6月18日金曜日に事業再構築補助金の第一回の通常枠の採択結果が公表されました。通常枠での平均採択率は30%でした。私もいくつかのプロジェクトにかかわらせてもらい、採択に至った例もいくつかあり、その過程で大変勉強になりました。
補助金の目的と現実
弊社自身は補助金・助成金の受注申請書の助言のスポット業務、というのは原則お請けしていません。やるとしたら、お金をもらわず、短時間の意見や視点の提供に留めています。(ただし、コンサル事業をやっている顧客の一部として参加することはあります。)それは、スポットで大きなお金をもらっても、継続性がなければ事業としての収益の安定に寄与しない、という「自分の収入」の観点からの理由が一つあるのは事実で、そのことを隠すつもりはありません。
しかしもう一つ、その会社のことをきちんと理解し、責任のある助言をするためには、いきなり補助金から入る、という手法は良くない、と思っている、という事も大きな理由です。
特に、数年前からの厚労省関係の助成金での申請ブーム以降、「リスクを取って会社の体質を改善したい」「時代に合わせて会社を変えたい」という本来の補助金・助成金の意図とはかけ離れた、「買い物代金の一部を税で賄う」ことや「利益を補うための助成金活用」が世間に蔓延するようになりました。
また多くの「支援支援事業者(補助金屋さん)」がその申請補助を担って、申請をうまく通して、そしてその一部を成功報酬としてもらうことを生業とするがために、その会社の「あるべき論」とは乖離した申請をすることが多くみられます。
今回の事業再構築補助金でも同様ですが、一般にこうした補助金・助成金を受給するのは、申請書を書くのも大変なのです。それ以上に、そのあとの受注手続きも面倒ですし、最終的には数年間にわたり、成果を数値でまとめて報告する、という作業が発生します。それが会社の事業戦略の重要な一部であり、データの整理や集計が、受給者の義務ではなくても自分で集計と振り返りをやる必要のあるようなことでなければ、到底やりきれない大変なことです。
軽い気持ちで業者の口車に乗って助成金を受給したけど、面倒すぎてもう補助金はやりたくない、という会社も多くいるのも実情です。
税を投入して、世直しを行うことが補助金・助成金の目的のはずなのですが、補助金関連「だけ」を営業すると、そうではなくなってしまうのは、ストレスだなと思ってやらないのです。
「事業戦略国民運動」
今回の事業再構築補助金も2月ごろにスタートした際には、「建物の工事費に仕える補助金である」という事がことさらに強調され、実際、初期の相談には、「持ってる土地を転用したい」「稼働率の下がった不動産のリニューアルをしたい」という意図が明らかに透けて見えるようなものが多くあり、「またか…」という感を強く感じ、話を聞かずにお断りしたものが結構ありました。
3月に補助金の申請要領や手引きが明らかになると、膨大な要求事項とともに、経済産業省や中小企業庁の狙っていることが徐々に明らかになってきました。そして、ゴールデンウイーク頃からは、中小企業庁自身がいろいろな場面で、その意図を発信するようになりました。
それによると、事業再構築補助金予算の1兆円を用いて、国は、「中小企業が事業戦略を一度きちんと考える」ということを要求していますある担当官は、これを「事業戦略国民運動」と表現しました。そして、単独ではなく、「経営革新等支援機関」、つまり経営の知識のある専門家を利用して、知識をアップグレードし、数値を用いて論理的に考えることをこの機会にきちんと行うことを求めていることが次第に明確になりました。
従来の「中小企業をつぶさない」政策が限界であることはかねてから指摘されていましたが、中小企業の競争力強化政策をかねてからの持論としている菅総理の意向を受けて、「ちゃんと考えて実行できるところだけを支援する」という方針に大きく変わっている、ということが明らかになってきたのです。
今回の事業再構築補助金には、もう一つ大きな「変革」がありました。それは、申請者本人が事務局に電話をすると、「不採択になった判断ポイント」をかなり詳細に教えてもらえる、ということです。これには大変な手間がかかっているはずです。それを敢えてやることにしたというのは「事業計画の不十分な点を考え直して、実現性の高い事業計画に改善して再度申請することができる」ということです。
言い方を変えれば、「事業計画のチェックを国がしてくれている」です。私のの知る限りでは、これは日本で初めてのことです。
「事業戦略国民運動」が建前だけではなくこのような具体的な形をとったことに、中小企業庁に敬意を表したいと思います。
選別される「経営コンサル」
事業者はコロナ禍で息も絶え絶えの中で、慣れない思考を要求されるわけで、途中で申請を断念した事例も私の周りでもいくつかありました。しかし、それは事業者だけではありません。それを手助けする、私を含む自称「経営の専門家」も同じです。相談先として指定されている「経営革新等支援機関」に選ばれているのは、銀行などの金融機関、税理士・会計士、経営コンサル会社や、中小企業診断士などがあるのですが、このうち、販売(営業)、製造、人的資源管理や会計などの経営全般の知識を資格として要求されているのは、実は中小企業診断士だけであり、他はそのような知識を認定されている仕組みにはなっていませんで、少しの研修とあとは自学に任されているのが実情です。
そして、中小企業診断士も、様々な場面で「全然経営のサポートができない、役に立たない資格」と揶揄されてきた存在です。
それもそのはずです。実は、これらの有資格者の多くは、組織の「経営」の経験がほとんどないので、試験のための知識はあったとしてもそれを実際に使って判断した経験がないですし、もっと致命的なのは、「モノを売る苦労をしたことがない。売れなくて責められて苦しんだことがない」ということです。資格があったところで、そんな人の話を、百戦錬磨の経営者が聞いてくれるわけがないのです。
事業再構築補助金でも、「どうやって売っていくのか?」を具体的に考えるというところが、全体の計画の中で最重要事項であり、最も弱いところであるとの指摘も、一次の採択結果から指摘されています。あなたの支援者は、「売り方のアイデアや売上数値の考え方」を具体的に教えてくれていますか?
事業再構築補助金が採択されたかどうかは、経営者の構想力だけでなく、サポートした「経営コンサル」の力量の差でもあります。事業再構築補助金をきちんと採択に導け、もちろんそのあと、それを遂行サポートすることで事業転換を成功に導けるかかどうかで、経営コンサルも選別される時代が来たということです。
私は経営経験も営業経験もあり、数値も文章も得意ですので、自分ではいい時代になったと思っていますが、ご同業の皆さんはいかがですか?
インチキを見抜く力
そうそう。今、コンサル業界では大変なネタになっているのですが、とある支援機関が、ほとんど同じ概要で「飲食店をフルーツサンドの販売店に転換する」という申請を複数の事業者に書かせていたことが明らかになりました。これも「採択された申請の事業概要を公開する」という中小企業庁の改革のおかげで発覚したものです。ここで名前を書くと訴えられて負けるのが怖いので書きませんが、巷では、「フルーツサンド税理士法人」とからかわれていますので、検索してみてください。
「補助金業界」なるものがあるのもおかしいのですが、その業界の一部では、どうしても生産性をあげ、スキルの低い人間でも対応ができるようにしてコストを低減し案件数を稼ぐためには、「雛形」を作り、企業の強みとは関係なく、できるだけ出来上がった計画書を流用するという事がかねてから行われてきました。これは、その氷山の一角が露呈したものです。
実際には個別の経営改善への対応能力がないのにこうした対応をして、収益化しようとしているのはこの法人だけではないのでしょう。
先ほど、担当省庁を称えましたが、この「インチキ」は実は3件が採択されています。そして、不採択案件は公表されていませんので、もっと大規模に実施されていた可能性もあります。同じ支援機関であれば、あとでチェックすることも可能ですが、実は名義上の支援機関は、確認書の発行だけの問題なので、これを偽装することもできてしまいます。
まあ、概要だけでなく、本文含めて2つの文書の類似度をチェックする仕組みはすでに技術的にはだいぶ以前に確立しているものですので、事務局も、そこを再構築していただくことになるのでしょう。
ただ、経営者の皆さんは、そんなこと以前に思ったはずです。「フルーツサンドなんて一過性の流行りだろ。タピオカドリンクみたいに、数か月後には見る影もないだろう」
私もそう思います。というか、私の周りにもそういう案件が以前にあり、「あんた、2年前だったら、タピオカ屋やろうって言ってただろ」と、実際悪態をついたこともありました。
実は、こうした「勘違い」が起きる理由もまた、「専門家」にあります。外食業界では、一部の大手事業者を除いて、自社ではメニュー開発をする力がなく画面(えづら)のきれいな提案を持ってくる「外食プロデューサー」なる方があちこちにいて、メニューを提案しています。味と見た目がきれいでコストや調理方法がそこそこ現実的なメニューを提案し、それが採用されたら手数料を取るのは別に問題があることではありません。
ただ、それが実際に通用するものであるのかどうかを判断するのは、経営者であり、飲食プロデューサーも経営コンサル同様玉石混交だということです。みな、「有名だ」と提案書に書いてありますが、どのプロデューサーも、ほとんどの人は聞いたこともない人ばかりで、その人が作ったからと言って売れるわけがありません。それが判断できるかどうかは、結局、その業界をどれだけ知って自分の頭で判断できているか?にかかっています。そして、こうしたインチキに引っかかるのは、「鼻が利かない」分野を新規事業分野に選んだ時です。
結局、今持っている知識、スキル、技術を元に判断できないところを「新分野」に選んではいけないし、その判断をたとえ専門家であったとしても他人に委ねてはいけない、という事をこのフルーツサンド事件は示しているのです。