経営管理の改善業務をしていると、いろいろな場面で、実務の担当者に「1単位でどのくらいの時間がかかっていますか?」という質問をします。そうすると、相手は「外部の危ない人」に対して、実績をもとに、たとえば8日で3件完了できていたら、多少余裕を見て、「1件4日弱かかります。」、と回答してきます。「では、月間20日想定では遂行計画立案上は標準5件というところですね」、と相手に言うと、相手は大抵「そうですね。状況によりますが、大体そんなものだと思います。」と回答します。
これはその担当者に悪意があるわけでもなく、「実績をもとに確実に終えられて迷惑をかけない時間」を回答しているのです。しかし、会社としては言われた通りのスピードでは、やろうとしていることを実現するのに、到底間に合わないし、コストも合わないと、途方に暮れてしまいます。
実はこれが実際のスピードではないことはご存じの通りです。たいてい2倍、習熟初期なら5倍のスピードになります。
これにはいくつかの理由がありますが、一番大きいものは、「日本人は、使える範囲で最大の時間をかけて仕事をして、組織への貢献よりも自分個人を守ろうとする。」というものです。つまり、スピードアップして「俺が貢献しました」と主張しても何も自分にはメリットがないし、間違えないこと、時間がかかることが「頑張ったこと」と評価され、ミスがあると叱責されるという事が刷り込まれてしまっているため、そのような保身第一の行動基準になっているというものです。
これが社員ではなく、外注の見積もりの場合には、さらに別の問題があります。同じものを作るのに、時間が少なくても多くても対価は一緒のはずなのに、「時間がかかる方がお金をもらう根拠になる」と思っている節もあり、時間×単価で見積もりを作ります。
実際、公共調達ではこの「時間単位請求」になっているため、こういう「誤った商習慣」が定着してしまうのも無理はありませんが、本当は、早くできる方が高くとっていいはずです。そして、大抵の場合、早くできる人の方が品質もよいのであり、「ゆっくり丁寧に」やってもそれだけでは品質は上がりません。
さて、こういう状況になったとき、経営リーダーはどうすればよいのでしょう?「もっと早くできるだろ」と詰めますか?それはそれでまた「パワハラ」とか言われてしまうし、「わかっていない」とSNSで書かれる原因にもなります。それでは、対処方法を5つほどご紹介しましょう。
①まず、「心の中のバッファ」を吐き出してもらい、そのバッファを経営リーダーが自分の方で用意することとする。
一番効果があるのはこれです。異変があった場合のバッファや周囲との納期調整はリーダーが担うこととし、自分の中で持っているバッファはいったん吐き出してもらい、純粋に作業見積もりだけに必要な時間を教わることです。たいていの場合、かかる時間の倍ぐらいで申告する人が多いですので、これだけで半分になります。
リーダーがバッファを見ればよいし、予期せぬ状況が発生して遅れても、リーダーならば簡単に調整ができるようなことも多いのです。遅れたら会社が危機に陥るほど困ることなどそうそうあるものではなく、実は大抵のことは、「できるだけ早く欲しいけど、実は多少遅れても何とかなる」ものですが、それが現場はわかっていないのです。
②早い方が価値が高いことを言明する。
「評価者は、時間をかけて、完成度が高いものを残業をして仕上げると喜ぶ」と多くの作業者は思っていて、それに合わせてくれています。自分はそうではない。いったん80%レベルで出して欲しいし、早い方が価値があると思っているし、あまり遅ければやる意味もないので、中止する、という考えを伝えることです。実際、「ゆっくりやる」ことは経営的には意味がないし、あまりに遅いと作業自体に価値がなく費用だけ掛かる無駄です。そのことがわかっていなかったり、その基準が伝わっていないケースが多くあります。
③チェックは他人が行う仕組みにする。
チェック時間がやたらとかかると計画しているのは、特に業務立ち上げ初期には、未知の要素も多いため、やむを得ないところではあります。実際、何度もやり直すと次々とエラーが見つかるものですから。しかし、文章にしろ、webページにしろ、あるいはプログラム類にせよ、他人がチェックした方がエラーが見つかりやすいという事も多くあります。しかも、これにより「一人しか知らない」という状況を回避することができます。文章はwebページは、いったんリリースしたあとに間違いが見つかる都度直せばよいので、値段や法的な表示義務、安全上の記述など、「間違えると困る箇所」だけ念入りにチェックすればよいことです。
ただし、プログラムだけは…エラーがあると動かない、誤った挙動をするだけに、この方法で短縮できるとは言えません。そこは気を付ける必要があります。
④時間がかかる要素を別の人に分離する。
大抵の作業には、事前準備、事前調査などがあります。そして、そこは割と単純作業で、しかも時間がかかります。実は、この事前準備も「対象への理解を深める」という点では商品の仕上がりや後工程のスピードアップに関係している部分があるのですが、それでも、ここを分離すると賞味の作業時間は減りますし、担当者が他の作業をしている間に別の人、あるいは在宅クラウドワーカーに低価格で依頼するなどできますので、トータルではスピードアップにもコストダウンにもなります。
そして、分担すると手順が明確になり、決められた手順で同じことを繰り返すと習熟が進みスピードアップと品質がアップしたり、ツール導入による効率化が進んだりします。
⑤スピードアップが必要なので、他の人と並行して分担することにするがよいかと伝える。
最後は、もう一本ラインを作って、2本並列にするということを具体的に検討することです。ただし、中小企業の場合には、作業もさほど多くなくて、実際には2本立て化に実際には至らないことも多くあります。
これは担当者を脅すという意味ではなくて、本当にスピードアップが無理であり、かつ経営的に進行を早める必要があるならば2本ライン化するという意味です。ラインが一つの方が管理も楽で、品質も均一(2本化するとどうしても、テイストが異なる部分が生まれる)なのですが、経営的には、そんなばらつきは外から見て気づく人は少数であり、早く営業に投入する方がよほど意味があります。
で、こういうように相談すると、ようやく、「こうすれば早くなるかもしれない」という知恵がでてきて、作業にも緊張感が出てきて、スピードアップするのです。
ただし、ソフトウエアに関しては、これができる部分とできない部分があります。うまく設計すればパーツを分業することはできますが、全体を結合して作業する部分は分業できないからです。
①~⑤のようなプロセスを踏むと結局、工夫が進んで倍速ぐらいにはなることが多いのです。ただし、「倍速になるから」値段を半分にする、ということはしてはいけません。それをするから、「ゆっくりやった方が得」という動機を生んでしまうのです。