経済再開に向けて、政府や都道府県も様々な助成策をたくさん打ち出してきました。たとえば、飲食店のパーティ―ションやその他の再開のための設備改善には最大150万円の助成が行われることが5月22日金曜日に公表されました。183万円使って150万円補助されるのですからこれまでにない有利な施策です。これに関する経済産業省からの案内はこちらです。
https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200522002/20200522002.html
政府はこのほかにも様々な支援を行っており、これは対象業種にとっては大変助かる(飲食業が感覚を開けて営業して採算を取るには単価等他にもいろいろな問題があるわけですが)ものですが、それだけでなく関連資材を販売する会社にとっても願ってもない追い風です。こうした助成制度は、「世の中の変わるべき(と政府が思っている)方向性」を示しているものでもあり、これを直接利用するしないに関わらず市場の変化、対応すべき事項の把握のためにも理解しておくべきことだとも思います。
私も毎日2回程度経産省と東京都の情報をチェックして、お付き合い先や知り合いで少しでも関係のある経営者の方には、「こんなの出ましたよ」と素早くお知らせしています。そして相手の方も、「おー、すぐやらせる。ありがとう」と返信が比較的すぐきます。しかし、すぐやり終わって営業のローラー作戦が開始されるか?というとなかなかそうはいきません。多くのケースでは理解と準備に延々と時間がかかるのですが、時々すぐ動き出す会社もあります。こうした情報が出た瞬間に走り始められる会社には一体何があるのでしょうか?
他人力
会社の歴史が20年、30年とたち、社員が50人、100人と増えてくると、社内にとりあえず今ある顧客群への営業を進めるためのノウハウやネットワークは備わってきて、効率的な営業が進められるようになります。しかし、こうした変化のタイミングで出てくる情報は、社内のそうしたスキルだけでは御することができない部分があることが通常です。たとえば、上の飲食店向けパーティ―ションの例でいけば、商品と、飲食店へご案内するパスと、さらには助成制度を説明し場合によっては申請を支援する仕組みづくりがそろってこそ、車輪は回り始めます。その「必要パーツ」をまず、素早く見抜く必要があります。
そのうえで、そのパーツのうち、社内にないものはすばやく調達する必要があります。今回のような災害対応的なものでは「社外の団体との連携」にならざるをえません。そして、さほど大きくない会社ではその連携先探しは普段からの社長や幹部のネットワークを素早くSNS等で手繰ることが第一歩になります。ところが、動き出さない会社は、この部分があまりうまくないという方が多いように思います。反対に動き出す会社はトップがその場で調達先候補にメッセージをすぐに送っています。
どうも見ていると、表面的には遠慮、というか他人にものを頼むにはちゃんと(内容も体裁も)しなければならない、というようなまともな感覚が行動を邪魔しているようです。それは平時は正しいと言えば正しいのですが、普段から「利益はシェアする人」と思われていれば、多少は「雑」でも話は進みます。そういう「無礼さ」「遠慮のなさ」「いきなり飛び込む恥をものともしない」蛮勇さは、「変える経営」にとってとても大事なものです。
しかし、もっと踏み込んでみてみると実は、そうした頼み方の問題ではなく、「普段付き合いのない人といきなり協業することへの怖さ」のようなものが背景にあるようです。
スキーム力
さきほど、「利益はシェアする」という話をしましたが、実は会社が大きくなると、この意識が薄らいでいて、なぜかしら協力者に5%、10%払えばよい。それすらも惜しいという意識になっている事例をよく目にします。それは大きな間違いだと私はそのようなケースで断言するのですが、「お金がでていく」という意識が強いようでいずれのケースもなかなか治りません。
しかし、そんな割合では、相手が時間と労力を割く動機にはなりません。ビジネススキームとは、契約書に記載の内容を決めることではなく、双方が利益が出て拡大できる状況をいかに実現するかの構図のことです。したがって、「双方がスタートダッシュをかければその分の人件費を賄って余りある利益が双方にでる」ことが合意点になるよう構造を調整する必要があり、そのためには多くの場合、「利益折半」に近い水準の合意が必要になります。自社の利益額が単位販売当たり半分でも、数量が3倍、4倍になればそれでよいはずなのにそういう合意をなかなかしようとしません。もしそんなに惜しいならば、販売単価を上げて自社の利益を確保するべきです。
逆にそうした「双方にとっての勝ち筋を探す」という姿勢が理解されていると、合意は比較的容易であり、かつ情報が集まりやすくなります。そして、普段からそうした姿勢で、情報網を経営者が整備していると、こういう時に相談する相手がいるのです。別に飲みに行けとは言いません。しかし、経営者の情報交友範囲は自社の事業範囲よりも広めであるべきだし、SNSベースで筆まめであるべきです。
バカにされることを恐れない
これはものすごく大事です。経営者が「ちゃんとしてから出そう」と思っているとそのサービスはいつまでも発売されません。そして時機を逸します。他社より商品自体が機能や価格で劣っていても、ユーザーに迷惑を掛けたり危険でないならば、投入してしまい物流や宣伝の詳細はやりながら考える。頭で考えているよりも、最初の3,4例を力づくでやり遂げて分かったことを用いて整理した方がスピードも速く完成度も高いのです。
世の中の激しい変化の波に乗ろうとする、今回の助成対象になるような商品はいずれもこれまで市場になかったり、あっても日の目を見てこなかった商品です。そのため誰もが不完全さを抱えながら走っていますし、ユーザー自身も効果(直接の効果というよりも来客に対する心証も含めて)がわかっていません。いままでやらなかったことなので、営業にいくと、「お前はバカか」的な態度を取られることも多くあり、しかもその一部は的を得ています。それでもいいのです。目標は、バカにされないことではなく、いち早く世の中に必要とされているものを送り出して、名を上げ、利益を出すことのはずです。
しかも、そんなチャレンジの10個に9個は外れます。外れて構わないから走ってみればよいのです。そう言って鼓舞できる経営者が変化の時代に対応できる経営者です。
以上3つほど、直近で目にして気になった点をまとめてみました。
実は今日のこの話にはベースになった題材があります。とある国内工場、PP素材の普段はクリアフォルダの特注品などを作っている会社なのですが、その会社がフェースシールドを作りました。SNSなどでクリアフォルダでフェースシールドを作る動画を見て、製品化したのです。中国から同様のものを輸入し始めている会社は他にもありそちらの方が安いのですが、その会社の製品は医療機関の受付などにきちんと売れています。
さらに、それを仕入れたとある商社は、その工場の製品の工程上の面取りに課題があることを発見し、面取りを効率化できる設計を行い、商品化を行いました。実はその会社は、飲食店や医療機関にはこれまで全くアカウントがない会社でしたし、普段はこうした小型の消耗材を扱う会社ではないのですが、御多分の漏れずコロナの影響で今期業績は不透明化しています。そこで、とりあえずチラシを作らせ既存客に持って回るとともに、新ルートを私のような外部協力者を用いて急ぎ開拓し、すでに同社にとっての新業種への納入に成功しています。立案から納品まで約1週間でした。
今は危機と同時にチャンスでもあるのです。それは売上のチャンスであると同時に、変化に対応できる機敏な会社に変貌するチャンスでもあります。