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経営者のための経理情報④~業務フローはこうして変える~

先週から「経理部」を経営に生かすということをテーマに何回か記載しています。最近、なんだか経理担当の業務が異常に増えていまして、記帳、請求書発行のルール整備から実務、それに決算や銀行対応…やれなくはないんですが、自分の一つの判断ミスや作業ミスが会社の生死に直結するこの業務は、複数人いることの多い事業部長と対比しても責任が重い、ストレスが多い業務だなあ、と感じています。(いえ、支援役のはずで財務部長ではないはずです。)

余談ですが…経理担当者って太っている人がほとんどいないと思いませんか?私も何十人とみてきましたが、他の部門に比べて明らかに少ないし、40代になっても課長になってもみんなスマートですよね。やはり、自制的でかつ繊細というか細かいことを気にして原則通り、先々困らないように作業を進められる人、という一定のフィルタリングがそのような生活面での節制にもつながっているのかな?と思うところもあります。

さて、ここのところの経理業務ラッシュの中で、取り組んでいたことがあります。それは、誰でも簡単に会計ができると宣伝している「クラウド会計サービス」を使っても全然作業が減らない。膨大な単純作業が発生し続けている、ということです。そして、かつて勘定奉行のスタンドアローン版を使っていたことと比較すると、ネット環境のせいなのか、いつも微妙にワンテンポ遅れて反応するのですが、それが一日数百回あるわけですので、だんだんイライラしてきます。

もちろん、これは、規模の割には例外処理、個別処理が多いという企業の構造上の問題を反映したものであり、より整合的で集約的な事業再編へのシグナルである、ということを②③ではお話ししたわけですが

そうはいっても、それには時間もかかるし、当座の売上を減らすこともできないわけで、作業をまずはやらなければならないことには違いないのです。例えば、私が目にしている事例では、月間1300件の資金移動が発生し、うち、700件程度が社員の費用清算、600件程度が請求書、法人クレジットカード、それに売上入金や銀行間資金移動などでした。このうち、資金移動の数件は1回記帳すれば終わりですが、他は資金移動実現時にも仕訳を切るわけで、作業量は2倍あります。さらに言えば、「記帳」は「支払事務」とは別ものですので、請求書払い(月間400程度)については、支払手続きの登録と支払の完了登録も仕訳とは別に発生しています。まとめるとこんな感じ(数字は例としての概数と思ってください)

  1. 請求書払支払登録 400
  2. 請求書払支払完了登録 400…名義ミスなどで戻ってやり直しのこともあるので、これを上と別に管理しなくてはならない
  3. 発生の記帳 600
  4. 実現の記帳 600
  5. 社員経費精算の登録記帳 700
  6. 社員経費精算の支払記帳 700

合計3400回…さらにこのそれぞれに、「点検修正」が加わります。この点検はみるだけでなく、課目の修正や適用にあとから検索に使うであろう用語をきちんと入れるというような「作業」を伴います。1回1分では終わらない。おそらく2分以上がかかっているので、入力だけで113時間。これでは月に150時間の勤務時間内で点検まで含めた作業が終わりません。この全体状況を把握することにまず時間がかかってしまいました。

これとは別に、合算してくる請求書の部門別仕分け計算や、人件費の部門別仕分けといった「前処理」も発生するのは、①でお話しした通りです。

これをどう減らし、最終どこに着地させればよいのか?ということをこの事例を元にご説明していきたいと思います。

①まず大きく減らせるのは、社員経費精算

全体の40%の作業を締める社員経費精算、このうち、「近郊電車代」がかなりの件数を占めるわけですが、社員の皆さんはどこの会社でも「使途(営業先)」と「区間」と「金額」をリストに記載して(それが昔は手書きだったし、今はEXCELかもしれませんが)、捺印して提出、というスタイルだと思います。私は経費削減診断で上場企業の伝票を数多く見させてもらいましたが、ここ数年においてもなお、年商数百億の大きな会社であっても、この手の紙申請はざらに残っています。そして、経理部では、これを見て、①足し算があっているか?②内容は適正か?③交通費、事務用品費、会議費等勘定科目ごとに集計して入力 という作業をしていたのが従来です。社員のエクセル帳票の式の合計範囲外に行を挿入して拡張して、合計金額が間違っている…なんてことが実際に起きていて経理部では結局電卓をハイスピードでたたいている大きな原因の一つです。

これを経費精算クラウドサービスを使うことにより大幅に減らすことができます。社員の側からすると、入力する項目は大して変わらず、合計の計算間違いは起こらず、経費科目、部門コードまで自動付与されて、仕訳された状態で経理部にデータが届きます。さらに、システム上で出金手続きを行うと、その情報がまた反映されますので、完了(実現)仕訳もほぼ自動で反映することが可能です。

ただし、①社員にいれてもらう勘定科目は交通費以外は結構間違っています。これは仕方がなくて、随時社内掲示板で代表的なものを発信していくなどするしかないですが、結局「点検・修正」は発生します。②領収書の点検は必須であり、添付漏れや10月以降は税率間違いが頻発します。③領収書の全数回収と保管も点検が必要です。これらの作業は減らせません。①は重複作業になりますが、②③はシステムを利用しなくても発生します。結局、社員と経理部の二重入力を、社員に入力フォームを変えてもらうことにより、一度の入力で済ませ、合計間違いもなくなるようにする、というのがこの作業の趣旨です。これにより、合計1400回の入力は、社長さん以外は0に近づけることが可能です。

いままでいくつかの会社でこの経費精算作業の導入に取り組みましたが、社長さんは老若男女に関わらず全員、「自分は例外で経理が作業してくれるもの」という態度を取りました。しかも「アルバイトには自分の伝票は見せたくない」というので、面倒な存在だと思っています。

②支払の登録

次に同様の視点で省力化できるのは、社員が販促や売上の原価としてお取引先に発注した費用の支払申請です。ここも、社員は自分で取引先名や金額の記載された支払申請書類を作成していて、経理部でも同じように支払手続きをしている「二重作業」が発生しているからです。

ちょっとここは困った事態が発生しました。それは、「新規取引先登録」のプロセスをどうするか?ということです。①の社員経費精算では社員数は限定的で社員の名前や口座は給与でわかっているので登録は可能なわけですが、こちらは非限定的で日常的に新規取引先が発生します。マネーフォワードクラウド会計シリーズでは現在、この支払手続きの登録に際して、1 csvからのインポートなどの登録ができません。 2 請求書払いの支払申請は立替経費精算システムのワークフロー機能を使う形で実現するのですが、そちらの新規取引先登録は会計側の新規取引先登録と連動していない。3 しかも会計側に取引先のインポートエクスポート機能もない。 と言うことで同じシリーズなのに、取引先を2重に登録しなければならない状況です。明らかにおかしいとサポート窓口には言っているのですが、「今後の参考にさせていただきます」というメールしか返ってきません。この場で公開して早急な改善を求めます!この点では、現時点では「freeeの方が断然まし」で「マネーフォワードの致命的な設計不備」です。

それでも、やるしかないので、請求書の支払依頼のうち、2回目のものはシステムに乗せ、1回目のものはEXCELフォームで登録申請をしていただき、マネーフォワード経費にはインポートで済ませることとし、会計システムには(経理部門での支払登録手続きが必要な場合もあるので)手作業登録することとします。いままで会計で登録していた数百の取引先はエクスポートできないので、しょうがない…もう一度経費精算システムに入力しなおしです。

経理で初期のオーバーヘッドは大きいものの、こうすれば①に準じた形で仕訳と支払手続きが可能です。これには、請求書の支払額を部長が認識し承認するプロセスを仕組み上きちんと乗せることができる、という副産物、というか基本的な内部統制の実現を同時に実現することができます。多くのこうした改善が必要な中小企業では、このフローもぐちゃぐちゃのことが多いので、これも大きなポイントです。ただ、実務の好きな部長さんは、「承認決済ばかりで現場に行けない」と言い出すかもしれません。それはそれでチャンスです。そんなに多数のバラバラの承認判断をしなければならない不効率な状況を作っている張本人が自分であることを認識させることができるからです。

これで400のうち、事業部門に届く300程度はほぼ解消で、経理に届く100のみを対処すればよいことになりますがこれもこの仕組みに乗せればよい。これで発生の登録は減りませんが、実現の登録は減らせます。ということで、経理部の作業は300(発生)+400(実現)=700をここで減らすことができます。同時にリスト3,4の記帳も同数減らすことができます。

ただし…ここでもいくつか問題があります、一つは同じ取引先に複数の勘定科目が存在する場合の取り扱いです。たとえば、「業務委託費+交通費」の場合、これを社員にきちんと入れろ、というのはなかなか難しい。もう一つはもっと難しくて、個人相手の取引の源泉徴収の有無です。業務の内容、それに成果物の用途により対象になるかどうかが個別に異なり、発注する側も受託する側もよくわかっていない、というようなことがあると(それでは困る、というのが税務署の立場なのですが)、いれたものを結局経理部で修正しなければなりません。そこは経費同様点検が必要なのです。

③仕訳記帳の自動化

ここまでくると残っているのは、

  • 経理での請求書の直接支払登録 100
  • 発生の記帳200
  • 実現の記帳200 

の計500になっているはずで、残りの2900は、「みんなに登録してもらったデータの点検、修正」と「新規取引先登録作業」になっているはずです。ただし、この残った100+αには人件費関係、引当金関係など知識がないとできない複雑なものが含まれています。そこは手作業での部門分けなども発生します。ただし、発生側の200は通帳、カード明細などを自動取得し、候補は表示されます。そのまま、えいやっと登録してしまえばそこは省力化できます。そして、未払金に補助科目を設けてその残高を管理する、ということにする(ここは顧問税理士に可否を確認してください)と、実現の記帳はカードやまとめ決済系は大幅に削減することが可能です。こうしたまとめ決済の種類は法人クレカを中心に5種類から多くても10種類の会社が多いので、おそらくは実現の記帳はこの方法で100は減らせます。ただし、補助科目ごとの残高がきちんと0になっていることを毎月確認する必要があります。

問題は…カード明細の記載をみても負担部署が簡単にはわからないし、交際費は会議人員(一人5000円以下なら会議費)などもわからない(税法上記録が必要)ことです。法人カードは、かつて経費削減診断をやっていた時にも単価・数量がわからないという問題もあり、こうした管理上の理由もあり経営改善という観点からは減らしていきたいものではあります。

というわけでここまでで3400あった処理工程は、経理での作業は300程度まで減らせているはずなのです。ただし、全社で見てみると、次のようなことが言えます。

  • 経理部と事業部双方で発生していた申請~入力作業は、基本的には精度含めて事業部の責任として整理される。ただし、そこの点検指導の責任は専門家である経理部に残る。
  • 上に伴い全体の工数は減少しているが、事業部での要求は高度化し作業も若干増える。
  • 経理部で残る作業は、事業部への点検指導と、人件費や引当金などの処理であり、「経理の知識が濃く必要」な専門性の高い箇所と、大量の申請を迅速にエラー発見し、ルール化しそれを周知徹底するデータ管理作業に変質する。

これは、シリーズ③で述べた、経理データの経営活用のための経営の体幹強化は経理部だけの仕事ではなく、事業部長と専門部門とのコラボによって実現する、ということを実際行うとこうなります、ということなのですが、そのためには、

  • 事業部長が迅速で正確なデータ集計にはこの仕組みが短期的には最適であることを理解する。(経理がその目的と理由、作業量が実はそれほど膨大ではないことを説明する)
  • 経理部が煩雑にならないルール化、フロー化を設計し、一部の割り切りは経営や税理士に理解してもらう調整を行う。

ということが必要になるわけです。結局、万事「設計」次第というのは、他のサービス、ITシステムと同じです。今までやった限りでは、経理部、事業部長は結構いろいろ文句を言ったり、動きが鈍かったりするのですが、現場は意外とすぐに馴れますし、とりあえずデータは出てきます。若手社員はこうしたことへの対応の柔軟性はどこも結構高いものであるし、「こういう時代だよね」とも思ってくれるものです。

問題の精度は…やはりばらつきます。人によってもかなりばらつきます。ただ、金額間違いは困りますが、勘定科目は後からでも直せますし、実はどの科目で計上しても多くの場合は、税務(コンプライアンス)上の問題はありません。困るのは後で分析するときの精度です。今はかなりの勢いで私が直していますが、ある程度割り切ってしまってもよいのかもしれません。

さて、システムもクラウド、データもクラウドならば、人員もクラウド、というかリモート勤務でもよいのではないか?という点については、十分にルール化ができて浸透した状態においては点検と一部の入力については可能だと思います。ただし、品質良くやろうと思うとシステムの適切な初期設定が重要になります。また、選ぶ人はその使うツールと経理事務に詳しい人、ピンポイントで経験者である必要があります。逆にそうであれば、実力はあっても育児中などの理由で都心でフルタイムをあきらめている人でも十分対応が可能です。今回は記事の対象外にしましたが、振込データや給与、社保の点検などの重要事項の点検を小さな会社ではダブルチェックすることができていないケースが多いことをこうした形でチェックを入れていくということも考えられます。ただし、十分整備しきった後の経理担当のメインは部門への指導とルール調整、徹底であるということからすると、事業部と同じ空間(それは情報が十分流通しているならばネット空間でもよい)を共有している必要性はあるので、経理だけの「事務員」の出番は限定的であるべきだと考えます。

という感じで月次会計の膨大な作業を収束させることはできる、というのが弊社の考えです。必要な期間はその会社の業務概要を理解することが事前に必要と言うこともあり、そこまで入れたら作業期間に3か月は欲しいところです。

お問合せお待ちしておりまーす。

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