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銀行に教わりました、あれこれ


先日、とある地銀の関係者の方と私的にお話ししていました。この地銀、苦境に喘ぐ地域金融機関とは一線を画し、動産担保融資(ABL)などの先進的手法に積極的ということで、事業評価に独自の視点を有しているのかと期待していた部分があったのですが、答えは意外にも当たり前、かつ正論なものでした。

「うちではそこにはご協力できませんが、資本増強を先におやりになり、それを前提に銀行と交渉する方がはるかに成長への時間を短縮できます。」

また、その際にお話しいただいた銀行の「目途」=「借りられる範囲」の話も大変わかりやすかったので、ここで簡単にまとめておきます。

  • 長期資金の返済余力…現在の総借入を返済する時間的タームを7年、10年など決める。たとえば、5千万円で10年ならば、単純に言って年500万円の返済。これを返済できるということは税引前最終利益が10百万円あるということ。現時点でそれがあるか、あるいはそれが今後継続する蓋然性があるか?
  • 自己資本比率と額…できれば自己資本比率が50%以上、業種によってはそれを下回っても良いが、一定の自己資本比率があり、かつ純資産額が借入額に対して小さすぎない(実質BSにおいて純資産で借り入れが一定範囲カバーできる)。

これが銀行が長期資金を貸してくれる条件であり、ここに満たない場合は、

  • 信用保証協会や政府・自治体系の保証の付与
  • 将来への布石としての200万円程度の少額の貸与

のいずれかになってしまうわけです。そして、この方、こうも付け加えてくれました。

  • 「プロジェクト単位の契約から入金までの短期つなぎ融資を積み重ねることで実質長期になるし、銀行内での位置づけも変わる」
  • 最終的には、顧客が儲からないと返済されない以前、銀行も儲からないことには貸せない。そのため、トータルの手数料での顧客の生涯価値というものは勘案される。

銀行員というと、物腰は柔らかいしはっきり言わないが、実質対応は冷たい、というような人が多い中で、このように親身にいろいろ教えてくださる、というのは実に感謝すべきことです。(私は、クライアントの財務担当として伺ったので、私個人が本当はこうした与信確保の歴戦の勇者であるということをこの場ではいいませんでした。)

そこで、この方が何度も強調していたのは、冒頭の話。「資本の力を借りないと思うようなスピードアップはできない」ということです。わかりやすく言えば、「同じ規模、収益力ならば資本調達したところには、貸しやすい」し、その場合の収益力要求は当座は弱めることができるので、大きくしゃがみ込んでジャンプすることができる、ということです。

最近は、比較的若い企業にも、地銀、あるいは信用金庫でも資本面での協力をしたうえで、貸付を行う、というパターンが増えてきています。私もお客様先の関係でこの提案を別の銀行から受けました。担当者に確認したのですが、これは昔の持ち合いとも異なりますし、返済が困難になり資本に振替(DES)する話とも異なります。銀行としては、貸付先が成長企業とみれば、上場や売却によるEXIT益を通常の利息とは別に得ることができるという利益面もありますし、その企業がスピーディーに拡大すれば、融資や決済取引も拡大して収益も拡大するという側面もあるということで、こうしたセットパターンの提案が増えてきているようです。

営業マンは、「銀行の資本参加なんてかわいいもので、何も言いませんから」と言っていました。しかし、決議権も配当も、上場見通しもないものへ投資することは銀行自身も株主への立場上できないわけでして、そういうわけでもない(特殊な種類株でも受けいれてくれるわけではない)のだと思います。もちろん、順調に業績が拡大している時にはそれでよいのですが、銀行が怖いのは、それが逆回しになった時です。私はそういう局面をたくさん味わってきて、銀行の本性を見たことが何度もあるだけに、その言葉を信じることはできませんでした。

ついでにこれもまた別の銀行(信用金庫)の話。その銀行との間で初めての短期融資を実現するにあたり、銀行側からは、「定期積立を少額でよいのでしてほしい」という事実上のバーター条件が提示されました。実は同じ時期に他行からも同様の話があったので、営業担当に、「この時期、どこも定期獲得のキャンペーン時期なんですか?」と聞いてみました、本当のことは言わないのが銀行員と知りつつ。

そこで彼が教えてくれたのは、①ボーナス時期なので、個人向けにそういう動きはある。法人相手に作ってもカウント対象にはなる。②それよりも、融資の度に前回よりも相応に取引や預金残高が拡大しているか、ということがチェックされるので、そのためには「次回」を作るため営業としてもこれが一番確実。ということでした。

銀行は、営業は何とか取引を拡大して実績(=利益)を作りたいわけですが、融資可否を決める審査ルールは過去の不良債権問題の反省からほぼ同じ(一時期はマニュアルを旧金融監督庁が示していたわけで)でほぼ指標計算で敷いています。そのため、営業マンがどんなに関心や社会的意義があっても、おいそれとは融資はできないため、その融資を通りやすくするための条件というのを何とか借り手に呑んでもらおうとするわけです。それを上手に明確化したうえで、資金の必要性と、その手段のコストとを比較して決めていくことが必要になります。

最初の話に戻って、資本を使ってスピードアップする、ということはベンチャー界隈でももちろんよく言われることです。そのための株価算定、あるいはそれを見込んだ経営陣での保有比率の維持策やストックオプションの設定というのは、何年も前から仕組んでおかなければならないことで経営コンサルでは飯のタネの一つです。しかし、今回師となってくれた銀行員はこうも言いました。

「そこまで速度をおいかけず着実に価値を拡大するという経営の仕方もまた一つです。」

事業家は自分の理想や自分の作ったサービスで世界を席巻したいという野望をもち、皆せっかちに拡大したがります。しかし、資本の出し手や資金の貸し手の論理はそれとは別に、「自己の利益の拡大」にあり、しかも、お金を出すということと交換に彼らに従わざるを得ないような条件を突き付けられます。

「お金をもらう」ということはそれが商品やサービスの対価であっても、あるいは融資や出資であっても、その代わりに経済的メリットを相手に提供する、と言うこととの交換であり、ただではないのです。また、資本は返さなくて良い、と言いますが、返済期限が明確に決まっていないだけであり、配当なのか、値上がりなのか、あるいは取引でなのかで結局は返さなくてはならないのは同じですし、銀行は出資と違って経営には口出ししない、と言いますがそれもいざとなったら融資を材料にリストラ等の短期改善要求をしてきます。それは、「お金」の対価の回収なのです。

さらに言えば、銀行のお金は生活者である預金者からの預かりものです。そのことを自覚すれば、絶対にかえさなければならない社会的責任があることは自明です。

事業にはうまくいかないことや誤算もたくさんあります。その時に彼らの主張を聞かなければならなくなる恐れは常にあるわけです。成長を目指す速度を抑制し、安全運転を心がければリスクは下げられます。彼の話を聞いて、そのスピード調整を如何に図るかは、事業家一人ではなかなか難しい問題であり、事業家と事業を良く知るものがもっと早いパターンも遅いパターンもあることを示してあげないといけないのだとしみじみ思いました。

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