いろいろな業種の方とお話しする機会があり、その業種について知るときには公的統計をいじってみる。小さな業種分類であると適当な統計がなく、ポータルサイトでの登録数などを援用しなければならない時もあるが、政府統計には様々な小分類があり、何等かの近い「競合」「同業数」を得られることが多い。先日は、「ハウススタジオ」を調べたのだが、そんなのないだろう…と思ったが、その上の分類である「貸し撮影スタジオ」に関する統計はちゃんと存在した。その辺、やはり日本は素晴らしい。
そして、インターネットはもっと素晴らしい。
個人的な話になるが、大学・大学院時代、私は交通と立地に関する研究をしていたので、交通や人口、商業に関連する統計データをいじる機会が多かった。当時は随分とたっかい手数料(今から思えばかかる工数と当時の計算機使用料を考えれば仕方のない額)を公的機関に払って、磁気テープ(オープンリールです)にデータをコピーしてもらい、それを計算機センターの読み取り装置にセットして、作成したプログラムで必要な部分だけを抽出して読みだす(全部をコピーするほどの記憶容量がパソコンはもちろん、ワークステーションにもない)という作業をしていた。なお、これは一応「平成」になってから少したった頃の話である。そして、それを自分で考えた仮説に添ってデータ加工や集計を一晩、二晩掛けてプログラムで行い、ようやく結果が得られるのである。当時から表計算ソフトはあったし、今と同等の機能自体はあって私は最も使いこなしている部類だった。しかし、到底パソコン(当時の最先端機のCPUは、80486…)処理能力は日本の統計を処理するには追い付かず、結局徹夜の朝方になって沈黙するパソコンを再起動する羽目に、特に締め切り間際に何度もなった。社会科学分野では研究進行能力のかなりの部分を、「データを要領よく小さく切り出して目に見える形にする」要領の良さが占めていた。
それが今ではインターネットでデータを次々と閲覧でき、それをEXCELで数十秒で加工・抽出することができるのである。できることなら、もう一度論文をやり直せたら…もう少し「考える」ところに時間を割けるはずである。
それは今日の本題とは全然関係ない。
前述の通り、ぱぱっと「同業者」の数を得て、そして「同業者の数の増減の傾向」を追う。それもできれば都道府県別、場合によってはさらに細かい方がよい。
一方で、これら供給側の数に対して、需要側「市場」の動向も。追うことにする。コンシューマー向け商品であれば、大きく言えば人口であるし、商品によっては、年齢別、あるいは昼間人口であることもあるし、所得水準が関わる場合もある。法人の場合は、事業所数や就業者数であることもあるし、売上規模に比例して需要が増えるような場合は、売上(一部の経済統計では調査がある)を調べる。
そのうえで、需要と供給のバランス、それにその伸長緩和の状況を地域別に見てみると、いろいろな商品・サービスで共通することがある。
それは、東京だけが異常に個人よりも法人に競争が寄っていて、しかも競争が異様に激しいということである。(なお、念のために記載しておくと、過去に調べた諸商品の中で、漁業関連の統計だけはこれはあまり言えない。東京も島しょ部を中心に漁業振興には熱心ですが、北海道の存在感が非常に大きい。)
もう一つは、東京と沖縄、それに震災復興の影響で宮城と福島は比較的供給当たり需要が拡大、あるいは維持される傾向が続いているが、その他の地域は概して縮小している傾向にある。
先日も都内に立地する法人向けサービスの事業者の事業拡大方策を検討するべく、「次の出店先も23区なのか、郊外や埼玉、神奈川なのか、それとも地方なのか?」の思考を巡らせデータをいじっていたところ、この場面に出会った。供給者あたりの「需要側の売上規模」は東京が圧倒的に大きい。しかし、供給者あたりの「需要者数」は東京が全国一少なかった。そして、同じサービスを個人向けに提供できないかと供給者当たりの「人口」で調べても東京が全国一少なかった。
ここから言えることは、「東京だけは、少ない大きな会社をたくさんの競争相手と取り合う競争をしている。」そして、そのために、「1件当たりの売上は大きいので、そのために社内で多くのリソース(人数)を割いている、そのため、供給者側も規模が大きい」ということである。
逆に言えば、もう少し郊外に行けば、競争は激しくないが、1件当たりの売上も小さくなる、ということである。
この「競争の激しさ」は東京だけが例外的な値で、その他の地域、例えば東京近郊の埼玉、神奈川と震災復興が進む宮城、福島はそこまで極端な差ではなかった。つまり、東京以外のエリアは通常の需要と供給の均衡バランスにあり、東京だけが違う種類の競争をしている、ということである。
私は大阪が本社の会社で経営管理の仕事をしていたこともあるのだが、その時も大きな案件はすべて東京だったので、東京に営業部があるのに、大阪の営業担当者もせっせと東京に出張していた。それは、大阪には案件がないから、と当時は思っていたのだが、実はそれは正確な表現ではない。東京には巨大な案件があり、たくさんの競争相手がいる。大阪にはあまり競争相手はいないが、小さい案件しかtない。予算を達成するためには特に広告もしなければ流通整備のノウハウもないその会社では一発狙いが営業では必要だった。
しかし、大阪にはあった「小さな案件」は割と均質でさほど要求度が高くないのであれば(おそらくそうだった)、比較的生産性を上げ利益を確保できる案件である可能性がある。ただし、そこを効率よく集めて獲得するためのマーケティング手法をきちんと整備しないと、東京と同じ考え方、進め方ではコストも合わないだろうし、かえって取れない、というのが当時の会社の状況だったのである。
事業の世界にいると、どうしても東京の競争が普通だと思いがちである。しかし、多くの産業はいまだに働き手も買い手も地理的条件に制約されて存在していて、「ネットで完結」する世界はまだ限られている。
その中で、東京で激しい競争で勝ち抜くことだけが戦略ではない。効率性を高めて、「東京以外」に軸足を置く戦略も考えらえるし、オペレーションを改善することを強みとする中小企業においては、その方が特徴が生かせる場合もある。