注処理用に2台ある(故障に備えたり、受信送信用など)ことが珍しくありませんでしたが、今はメールやその他の電子化の進展により減らせるケースが増えています。必要最小数で運用する場合でも、複合機で受信しメールで転送(印字したら料金がかかるが転送はかからない)することで、印字コストや複合機に行き来する時間を減らせますし、FAX機の機器保守料も減らせます。
- その複合機も、営業用の資料などでまだまだ紙出力をするケースもありますが、昔に比べると使用量が減る傾向が多くの会社で顕著になってきています。「画面で見ればよい」という世代が少しずつ増えてきていますし、会議はタブレットという会社も増えています。そもそも事前に送っておいて質疑応答から入るような改善をしている若い会社も増えてきました。こうしたことを行うことで複合機も台数を減らせるはずなのです。というか…1フロアに複数台ある方が異常だと思いませんか?2フロアに1台にして、普段の印字は安価なプリンターからにした方が断然安いです。再生トナーも使えますし。
この辺はまずはこの項目のご紹介がてら列挙してみました。
一方、新型コロナウイルスの影響で、最近特に目につくのは、事務系、営業系、システムやデザイン系の会社の事務所の減床・解約です。いうまでもなく、在宅勤務で問題ないという経験をした会社が一部部門での出勤回数を減らしているのです。反動がくる可能性が少し先にはある(成果評価の問題などで)とは思っていますが、これは短期的には大きな経費削減効果があります。なぜならば
- 紙や文具を消費しないで、メールやSNSベースでの報告、ZOOMベースでの会議のため、コストが減る。(時間も減る)机、いす代も不要。
- 水道光熱費も減る。
- 通勤交通費も減る。(「実費負担は非課税」というのが税法上の原則ですので、実費が定期代ではなくなる場合には、これを削減し、実費精算に変更可能です。)
- 持ちビルの場合は、遊休スペースと合わせて賃貸に出すことで収益を改善する効果があります。
というような効果があります。時々大勢で集まりたければ午前の早い時間ならばSpaceeなどでそこそこ広いスペースを安く借りることが可能です。商談は相手の会社に行けばよいことですし、その方が得られる情報は多いので営業面では有効です。全部なくして大丈夫か?という点では大手企業や金融機関相手の与信の不安は少しありますが、収益を劇的に改善する効果があります。
他にも「減らす」事例はまだまだあります。
- 社用車を減らしたというケースも出会いました。このケースはそもそも既得権益化(サボり場所化)していて、しかも在庫や備品の車両での不適正管理の温床になっていることにメスを入れる目的が背景にはありました。スポットで1日単位でレンタカーにして変動費化し、維持コストを下げる、ということは昔から提唱されていたのですが、なかなか実行に踏み切る会社はありませんでした。しかし、駐車場代の高騰やドラレコ装備の事実上の必須化、それに車体価格が安全機能の向上などにともない、車の維持費は昔よりも上昇しています(昔は軽ならば法人で70万円程度の見積もりがざらにありました。)。一方で遠隔監視による予防やリアル検査の間隔拡大やリモート操作などにより実は稼働率も下がる傾向にあります。
- 会社携帯を廃止した、という会社もありました。昔、ガラケーの時代には、会社の携帯は台数が多いと1台1200円台で通話料も込み、というのが当たり前でした。しかし、今はスマホになり法人契約でもコミコミ4000円前後が当たり前になっています。それなのに、これも「既得権化」でスマホにそのまま移行した会社が沢山ありました。しかし、それならば、個人の携帯を会社用に使わせて、社用の場合には会社に請求がされる仕組みを導入すればよいわけです。もちろん、各種割引制度の利用には制限がありますが、それでもこの方が安くなるケースは多くあります。その理由は、「通話が昔ほど多くない」からです。こうしたBYODの話は、セキュリティの話が情シスやベンダーからは常に持ち出されますが、では社用携帯では日常操作でのセキュリティ制限が厳格に行われているのか?というと全然そんなことはない、というケースがほとんどです。誤送信リスクは社用でも常にあります。紛失時の対策は個人用でも対策できます。
何がダウンサイジングを阻むのか?
実はこうした、「取りやめる」「数を減らす」ことの効果が大きいことは昔から知られていて、弊社も過去に多くのケースで提言してきましたが、なかなか採用されませんでした。昔は、コピー一枚うるさく言う上司がいるのが当たり前だったのに、なぜ今は言われてみれば当たり前のことが実行できないのでしょうか?これには以下のような理由があります。
- 拡大志向を正義とする思い込みを持つ経営層が減らす、無くすという行為に、「敗北」を感じる。(実際には会社の歴史は、「何を意志を持ってやめて、何を始めるかの決断の歴史のはずなのですが)
- マネジメント層が社員に「多少の不便は我慢しろ」と言いたがらない。社員に疎んじられたくない、という心理的抵抗がある。(実はこれはかなり大きい)
- 「生産性」や「セキュリティ」や「トラブル対応」を言い訳に抵抗する。厳しくなったセキュリティや内部統制ルールの中で代替案を具体化して起きうるトラブルを事前対策や、発生時に対処していくためには知識も、トラブル発生時の対処する度胸も必要です。こうした勉強と心理的コストを避けようとしている。
- サービス提供側が解約を相談すると頑強に抵抗し、少しの値下げでその場を凌ごうとする。あるいは、数量を減らすならば単価を上げると脅す。調達情報は非対称的で相手の方が詳しく、交渉術を事前に準備していないので、篭絡される。
いずれの場合も「利益」が唯一最大の目標である、という企業にとって当たり前のことがともすると見失われ、「社員が楽をする」「リスクを避ける」ことが優先事項になってしまっているのです。
実際には、こうしたことでトラブルが起きても、社外にその影響が及ぶことは大してありませんし、代替手段もあるものですので、経営者がトップダウンで意思決定しても何も起きないし、むしろ怠惰な社員の代謝を促す効果もあります。今回の「災害」では多くの者が、変化を実感し、また変化に対応しなければ生き残れないことを認識しました。そういう意味では今は「ダウンサイジングしやすい」時期のはずです。