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とある外資系調査会社に見た「外資流」DX

今週はデジタルトランスフォーメーション(なぜこれをDXと訳すのか謎ですが)について最近の体験から発見したことをご紹介します。


最近、とあるアメリカ系の調査会社の調査に2回にわたり協力する機会がありました。日本の「ビザスク」(最近上場されました)のネタ元の会社の一つと言えばよいでしょうか。

ファーストコンタクトは日本人エージェントからSNSで接触があったのですが、そこで基本的にOKと返事すると、あとはwebとメールでインタビュー、そして支払完了までほぼ全て定型文で自動でした。実は同種の調査依頼は日本の同種の大手企業からも2度ほど受けたことがありますが、その時の様子とはだいぶ様相が異なっていて、「アメリカ流」を実感する場面がいくつもありました。ただ、その要素の多くは実は日本のビジネスでも、たとえば当社の仕事においても何等かの形で取り入れていく必要がある大変効率的なものでした。

というわけでいくつかの印象的だった点をご紹介したいと思います。

①タイムチャージは自分で決める。

今回はこれが一番感動しました。日本では、「1時間2万円でご協力をお願いします」と依頼時に電話、そのあと文字ベースで先方から伝えられるのですが、今回の場合、1時間当たりのチャージを自分からオファーし、依頼主がそれを見て可否を判断します。とても対等です。ビジネスとは本来そうであるはずです。

さらに、自分の年収を入れるとオファーするガイドライン(このくらいの人が多いという表示でした)が表示されます。たとえば、4万ドル~5万ドルを選択するとどういうルールかはわからないのですが、ガイドラインに1時間50ドル程度が表示されます。時給換算の倍程度なのかもしれません。このビジネスの仕組み自体に対する興味本位(お金が目的ではない)で受けた私ですが、そういう表示を見てむっとして150ドルと入力しましたが、その後は何の主張も交渉もなく、普通に依頼がきました。久しぶりに「自分の値段を自分で決めて主張する」ドキドキ感を味わいました。

②時間計測は分単位

日本ですと、1時間とか1時間半とか事前に時間を決めておいて、余っていてもそこまでは適当に使いますし、足りなくてもだいたいそこで終了です。しかし今回は、電話会議なのですが、電話でコールが接続した時からこちらが切断をするまでの時間が分単位で管理されており、それがタイムチャージ単価に掛けられて金額が計算され、請求する仕組みです。

もちろん、予定時間は事前にあるのですが、1回目は1時間の予定のところ、先方の要望で延長し1時間53分、追加で要望を受けて実施した2回目は最初から2時間の予定のところ、1時間59分!でした。というわけで600ドル弱の収益。元々が仕組みや内容に関心があってお受けしたものなので、金額は全然気にしていなかったのですが、経営に関する英語の言い回しをいろいろ聞くこともできて(ものすごく優秀な通訳さんがいてくれたので、全然問題ありませんでしたが、時々翻訳間違いがあって修正を私が指摘していました)、朝8時からの時間帯を有効活用して(時差があるため、お互いここで合意するのが都合がよかった)予定外の収入にもなってありがたかったです。

③コンプライアンスについて事前に結構な量のテキストを読んでテストを受ける

当然、公開会社の非公開情報など営業秘密を話してダメなものがあるわけです。そのため事前にその区分をテキストを見て勉強して、それを応用したケースを読んでテストを回答するというものが義務付けられます。テストは一問間違えると解説が表示され、類似問題が再度表示される仕組みになっています。これにより、「話してはいけないことは話さない」ということを徹底することでコンプライアンス上のリスクを回避しているわけです。私は、CAD作業でも営業知識でも「テキストとドリルを作って結果で認証する」仕組みを顧客によく提案するのですが、それがきちんと実現されていました。

さらに、そのうえで会議が始まる際にはアナウンスで、「秘密情報を話さないでください。そのようなことをはなさなければならないような状況が生じた場合は、その場で通話を切断し、当社にご連絡ください」という説明が流れてそのあと電話会議が始まります。

さらに、電話会議が終わると、数分で「請求手続き」のメールが送られてくるのですが、そこにも「問題のある漏洩はしていません」という宣誓にチェックするようになっています。

これをやったからと言って問題が根絶できるわけではないのですが、コンプライアンスに厳しいアメリカ上場企業の在り方を垣間見る思いでした。実際、インタビューでは「そのことについては営業秘密に属すると思うため、回答をしません」と4回回答しましたが、「OK,では次の質問に移りましょう」という感じで問題なく通り過ぎました。

④全部オンラインで完結

登録手続き→フィーと支払方法の登録→提供可能時間の登録→決定時間の確認回答→インタビューの実施→完了後の支払い請求と全てがオンラインで多言語対応で行われます。インタビューは音声のみなのですが、PC上での通話であり、当然先方で録音され係争時の証拠として保管されています。説明がたくさんあるページもあるのですが、提供可能時間の登録など専用webシステムなのですが、何の説明もなくカレンダー登録画面が表示されますので、あっているかどうかわからないまま登録している状況でしたが、なんだかそのまま支払いまで終わりました。

このプロセスをめんどくさいと思う人はこのインタビューでの収益は受け取れないし、それをサポートする仕組みも基本的にはありません。つまり、そういう非デジタル人材はそもそも対象にはしないということです。当該分野で知見のある他の方を紹介して欲しい、と言われたのですが知見はあっても、こっちに対応できるかどうかが心配で紹介はしませんでした。

ちなみに報酬は、現金、Amazonギフトカード(ドル、円)、VISAカード(ドル、円)、マスターカード(ドル)から選べるのですが、現金の場合送金手数料50~80ドルが差し引かれますと表示されます。本当は現金がよいのですが、2回で160ドルもひかれてはたまりませんので、一番汎用性のあるAmazonで受け取りました。もちろん、ちゃんと事業収入としてマネーフォワードに記帳しました。

今回のサービスを体験して思ったのは、この業務では世界でも代表的な会社のサービスだったのですが、とにかく無人化、合理化が徹底しており、「他の選択肢」が用意されていません。このくらい徹底してデジタルトランスフォームを進めないといけないんだろうな、と思うのですが、日本にいるとついつい「できない人の相手」を考えることが当たり前になってしまっています。けれども、そもそもこうした「高度人材インタビュー」において「できない人」を「できる人」の何倍ものコストをかけて掬い上げる必要はないはずです。このような、「非デジタルプロセスが必要な高コスト顧客、取引先(そして社内の担当)」を捨てることは今の企業の競争力強化において重要な要素になっていると思います。実は国内でもそうした事例が静かに進行しているのですが、それは次回ご紹介しましょう。

というわけで、最近は国内での仕事ばかりですっかり「ドメ人材」になってしまっていたのですが、久しぶりに「世界は今こうなっている」という様子を垣間見ましたのでご紹介してみました。

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