ブログ

「恐怖心」との対峙

売上が絶好調なのに、在庫が切れて売り逃す会社がありました。手法がわかっていないのかと思い、最初に勧めた対策は、「経営コンサルタント」らしく、こんな手順です。

  1. 売上計画を達成できる単品別の販売計画を立案
  2. 販売計画に基づく仕入計画を単品別に立案
  3. できた仕入金額を経営者から財務・営業双方にネゴる

こんなものはお手のもの、プロである私の手にかかれば、一ジャンル2時間もあればできてしまいます。

 大抵の社員が陥るのは、1の単品別販売計画で、「当たらない」と恐れることです。これについては、お金をいただいておいて申し訳ございませんが、私がやってもやっぱり当たりません。やれることと言えば、昨年の同月の販売パターンを予算に応じて拡張し、それに直近の流行アイテムを厚めに増加させ、広告方針やその他メーカー様との協調販促アイテムを厚めにして、最後に全体を金額調整するぐらいです。AIとか高度な数式とか…使いません。(使えません)
 あとは、余り気味になっているものが出てきたら、広告を少しシフトするとか、価格を調整するとか…最終的には知り合いに声をかけるとか…とにかく策を講じて必死に売り切る覚悟をして、計画を作成します。億単位の仕入を行う話ですので、最悪の場合、腹を切る覚悟で報告提出のメール送信ボタンを押します。 (そして、送信したあと、ケアレスミスに気づきます。)

 しかし、仕組みを作って運用に投入しようとすると、「こうした仕組みを知らない」ことだけが理由で、昨年同数や一律微増の計画を立てているというわけではないことに気づきます。本当の壁は大きく分けて二つあります。

①数百、数千のアイテムを単品管理する手間をかける必要がある、という概念がなく、「この仕事がそういう面倒なものである」という定義が自分の中にない

 まず、この点に行き当たります。この現象は、90年代に家電小売で完全単品管理を導入した際にも目にしました。もちろん、ルールを確立してシステムに組み込んでしまえば、日常の運用は省力化できるのですが、それは結構先の話ですし、そもそも商品データベースが品質よくメンテナンスされていることが前提であり、この段階ではそのことも大仕事です。そのため、今の段階では商品マスタのメンテを一気に行いつつ、その手順を明らかにし、さらに当分はEXCELでしょっちゅうデータを眺めて異常値を抽出しながら仕組みに組み込む必要のあるルールを洗い出すことになります。
 この作業自体は、弊社が仕組み化まで全部請け負いますのでこれが実現できない、という事はないのですが、それが当たり前でない人にとっては、1000行を超えるエクセルリストを眺めることへの心理的障壁は大きいようです。

 人間というのは不思議なもので、慣れてくると、1000どころか10000でも商品管理、具体的には売上や在庫の管理ができるようになります。でも慣れるには、その商品に興味があって、欠品を減らして売り上げを増やすことへの執着心があって、かつ時間を投じる覚悟が必要です。それがないままに、作った仕入計画マスタをピッと送信しても、リモートワークの向こう側では唖然とする担当者がいるだけです。

②失敗して在庫を残して責められたり後始末に追われるぐらいなら、売り逃しがあっても昨年並み程度の数字にしておいた方が、自分的にはハッピー

 それは、この表に実際に数値を入れて、合計金額まで見たときの管理者、経営者の表情に現れます。
「そんなに仕入れられないよ」
 それは財務的に、というのではないんです。最初はそうかと思って、「銀行用の資料も作って私が説明に行きますよ」と経営者に言ったのですが、「過去の経験がないため、失敗が怖い」と上に立つ人が思ってしまっていて、それが下の人にも伝播しているのです。

「売り上げを伸ばすには、基本的には仕入れは増える」「予想に誤差はあるが、誤差ができたら売り切る対策をする」そんなことは当たり前のことなのですが、今の日本企業の経営者、管理者の多くは、2000年以降にその立場についているので、「成長局面」を知らず、「経費を減らして会社を維持する」ことにたけていることで登用された人が多い傾向があります。だから、今、コンビニもホームセンターも「品物がいっぱい」という感覚を持たせることができないでいます。

私も、不動在庫処分で「10トントラック1杯7万円」という見積もりを作った(本当です)、とかシステム更新に失敗して在庫が不明なままボーナス商戦に入ったとか(本当です)、リアルに切腹で済まなかったような経験をしている話を面白おかしくするのもいけないのかもしれませんが、そんな失敗をしても今生きていられるのですから、失敗を恐れるな、というのは苦しすぎるいいわけでしょうか…

これは、システムを援用し、利益を最大化する目的では正しいことではあるし、 在庫で失敗すると資金繰りが危ない、という知識を身をもって知っていてくれることはありがたいことです。しかし、小売りで売上を年率150%で伸ばそうとすると、その良識が足かせになります。

上司がその仕入を恐れると、社員は通常価格で売れる数だけ仕入れて「高回転・高利益率」だと結果を報告するようになります。上司は細かい点は見ていないので、全体数字で、他事業と同じくROA,交叉比率(!)を見てグッドコンディションだと判断します。しかし、成長事業ではそれではダメなのです。

攻めて攻めて攻めまくれと商品担当を叱咤し、しかし、最後はどこかで失敗を処理する方策は常に用意しておいて、「責任はお前じゃなく俺にある」といい、心の中ではびくびくしているので、常に単品の売上在庫を自分でも気にしている…そういう事業リーダーが成長事業のトップには常にいたように思います。

関連記事

  1. 記者発表を終えて
  2. 「時間いっぱい使ってゆっくりやる」習慣を変える
  3. 聖なる夜に〇〇のお嬢様と・・・
  4. 将の代わりはいない
  5. Seasonally Report 2019年10月~12月
  6. 2018年日本のビジネス界を振り返る①1月~3月
  7. いっそ休もう、そして稼ぐ準備を
  8. 番外編~中年起業の真実③日本はまだまだ(中年)起業者に厳しい
PAGE TOP