先週、ある墓苑から相談を受けました。その墓苑、諸般の事情で、経営母体や墓苑名も最近になって変更になってしまいまして、これに伴い新しいドメインを取得し、webサイトをそこそこのお金をかけて新規作成しました。ところが、その墓苑の団体名(施設名)でGoogle検索しても「表示されない」というのです。それを作成した業者に指摘したのだが、言い逃れっぽいことを言っているとも言っています。
サイトのソースコードを見てみると、サーチロボットを拒否しているわけでもないし、キーワードをタグに入れて、構造的な構成をとり、サイトマップも用意し、と一通り正常な構築がされています。Googleで改めて検索して確かめて見てみると、ないわけではなく、5ページ目に表示されていました。つまり、検索順位が低いためにお客様はもちろん、本人たちすら見つけられないという状況だったということがわかり、まずは、「業者は特に悪くはない」ということを説明しました。「そういってくれりゃ、わかるのに」とまだ人のせいにしていましたが、たぶん業者さんも同じことを言っていたと思います…お気の毒です。
さて、その上位に表示されない問題ですが、その施設名が 市町村名+「霊園」 という「良く知られた固有名詞+良く調べられる一般名詞」であることにまず、上の5ページ目という原因があります。施設側はもちろん、「誰がどんな風に検索したときに、表示されたいか?」を事前に考えている、ということはないのが実情であり、多くの中小企業ではそれが当たり前でしょう。ただ、本当に、「名称がわかっていて、内容と地図を見たい」というニーズであったなら(そもそも、その名称をどこで認知するかは別として)、この5ページ目というのは致命傷で、99%の人がこの施設はwebサイトはない、と判断するでしょう。
しかも、このオフィシャルサイトよりも上位にあるサイトの90%は、石材店などへの送客を目的とした巨大な墓苑紹介サイトや、そのサブサイト(DBを共有し、見え方だけ別)であり、残りの10%は比較的大手の石材店がこの墓苑を紹介するものでした。これらは、自分たちが送客手数料を石材店等から得るため、あるいは墓石の顧客を自分たちで確保することが目的ですので、ページ内にオフィシャルサイトのリンクを掲載してそこへ離脱させる、ということは決してしないはずです。しかもこれらのサイトの方が歴史があり、巨大でありアクセス数もありコンテンツも多いということで、近年のGoogleの検索アルゴリズムからすると、ちょっとやそっとの改良ではオフィシャルサイトはこれらのサイトを抜けそうにありません。(もちろん、細かな追加作業点は多少はあるのだと思いますが)墓地の現場では、運営管理事業者よりも石材屋が幅を利かせているという事例はたくさんありますが、web上でもそうなっているわけです。
もちろん、墓苑の高齢の事務員さんがSNSで情報発信できるわけもないので、SNS運用からの流入という策も使えません。
では、広告を出稿し続けるか?というと、こちらもキーワードプランナーで確認してみると、「墓地」はかなりの検索量があり、単価は決して安くはなさそうです。現に、今もその施設名で検索しても、首都圏の大手の墓苑紹介サイトや石材店のサイトが広告にたくさん表示されています。小さな墓苑事業者が必死でひねり出す広告代では到底太刀打ちできそうにありません。
私は、SEOの専門家ではありませんので、これらを見て、勝ち目があると思えば専門家に相談する方向で進めるつもりでした。しかし、ここまで見てお分かりの通り、大型ショッピングセンターの隣に位置する個人商店のような状況が、今やWeb上でも発生しており、だいぶ昔(20年ぐらい前)は、「webならば小さな会社も光る商品を世界中に届けられる」というような夢を語る世界がまだあったのですが、今ではそうではない、リアルでダメならwebでもダメ、という事実を私自身改めて思い知らされたのでした。
さて、これで終わっては、プロの経営プランナーの名に悖ります。ここからもう少し考えてみました。
まずは、GoogleMaps上で検索された場合の情報の充実を図りました。これは、「実際にここへ来ようと思って検索している人」にしか見てもらえない可能性がありますが、そこに営業時間、公式URL,写真、電話番号などの情報を正規に掲載することとしました。申し込むとGoogleから事業所へはがきが届きます。どのはがきをもちいてビジネスオーナーであることを確認して登録が完了する仕組みです。これには、他にも墓苑内の様子や施設の様子をウオークスルーで見られるようにする仕組みがあったり、といくつかの工夫ポイントがあります。
皆さん、webを構築すると、「検索順位が低い」と悩まれますが、多くの方が「自社の名前」でそれを試します。「その会社の名前で検索」するのは、私のような企業調査が半ば仕事のような人を除けば、そこへ行きたいときに正しい住所と地図を見たいときぐらいではありませんか?実は、そういう時にはwebサイトではなく、GoogleMapsを検索する人はかなり多いですので、こちらから改善するのは良い方法です。
しかし、この方法では、「なんとなく〇〇付近で墓苑を検討している新規顧客候補」を流入させることはできません。
相手は素人の中小企業であり、Web用語もマーケティング用語ももちろん通じません。と言いますか、パソコン使える人もあまりいません。そもそもwebで大手に埋もれている、というのはGoogleのアルゴリズムはリアルの人間の認知を上手に反映しているのであり、実際には、「リアルで大手に埋もれている」という事実を表しているのだと思います。一通り、きちんと事実を丁寧に書いたオフィシャルサイトをまずは整備しました、というのは、時間とともに徐々に認知が広まれば今までのようになかったよりはだいぶ良いと言えるでしょう。しかし、これから考えなくてはならないことは、「大手に埋もれないこと」であり、しかも「大手と正面から競争しないで、大手サイトや石材店が狙わないこと」をマーケットセグメントである高齢者層と、その息子層に認知させることです。
実はこの墓苑には、2つ、そうした要素がありました。一つは、この墓苑は見晴らしの良い丘の上にあり、一年中天気が良い時は、富士山がとてもきれいに見えるのです。「富士山が見えるところで暮らしたい」というお年寄りは時々お会いします。同じようにこれは訴求ポイントになるだろうと思いました。
もう一つは、この墓苑では先んじて樹木葬に取り組んでいる、ということです。従来の墓苑は旧来型の「〇〇家」と石屋に高額なお金を払い、直系は本人の意思には関係なく、本人と妻はそこに親と一緒に収められて、それを子が維持、具体的には管理料を払いつつたまには清掃に行かなければならない、という社会規範を背景にしたものがほぼすべてなわけですが、日本人の価値観は今や大きく変動しており、個人を基準にし、あるいは死後の子孫の弔いを期待しない、子供すらいないという中で自分らしさを選ぶ時代になりつつある、その中でいち早く取り組んでいる、ということです。
実は、葬儀、墓苑等「死者ビジネス」はこれからしばらく需要が拡大し続ける成長産業です。そして、このビジネスですらまた、時代の変化を反映せざるを得ないのであり、その変化のベクトルを追い風にすることこそ、この墓苑がお金をかけるべきことだと思うのです。つまり、「富士山の見える丘で樹木葬」を「古い社会慣習にとらわれずに生き方を選択する個人」にアピールするというマーケティング戦略が最初にあり、そのうえで、「樹木葬もある総合墓苑」ではなく、「個人の思いに樹木葬でとことん寄り添う新しい時代の墓苑」として認知してもらう、ということだと思うのです。そして、webはその戦略に沿って、イベントやメディア戦略と合わせて考えらえるべきことです。従来型の「〇〇家」タイプとして検索に引っかかるという目標は、もう石材店や墓苑紹介サイトに任せておいてよいのではないか、次にお金をかけるなら、そうした特徴をアピールする施策にかけましょう、というのが私の助言です。
今日、その墓苑に行ってきました。今日も富士山がとてもきれいでした。実は、その墓苑、25年前に亡くなった私の母が眠る場所でもあります。来週は母の生前の誕生日ということもあり、そっと行ってきました。生前、この近くの広々とした畑の中の道を富士山に向かって自動車走ることが母は好きでした。なくなったあと、父がここを選んだのはそれが理由でした。ヒントはそこにありました。