最近は、日常の業務を進めるにあたってはメールよりもSlack,Chatworkなどのビジネスチャットを使用する回数の方が圧倒的に多くなりました。というよりも、メールは、届くのは9割以上宣伝広告物で、たまにお問合せや久しぶりの方からのご連絡があるので、見ないわけにはいかないもののさほど業務に直結しないことが多くなっています。
いろいろな会社のビジネスチャットに参加させていただくと、そこには「その会社らしさ」がいい点も悪い点も色濃く表れていることを感じます。テーマ別タイムラインという形式がそれを見えやすくしているようです。
今日はそんなタイムラインから見える会社の風景をご紹介します。
①やたらと数が多いA社
昔お世話になっていたA社は社員は10人ぐらいなのに、Slackスレッド(テーマ)は何十個もあって、私もメインどころの10ぐらいに呼んでいただいていました。それが、朝は10時ぐらいから夜10時ぐらいまで一日に200以上ひっきりなしに着信するのです。だんだん着信が嫌になってきまして…あの「スットコドッコイ」という独特の着信音を切るのですが、お仕事させていただいている以上読まないわけにもいかないのです。
ビジネスチャットが広まる前のメールの時代にも、やたらとCCを関係部署全部を入れる文化の会社と、必要最小限にする会社に分かれていましたが、その企業文化の差異は形を変えてビジネスチャットに伝承されているようです。
小さい組織だからこそ、みんながみんなに関心を持ち合い、知っていることや気づいていることを部外の人でも遠慮なく口出しし、口出しされた側もお礼を言うという「理想的な組織文化」がかなり高いレベルでこの会社は実現できていました。こういう点ではメールよりもビジネスチャットは圧倒的に優れていることを実感しました。
何でもかんでも情報を提供されると、もちろんマネジメントサイドは判断の精度を上げるという意味では助かります。しかし―これはビジネスチャットの問題ではないわけですが―、この会社の生産性が高く、革新的なブレイクスルーがそこから生まれているか?というとそうではないし、むしろ「自分の責任範囲を確実に達成する」ということに対してはそれを阻害しているのではないかと思うことが多くありました。何しろ、読んで調べたり確認したりして返信していると一日がそれだけで終わってしまいそうで、営業なのか制作なのか伝票入力なのかの自分の業務をする時間が取れないぐらいです。また、新しいこと、革新的なことはヒントはチャットの中にあるかもしれませんが、結局社外の情報をある個人が深く思索し、試行錯誤し生まれているのであってチャットから生まれているわけではありません。その時間配分を自分で能動的に制御し、不義理をその「仲間」にするずぶとさがないと、あのスットコドッコイ音と共に出動する消防隊のような生活になってしまいそうです。
メールの時代でも大企業では何十人もCCを入れるのが当たり前の会社もありましたが、そんなものが一日に100以上も来たら実際にはほとんど見ていません。(私も自分の業績に関係ないものはほぼ見ていませんで、まとめて削除していました)
そのため、私はこの会社に参加している時には「チャットを切る時間」を午前と午後に設けていました。その間は構想をまとめて形にすることに集中し、メールもチャットも対応は後回しです。もっともこれは私が外部メンバーでリモートでの参加が多いからできることであり、席にいてフル参加の場合にはそうもいかないようにも思います。ちょうど、オフィスにいて話しかけられたら無視できないし、メールが来たらすぐ返すのが当たり前と思っている上司を前に無視できないのと同じことです。
ときどき、「みんなで協力する」という道徳を唱える会社が実際には、「個人の業績の優劣を判断をうやむやにする」会社になっている例があります。共有したあと取捨選択するのは個人の力量の問題とも言えますが、目標に向かって迷わずよそ見せずに走って成果に一番乗りできる環境を作ってあげるのも経営者の役割です。ならば、「個人業績に関係がある範囲」を対象にするのが原則ではないかな、と思ったものです。
②私だけが報告を書いているB社
私が参加させてもらっているのは、私が関係するスレッド、たとえば「新規事業立ち上げ」の部分数か所だけでその他のスレッドは見えていないことも多いのですが、それにしても、私が仕組みや解説の文書を構築してそこへ提出して、相手の会社の方からは特に返事がない、という例がありました。そういう場合は、報告は提出するものの、それに続いて「これとこれを決めてください。案はこれですがいいですか?」とお願いして、それを確認していくことにしています。
そうしているとスレッドのほとんどは私の提出物と質問で埋まってしまいます。そのうち、寂しくなってきて、「これは全くの余談ですが…」と関連話題を投稿したりするのですが、それにも反応はありません。だんだん不安になってきます。
これはメールでも同じことでビジネスチャットが悪いのではありません。ただ、タイムラインとして集団内で可視化できるので目立つということです。そして、その理由は誰も事業を立ち上げる責任者として、情報を吸収し、自分が大企業に営業する立場で考え、そして判断する、ということをできていない「オブザーバー」であるということです。社長はできていなくはないのだが、忙しくていちいち細かな内容に立ち入れていない。そういう状況の時にこうなりがちです。社長主導の新規事業にありがちな「当事者不在」です。
私も計画した納品物はすくなくとも納品しなくては委託費をいただけないので、納品はするのですが、もっと頻繁に話して当事者意識を高めてもらわなくてはならないと思っています。しかし、それがZOOMやSlackでよいのかどうか…リモートワークは出来上がった事務作業を進め、改良していく上では何ら障害になるものではありませんが、新しく物を作るときや大きく変えようとするときには、おなじように淡々とパソコンでドキュメントを作っていても組織は動かない、変わらないのです。こういう時、私のような昭和の戦士は、深夜までオフィスで情熱的な仕事の仕方で周囲に熱を与える、みたいなことをやったものですが、それを令和は文章と制度でやらなければならない時代なのです。
③上意下達のC社
現象的には②に似ているのですが、これもある会社のお話です。社長と私だけが延々とやり取りをしていて、他の方はめったに発言されない。たまに担当の方向けの情報提供ネタを投下すると、「ありがとうございます。確認いたします」という返信はあるが、それ以降はまた無言…
この会社様は個々の担当者の営業力、事務処理力はとても高くて業績も悪くないのです。もう一つ言えることはこの会社は歴史の中でノウハウを高め、凝集性の高い組織ができあがっています。そして、皆が同じ場所に出社しています。そこでは、すでに引かれたレールの上での毎日の作業を個人個人が精励するという点だけに限っては、個人個人にノウハウが帰属していて他人はわからないし分からないでもいい仕組みなのでSlackは不要なのです。そして、その軌道を変えるかどうかは社長の指示を待っているのでしょう。社内完結できて大きな問題が起きていないということもあり社外のスキルやノウハウを吸収するという動機が薄いので、Slack、いや、メールでも社外のメンバーと仕事を共同で進めるということが不慣れでもあるし、個人に帰属したスキルを共有するという動機付けも文化も希薄なのです。
業績が悪いわけではないので、別にopenじゃなくてもリモート不適でもかまわないのですが、①のような会社と比べても、会社の個性ってほんとそれぞれだなあ、と思うのです。
④MessengerやSlackではなく○○でお願いします。のD社
とある会社の幹部からのご依頼。「MessengerやSlackにスマホで打つのが不慣れなので、メールか、LINEでお願いします」
方法はなんでもよいので、相手のノウハウを教えてもらうために私はツールはなんでも対応しますが…メールというのはパソコンに向かった時に返信・連絡しますという意図なのはわかるんですが、LINEはOKなんだ…。多分何か所もメッセージが分散するのは嫌とかそういう意味なんでしょうね。でも、テーマ別になっていた方がその方にとっては便利そうなんですけど。
他にも、「Slackとか使ったことはないけど、インストールすればすぐ使えるんですか?」と30代前半の社長に言われたことも最近ありました。この方もお電話で話すと語彙豊富に専門分野について細かく的確な返答を下さる方ですし、普通にパソコン使ってバリバリ仕事をしている(そもそもネット広告の仕事を長くやっていた方ですし)方なので、意外に思いましたし、参加してもらった後も発言少な目、というか行方不明気味で、「Slack見てくれてますか?」とMessengerで今日連絡してしまいました。我ながらおかしなことをしています。
文字化が達者であればよいというのではなく、電話でもいいから的確に処理できるのが仕事の実力であることは間違いないのですが、それでもやっぱり普及しつつあるツールを用いてプレゼンスを高めていかないと損しちゃうんじゃないでしょうかねえ。
何気ない立ち話の中でブレイクスルーは生まれると言いますが
というわけで、別にツールが悪いわけではなくて、私や周辺のコミュニケーション能力やそれ以前に仕事の能力が反映されているわけではあるのですが、タイムラインに時系列で発言が並ぶという仕組みであるが故に、見えてくる光景もまたあるという感を持ちつつ、私のパソコンのタスクバーには各方面のお客様のご連絡に即対応すべく、LINE,Messenger、Slack,Chatwork,Skypeのアイコンが並んでおります。こんな感じです。
私たちの働く動機の中で、「何気ない雑談」は「上司の立派な朝礼」よりも何倍も組織への帰属意識と貢献意欲を高めています。そして、私たちはその時の口調やしぐさ、表情から多くの情報を得て、言葉ではなくそれを元に行動を決めています。これは日本に限らず世界共通のことです。また、別の調査では、ビジネスのブレイクスルーは、一人の真剣な検討よりも、複数人での交流の中で生まれることが多いといいます。
電話からメールへ、そしてここ数年はメールからSlack,ZOOMへとビジネスのコミュニケーションは移り変わってきました。そして、今リモート勤務の波が押し寄せています。その中で私たちは、リアルな場と同様に周囲にとって良き存在であろうといくばくかの工夫を続けていなかければならないのでしょうが、それはそんなに簡単ではないな、といういくつかの光景でした。