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事実に基づけない訳

昔、とある会社の管理系の取締役だった時、営業に依頼して、営業中の見込み案件をすべて列挙し、それに商談の進行状況を記載し、その進行状況ごとに受注確率をあげてもらったことがあります。よくある「見込みのヨミ表」「S,A,B,Cの案件ランク」です。そんなものもなかったこの会社では、これを作るのにも相当の現場の抵抗があったのですが、それでも作ってもらって、何とか取締役会での業績見通し根拠に使用していました。
半年ほど蓄積して検証してみると、Sは80%、Aは50%と言っていたのに、実際にはどちらも20%台でした。Sは、「顧客似て当社1社絞り込みの上顧客社内決済プロセスが進んでいる」、Aは「2者択一に近い状況で顧客の検討が進んでいて、しかも当社不利の情報はない」という基準を示していたはずなのですが…

 検証結果を示すと、営業を管掌する役員は、それを自分たちへの攻撃と受け止めて、「だったら出してやらない」という態度を取りました。そして、こう言いました。「やってるときは、大丈夫だと思ってやっている」

 一案件の規模が大きい、BtoBビジネスでは、成約状況を見極めることが難しいのは事実です。競合の状況、社内の実施決定状況などをきちんと把握するのは相当の力量と、顧客との信頼関係が必要なことですが、それも下請け体質の中で、「できっこない」ということを開き直られました。
 そして、受注確率が20%として経営計画を立案するということは、今の数倍の案件が必要である、ということであり、それもまた、現有人数を多少増加させてもできっこないことでした。私はその役員に、「ビジネスモデルとして破綻している」ということを言わざるを得ませんでした。
 (実際、その会社はその数年後に破綻処理しました。)

 そのときは私も30代で若く、「こんないい加減な会社、あってよいのだろうか?」と腹が立ったのですが、その後、いろいろな会社の内部を見知ることができたうえで分かったのですが、「こんなことは中小企業ではざら」です。

 では、どうしてこんなことがまかり通るのでしょうか?

「人は自分の見たい事実しか見ない」とは、ローマ皇帝ジュリアスシーザー(カサエル)の言葉ですが、事態はもう少し複雑です。

一つには、現時点では、楽観的見通しを共有することで、楽をして、結果が出たときには、自分は責任を負わない、という態度が管理職であっても、あるいは経営幹部であっても蔓延しているということです。これは、過去の経済成長には、それでも「さほど痛い目には合わなかった」という経験がその層にあるので、「それでも実は何とかなる」とおもっているからです。「痛い目にあった」会社は存続していないので、今存続している会社はすべて何とかなった会社です。そして、日本は敗者復活の難しい社会ですので、何とかならなかった会社出身者は発言権がそのような場では与えられることはまれです。そのために、「楽をする共犯関係」が成立してしまっているのです。

 二つ目は、これに対して、経営者が実はさほどのフリーハンドを握っていないため、対処が困難であるということです。現実の日本の経営者は、経営者は解雇もできないし、命令もできず、合議と事前調整に縛られています。この合議と事前調整が全体最適を目指すメンバーの中でやられていれば、なんとかコストはかかりつつも、前に進むはずなのですが、実際にはそのような理想的な状況はめったになく、自分の保身、部門の利益、過去の思い込みや自分の言動に縛られたメンバーが集まると、「何もしない」ことがメンバー間の唯一の交点であることが現に存在するのです。これは、明らかに人選の問題なのですが、その人選自体が、前任者の「会社の利益拡大」以外の思惑で行われている部分があるので、もう変えようがありません。

そして、三つめは、日本の組織に深く根付く「言霊主義」です。「勝つと唱え続ければ勝つ」「問題が起きるというようなことを口にすると、問題を呼び寄せる」というようなことを、言われればおかしいと思うものの、普段の言動の中では平気でやっているような組織がとても多いですし、特に中小企業ほど、そのような体質を色濃く残しているところが多くあります。物量を整備しそれを狭い箇所に一気に集中投入することで戦線を突破する、というような近代戦の戦い方を第二次世界体制を経てもなお、日本の管理職は学ぶ機会を得ていないのです。

データを作って示すことは簡単なことです。1週間もあれば、だいたいのことはできます。しかし、こういう組織にいかなるデータを示しても、やっぱり組織は動きません。それを受け入れて動いてしまっては、彼らは自分たちの存続基盤を維持できないからです。

その状況を改善するのは大変骨が折れることです。弊社では一般的には、決裁権限者に「データに基づく合理性がなければ、お金を動かさない」ことを徹底してもらい、それを監視する一方で、「データがあればお金が動く」ことを具体的にやって見せることを1部門で集中して支援して行う、ということを行います。つまり、「一部門をえこひいきする」ということで、価値観の変化に従わざるを得ない状況を作るということです。
しかし、これはトリガーでしかなく、結局はそのような動き方ができる人を各セクションのリーダーに据えるまでは長い長い暗闘を経営者と共にすることを覚悟しています。

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