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失敗の橋②-変化が好きなリーダー、嫌いなリーダー

「成功の復讐」とは、成功体験に基づいて構築された組織構成やルール、あるいは思考パターンが、時代の変化で通用しなくなったのに、それが変えられないでいることを言います。この現象は、日本だけではなくあるらしいです。しかし、なぜ昔の成功を変えられないのでしょう?

  この「失敗の橋」シリーズでは、「失敗を引き起こしがちな性格、考え方」とその背景にあるマインドセットを明らかにして、対策を考える、という事をしています。(前回はこちら)

 その中で、「思い込みに囚われて、市場に素早く対応できない」ということは古典的な失敗として昔から大企業の凋落の原因として多くの指摘がされてきました。しかし、実は大企業よりも中小零細の方が「変われなくて潰れる」事例ははるかに多くあります。
 大企業では「グループシンク」のリスクが言われますが、グループシンクは1000人ではなるが、3人ではならない、というものではなく、中小企業でも頻繁に起きています。そのうえで、「変われない」のはなぜなのだろうか?を見ていくと、大企業とはまた異なる要因があるようです。

なお、グループシンクはこちらの資料の21ページ~22ページに簡単にご紹介しています。

http://kibow.biz/wp/wp-content/uploads/2019/05/1f1271fe7e748c91bfdc6767470edfae.pdf

中小企業が変われない訳
 中小企業が変われない原因の第一は、それぞれの企業が接している市場が範囲も規模も小さいため、変化が見えにくいし、それが積み重なって変化を意識する習慣もついていない、ということがあります。本来は経営者がこれを戒め常に意識させなくてはならないのですが、経営者も何年もたつと「今のままで続ける」という習慣性がついてしまうのは世の常です。
 中小企業はパワーバランス的に大企業に従属的であることが多く、調達サイドの現象には敏感で強気でも、販売側で起きていることは、「しかたがない」の発言をするや次には思考停止し、あまり考えていないという会社が多くみられます。営業の現場が「仕方がない」というのはある程度やむを得ないことと思います。しかし、経営者は違います。その諸与条件を変え、市場を変えるのは経営者の役割であるはずです。しかし、長年のストレスにさらされた勤続疲労は、その弾性、反発力を削いでいくのです。

 そのうえで原因の二つ目としては、市場の変化はかなりの速度アップをしており、今では「3年前の成功パターンが通用しない」という状況が頻繁にみられるようになりました。私がそういうと、「この人は大げさに言うのがポジショントークなのだろう」と経営者には思われるようですが、実は営業現場の最前線にいる方にはかなり納得してもらえています。
 たとえば今では、「残業してまでやりぬくような受注の仕方はしない」「大型の商業施設が次々できることを前提とするような営業計画はできないし、GMSのテナント型店舗への改装も食料品売り場以外は収束気味」「安いだけのネットショップは、実は売れない」などの様子が3年前、あるいは2年前とは大きく違います。また、3年前とは、国内運賃、コンテナ運賃、国際的な鉄鋼相場なども大きく変化しました。5年前と比べれば、「ソフトウエアサービスは、SaaS型だけが選択肢」の時代になりましたし、それはかつて時間がかかると言われていた会計システム等にも及んできています。これらは単に見積もり積算式の係数を変えればよい、というものではなく、競争優位条件を変え、営業方針、商品開発方針を変える必要がある現象です。

 ただ、営業の個々の事象をキャッチしても、それを「市場の変化」と理解するまでには、中小企業ではケースが少なく、相手も背景をきちんと説明してくれるようなことが少ないため、別途収集した社会事象に関する情報と紐づけするための連想、仮説立案の力がより強く必要になります。そのため、経営リーダーが社会の事象に高感度でないと、大きな変化をとらえることができないという状況がよく見られます。

 社内の状況も、出世をめぐるある意味健全な競争があり、世代構成がある程度計画され、異動等でチーム編成が可変的な大企業に比べ、中小企業は、経営者も幹部もメンバーも「ずっと同じ」であることが珍しくありません。そして、昨今のように経済が停滞している中で、給与を据え置き、社内にあった余裕を吐き出すことと利益を縮小し、自然減を使いながら少しずつ縮小することでさらにこの「ずっと同じメンバーがずっと同じことをしている」状況が固定されていきます。
 社外は台風が吹き荒れているとしても、こうなると、そのままでいた方が仕事も増えないし、あたらしいことを覚える苦痛も味合わなくてよいので、「変わらない」という選択をすることが組織の意思となり、やがてはそれが同調圧力となって、守旧は岩盤化してしまいます。
 ただ、これを打破できる人が社内に一人だけいます。それもまた経営者です。経営者が守旧となるか、あるいは変えたがり、となるのか?の分かれ目はどこにあるのでしょうか?


 経営者を守旧と打破に分けるマインドとは

 分かれ目の一つは、「社会の価値観も、そこにいる各プレイヤーの力量や考え方も常に変化し続けていて、すべては相対的で流動的である」、という「世界観」だと私は考えています。かつて私が仕えた経営者が中国を小ばかにし続けて会社を傾けた、という話を以前このブログでもしましたが、中国が生産だけでなく、販売面で、そしていずれは技術面で世界の頂点に立つことは20年前の当時から明らかで概ね社会のコンセンサスでした。しかし、中国人差別の激しい地方出身で、かつ貧しい頃の中国を知る彼は、「中国を小ばかにする」ことで自分のストレスを解放して精神を守ってきた時期があったのでしょう。それを経営者になっても変えることはできませんでした。当時は私は、彼のことを「不勉強」と思っていましたが、今ではこう思っています。「世界のパワーが常に変化し続けているという「動態論」を彼は信じられなかった」

 そして、そこではイデオロギーは何ら価値を持ちません。市場は、人口×所得水準で決まっており、技術水準は、国家的な投資規模で決まってくるのであり、そこに一党独裁も民主主義も保守も社会主義も関係ないのです。ただただ、庶民は豊かで平和な暮らしを求め、より安楽で快適な方法を求めている、という「人間の本質」がそこにはあるだけです。

 変化を起こすか、妨げるかの分かれ目の二つ目は、「世代」と「外部文化」への心理的な受容です。流行りの言葉でいえば「ダイバーシティ」です。これはさらに二つの意味があります。
 一つは、特に私のような人口の多い団塊ジュニア世代、しかも男性というマジョリティに近いところではその傾向が強そうですが、誰もがいったんは自分を基準に物事の価値、例えば売れるかどうかを判断するわけですが、経営という意味では、それを対象とする市場の人口構成別に積分しなければならない、ということです。高齢者専用でもない日用品メーカーであるならば、家庭で選定の主導権を握っているのは、半分以上が女性であるし、アジア圏に輸出しようと思えば、海外の特に人口比率の高い若い世代のニーズを知らなければなりません。であるならば、その層に何らかの方法で答えを聞くしかないはずです。

 ダイバーシティのもう一つの意味は、「変化を知る」ということです。社会の変化は、大きな流れとしては世代交代によって実現します。どんなに優れた人物であってもいずれは年老い、死んでいき、次の世代に忘れ去られていきます。そして、新しい世代の考え方が市場で大多数となるわけです。

 おそらく70代以上の多くの人は、日本初の女子ボクシング金メダリストの快挙に対して、「嫁入り前のお嬢さんが殴り合いなんかして…」という80代のおじいさんの発言に内心では同意したことでしょう。しかし、世間の大勢は異なりました。「スピードと耐久力を鍛えぬいて、苦しさを乗り越え世界の頂点に立つとはカッコイイ女」が「今の正常な感覚」でした。男にできて女にできないことなんてありません。一方で男性20代の喫煙率は83%(1974年)から23%(2018年)に低下しています。LGBTQのアクセプトも、ハーフの人材のスポーツやビジネスでの活躍も、同じように世界は次の世代の価値に塗り替えられてきています。それに個人として賛同するかどうかではなく、その「新しい価値感」のある市場に常に企業は対応し続けなくてはなりません。
 経営者は概して年齢が高いことが多いですし、停滞する中小企業は社員も高齢化していることが多いので、高齢世代を中心に考えることが固定化していることが多くありますが、それでは市場の変化を知ることができません。

 これへの対応で一番よいのは、「実力主義」の前に、「若手」「外部勢力」を常に積極的に取り入れることです。
 そして、ある種の経営者はこの新しい血を入れた時の「火が起きる感じ」が好きであり、その一方でこの「火が起きる感じ」をテロの予兆であるかの如く嫌う経営者もいます。あるいは、こんな言い方がよいかもしれません。組織を「川の流れ」であると捉えるか、それとも「静かな湖面であるべき」と思っているか。
 考えてみれば、かつての日本の教育は、「静かな湖面」の構成要素であることを求める教育であったのでしょう。優秀な生徒であればあるほど、その傾向が強いように思います。しかし、実際の人間集団は、「皆が勝手な方向を目指しつつ、楽な方儲かる方へと流れる奔流」です。その様子を見て、変化を知ることを楽しいと思い、それへの対応が上手くいった時の勝利感にしびれる、そういうマインドが変化を起こせるタイプであり、市場とは関係なく、規律や秩序やルール、手順、道徳、礼儀を要求するタイプは「乗れない」タイプです。

 では、なぜ変化を楽しいと思うのでしょう?

 それは、そこにまだ自分が知らない、見たことのない風景が広がっているからです。そこにはもっとおいしい木の実や立派な財宝があるかもしれない。それを知りたい、できれば手に入れたい、世に広めたいという冒険心、功名心、あるいは欲求に素直であると、それが楽しいのです。今まで出会ってきた、小さくても成長する企業を率いてきた人は皆、そんな「お金大好き」を健全に表出するような人達でした。

 

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