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「やれることをやってしまう」病の薬

私がお付き合い先で、経営リーダー達にいう「決め台詞」がいくつかあるのですが、その中でもっとも使う頻度が高いのが、「何を考えるべきかをまず考える」です。

これは別に難しいことを言っているわけではなく、「今、この瞬間に自分の抱えるミッションを達成するために、何がもっとも解決すべき壁なのかを考えることから逃げるな」という意味です。この言葉を発する先にある現象、つまり「何を考えるべきかを考えていない」状況とは「優先順位は実はよくわかっていないのだが、なんとなく、ゴールの方向に向いていそうな方角の作業を思いつくままに着手してみる」という状況です。若い方は本当にまじめな方が多いので、何も手を動かさないでいる時間に堪えられなくなり何かをやっていないと不安になってしまうし、大きな組織の中だとそれが「やっているフリをして一旦自分を防衛する」という意味合いをもっていることもあります。この現象は組織の中でとても多くみられる現象です。

 

しかし、その「思いつくままに」は、高い目標を高い確率で達成するための「最短経路」ではないことが多いし、多くの場合、若いベンチャー企業が掲げる高い目標に対しては「大幅未達の見込み」の成果しか期待できない経路です。それなのに、それを自分でわかっているのに、方法を必死で探すことから逃げています。私はよく言うのですが、そんなあちこちつつき回らなくても、たった一か所のボトルネックを解消するだけで多くの場合、全体は大幅に改善します。(制約条件理論)。そして、その一か所のボトルネックは多くの場合、そこの事業部長には「何となく」わかっているのだか、それを直視し正面から戦いを挑む方法が分からず、その途方に暮れる感じに耐えられなくて、相対を避けている、そんなケースが多い。

 

そうした仕事の「逃げ道」が可能になったのも、「逃げ道」が簡単に見つかる時代になったから、というのもあるようです。たとえば、Facebook広告。自分たちが商品設計の段階できちんとした4Pを作りこみしていなくても、数千円規模の予算でその場で細かなセグメントに向けた広告出稿が出来てしまう。しかも、通常のネット広告では難しい「地域」や「職業」等の属性での絞り込みが可能である、ということは画期的なことですので「便利な気がする」のです。そして、やってみると1日で数百もの「インプレッション(広告が表示された回数)」が得られた、と表示されるので、「数百人もの人に認知してもらえた。」と勘違いなのか拡大解釈なのかをして、上司にも報告する。上司もそれをよくわかっていないということもあり、「成果」だと思うのですが、実際、そこから申込み画面にクリックしてもらい、購買に至った数はどれだけあったのか?は大変怪しいケースが多い。これはFacebookが悪いのではなく、Facebookユーザーというのが、比較的高年齢で、自分を見せたがりなのか業務上のアピールが必要な人の集まりであり、傾聴の場ではないことを理解し、自分の商品にとって、1万円を投じるのが本当にこれが最適なのかを吟味していない、という問題なのです。

私ももともとは販促関連の会社の取締役をしていましたので、販促手法はよく知っているつもりです。そこで3か月ほど前、「この手法は今の自分のニーズからは外れている」という仮説を検証するため、3千円ほどを投じて、Faebookの「関東圏」「経営者」「30歳~55歳」に動画を含む広告を出稿してみました。このセグメントに広告表示できる、というのはなかなか他にはありません。しかし、予想通り、インプレッションは快調に増えるものの、Facebookページへの「いいね!」は1件も得られませんでした。そして、広告のクリックは4件にとどまりました。ここで、ネット広告の代理店さんならば、「動画が悪い」「文言がキャッチーじゃない」という問題点(これは認めます)に着目して、「数バージョン作って少しづつ試してみましょう」と提案して、広告代は抑制できるが作成費用はそれなりにかかる、という提案をするのだと思いますが、本当に「名も知れぬ小さな経営コンサルタント集団が首都圏の中小企業へ丁寧なハンズオンサービスを提案する」(しかも、そんなにたくさんの顧客には対応できない)という時に、このFacebook広告が最善だったのか?というと、「もっとも簡単」ではありますが、「もっとも効果的」ではないのだと思います。そもそも経営者層がFacebook広告をクリックしている、というイメージは全く浮かびませんね…(私自身は、管理系のクラウドサービスやVC系のイベントの広告は片っ端からクリックしていますが、情報収集のためで購買のためではありません。ただし、これは「認知」には至っているので、効果ではあります。)

 

では、私はどう考えているか?と言いますと、これらの助力を必要と感じている経営層が相談する、あるいは提案される相手は、金融機関か会計士・税理士、あるいは資金調達を相談するようなコンサルタントだろうし、これらの人達のまじめな助言はその経営者の意思決定にも影響を与えているだろう、と思い、こうした人たちの中で自分存在を知らしめる、ということを販促の中心に置いています。それも、Facebookの「士業」カテゴリにアプローチするのではなく、「あいつなら大丈夫そうだ」と思ってもらうためにできるだけ会いに行く、ということをして、その時に実績資料をお渡しするとともに、自分の地道な考え方を知ってもらうようにしています。このブログは、自然流入で業務のwebからの問いあわせ増加を目指して書いているのではなく、そうして弊社に興味を持っていただいた方が弊社がどのような方針、どのような実力なのかを知ってもらえるような販促資料として書いている、というのが目的です。だから、ネット広告ではなく、同程度の金額を会いに行って説明する交通費と時間、資料作成費に投じています。

 

販促手法の話を例に出したので、その例で話を続けます。ある会社で、「ウィンタースポーツが好きな首都圏の若者向けに田舎体験ツアーを認知させたい」という課題がありました。時間も限られていたので、Facebook広告で訴求し催行にこぎつけ、参加していただいたお客様には満足していただけた、ということでまずはよかったよかった、ということなのですが、それで終わってよいか?というと、そのツアーの内容が特殊なものであっただけに、もっと他の販促手法があるよね?ちゃんと比較検討した?という疑問があります。

たとえば、神保町のスキー用品屋さんの前で道路使用許可(これ大事)を取り、店から出てくる対象層っぽい人を選んで手配りビラを配ったり、お店に依頼してレジ袋にチラシをいれていただいたりする方法もあります。その時に缶バッチを作ってプレミアムとしてプレゼントするような方法で受取率や認知率を高める方が広告表示よりも効果的かもしれません。あるいは対象地域向けのスキーバスの運行会社さんの座席ポケットにチラシを入れたり、ディスプレイに表示するような手法もあります。スキー雑誌やスキーファンサイト、あるいは同地域のスキー場のサイトへの広告出稿という方法もありますし、プレスリリースによりこうしたメディア、あるいはまったく関係ないがワイドショー等での報道を喚起するという方法もあり得ます。

 

しかし、「どんな広告手法がもっとも効果的なのか?」ということを考える時に、様々な手法があること、それらの特徴とコスト感、リードタイムの概要を知っていないと「選べる」「組み合わせる」ことができず、「今できる」、そして「前例がある」手法を選んでしまう。あるいはリードタイムが必要なことを認識せずにいて直前になって自分で出稿できるタイプのネット広告しか手法がない、ということが繰り返されることになりかねません。どうやら、「何を考えるべきかをまず考える」というのは、巨大なミッションから逃げない強い意思だけでなく、考える枠組み(フレームワーク)や基礎的用語・知識を見知っている、という算数でいうところの九九を知らないと上達しないのではないか?ということに考えがいたるわけです。逆になんとなくでも、そうした用語やフレームを知っていて、次に考える時にそれを思いだすところまでにこぎつければ、その後はネット時代の申し子たちは素早く検索して、概要を再度復習し、類似事例を検索し、実際の実行にあたっての相談できる専門家に連絡を取ることが昔の数十倍の効率でできるのです

 

そんなわけで、お客様のところで、「経営の公文式」という感じで戦略、マーケティング、オペレーションやそれぞれの個別の技術の基礎用語と基礎的概念の応用練習を短時間に集中投下して吸収を促進するということをやってみています。

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