といきなりわかりにくい話を始めてしまいましたが、最近何度かいろいろな方にお話しした話題です。
商品が総合的で普遍的なソリューションであること、そして緻密な構成を取っていること…は商品設計上はもちろん価値のあることです。しかし、こうしたものをある程度巧みにやれる人は、どうしても、人にそれを説明するときにも30分にわたり端から端まですべてを語ろうとする傾向があります。
聞き手は大抵の場合、上手に相槌を打ちながら聞いてくれていますが、こういう商談はかなりの確率で失敗します。何も伝わっていないし、終わった後、覚えているのが最後の「提供価格の案内」以外にない、という状況を生んでいます。
特に40歳以上の役職者に説明する場合には、このやり方は絶対に避け、「あなたのこの課題を解決するのに、現状No1の商品はこれです。」というメッセージに徹することを私は強くお勧めしています。その課題は、できれば大きい方がよいのですが、小さくてもその小さい範囲でNo1であることを納得してもらえる方が、大きい課題でなんとなく関係があると印象よりもはるかによいです。そして、その「小さい範囲」が複数個用意できるようになれば、相手にフィットできる確率が高まっていきます。
しかも、その課題は、「顕在化している、今困っている課題」である必要があります。「潜在的な大きな問題」ではなかなかお金にはなりません。
たとえば、『大企業の中堅、30代社員がなんとなく内向きで非活性』なんですよね?という課題は、多くの場合、人事部長の「賛同」は得られますが、肝心の「受注」は得られません。簡単に言えば、30代を活性化して、それで会社に何が起きるの?に答えられていないため、稟議書の「期待される効果」欄が作成できないからです。同じ研修サービスの内容であっても、対象をぐっと絞り込んで具体的な問題の解決をアピールすることを考えましょう。たとえば『入社7年目~12年目を新規事業リーダーとして、事業の構造と社外の関係セクターとのオープンイノベーションを推進できるようにするための疑似体験を行う実地研修」のようになります。これであれば、多くの会社で新規事業を担い、あるいはCVCの推進役となり、社外の関係者と協業する(そもそもその経験のある)人材がいない、という現在ある問題への具体的対処が一定期間内で実現できるであろう、という目途を相手の会社の経営陣に持たせることができます。
こんなことは当たり前だと思われるかもしれませんが、これができていないサービスというのはたくさん目にします。特に、最近研修サービスやコンサルティングサービスで相次いでこれを見かけたほか、BtoBのマーケットプレイスサービスでも見かけました。
ほんとかよ、と思った経営者の方は明日会社に行かれたら、自社のパンフレットや営業用パワーポイントを見直してみるとよいでしょう。とても、汎用的で、そして何も伝わらないものになっているかもしれません。
私自身きぼうパートナーの対応範囲をあまり明確にしていないので、反省した部分もあったのですが、私自身は、新規の営業で相手の方にお会いするときには、「中期の全社目標具体化から各部の年次改善計画への落とし込み」か「内部統制の整備による業務フロー全体の最適化」のどちらかを相手のそこまでの話に合わせて、さらに絞り込みして話す、ということをしています。
もう一つ、良い方の事例をご紹介したいと思います。先日参加したPitchイベントで、若い経営者が登壇したのですが、その際にこの例にちょうど該当するリーフレットを配布していました。彼が構築しているのは、営業系、それも「セールスイネーブル」と呼ばれる、セールスフォースのような案件管理ではなく、ノウハウの管理や提案内容の適正化を行うSaasサービスなのですが、この説明では、彼のサービスは「わかりにくい」でしょう。
その効果のわかりにくい、カタカナのサービスを説明するため、彼はまったく同じ商品のリーフレットをこんな風に4種類用意していました。
この4つは似ているようで微妙に違っており、それぞれを必要と感じる人も、頻発する会社のステージも相違しているのですが、どれも、「営業ノウハウの集約と配信」を行っているものです。でも、だからと言って、営業トークが「営業ノウハウの集約と配信の決定版」では伝わらないのです。具体的な課題に、具体的に解決策を与えるからこそ、支払いを決定できるのです。多分、彼の会社では、最初に相手の課題を傾聴し、そのうえで、どれか一枚を最初に提示しているのでしょう。文字数も抑えられており、大変よくできたチラシで感心しました。
会社には、「コアコンピタンス」があり、それが商品の競争力の源泉になっています。しかし、この「コアコンピタンス」の説明に労力を使っても、あるいはコアコンピタンス自体を売りものにしようとしても、相手の会社には何の意味もありません。
よくある「能力研修」のうち、ファシリテーション研修(過去2度受けました)やコミュニケーション研修が不人気なのは、それを直接的に必要とする業務が少ないから稟議の「費用対効果」を説明できないからです。
サービスに必要なのは、相手の困りごとの除去です。それは、コアコンピタンスを相手のニーズに合わせて何かを加えて消化しやすい形にして提供する、ということです。チラシ、サービス内容、営業トーク、すべてがそうなっているか?そして統一されているか?定期的に点検しないと、いつの間にか「汎用的で何も伝わらない、自分目線」のものに変わってしまっていることがあります。チーム内でマーケティング方針がきちんと統一されそれが維持継承される、というのは実はとても難しいことであり、慣れればなれるほど、「汎用」に走り、難しい「コンセプト」を語りたがるものです。
半期のはじまりに点検してみることをお薦めします。わかりやすさがないものはつたわりません。