中小企業の働き方改革。第2回は「リモートワーク」です。
中央官僚の知人が、猛暑のある日リモートワークだったという話をしてくれました。国会が閉会中ということもあり、昼は自宅近隣の御気に入りのお店で昼食を食べ、リモートアクセスとリモート通信ツールで仕事をするということ自体、「働き方改革」の実験なのでしょう。勤務の一部をリモート勤務にすることは、優れた社内SNSや通信ツールが登場したことにより、多くの業務で可能になっています。
私自身、週7日のうち、3日程度は自宅で仕事をしています。毎時十数個のペースでSlack(3社分ある)で情報や依頼が流れてきますし、こちらも資料をこれで公開しています。必要になれば電話もSkypeもあるので、もっと増やそうと思えば増やせますが、週に1回は会いに行くようにしています。もちろん、会社員の方と、私のような自営業者の代表とでは全く異なる部分もあり、私は仕事が好きということもありますし、労働基準法の保護対象外ということもあり、朝6時~夜11時まで「断続的に」仕事をしています。この断続的に、というのは具体的には、こんなものを挟んでいます。
園芸は全くの趣味ですが、他は実は、今社会で課題になっている「子育てとの両立」に深い関係があります。そのため、リモートワークは行政も働き方改革の重要な柱の一つと位置付けており、実現のための助成制度も存在します。たとえば、東京都ではこんなことをやっています。(ほかにも厚生労働省などでも行われています。)
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/hatarakikata/telework/gyoukai/index.html
私自身、こういう生活、こういう事業を始めてみるまでは、20年以上、朝は駅まで速足で歩き満員電車に汗かきながら一時間以上乗って会社まで行き、始業時間の30分前にはメールをチェックし始めて、終業時間なんて関係なく働いて、また電車で空腹を感じながら、いや、そんな感覚もマヒしながら働いていました。それが起業し生活を変える際には(家庭内ではこれとは別にいろいろな問題が起こりましたが)正直怖かったです。本当に大丈夫なんだろうか?と不安でした。では、こうなり、作業量が減ったか、というとそんなことはありません。
当たり前です。作業して成果を上げて顧客にアピールしないと翌月の生活費に事欠くリスクを抱えているのですから、なんとかアウトプットを仕上げないといけないのです。それこそ、提出日の朝4時まで粘ることもあります。そういう意味ではむしろ、働かないことよりも結果として過重労働にならないことにも配慮する必要がある制度です。なお、これは自慢でも自己卑下でもなく、本題にとても関係のある事項です。
自宅作業は楽をしようと思えばいくらでも楽ができてしまいます。そして、重要なのは、社員は怠けようと思って怠けるのではない、ということです。自宅勤務で少し休憩と思ってスマホを見始めたらなんとなく仕事に復帰できずに30分、1時間時間がたってしまうのはなぜなのか?というのは実は、その日、明日までに完成させなければならない作業、さらにその先にある売り上げやシステムリリースといった成果に対して、個人の責任が明確化され、達成しないことの不利益が示されていないからです。つまり、その日8時間でやるべきことと求める水準が明らかになっていて、その分量や難易度が適切であれば、私のように極端に成果に追われていなくても、相当時間頑張って作業をしなければならないはずだということです。
これは決して社員にとってもマネージャーにとっても楽なことではありません。1週間の到達目標に対する個人の分配、日々の分配を明確化し、それの進捗を常にチェックする、というマネジメントが要求されるからです。
しかし、ちょっと待ってください。
事務所で顔を合わせていれば、これらはしなくて良いんでしたっけ?あるいは、毎日1時間以上も電車に乗って通勤している社員は8時間怠けずに仕事しているのですか?そう思っている経営者のあなたは考えが甘い。意外なほど席にいない時間はあるし、席にいても、経営者のあなたがそんなことやってほしいと思っているのではないような意味のない作業をしていることも多い。そうでなくても、別に会社でなくてもやれるような作業もたくさんあります。私も会社を辞めて自分で経営するようになりホントにそれを実感しています。日本の会社は、「やっているフリ」「やらせているフリ」に満ち溢れています。それはリモートワークにしてもしなくても同じことであり、「今日はこれをここまで終わらせてください」と8時間程度かかる適正量を都度指示し、その一方で作業予定に対して、「そんなことは今は優先ではないのでしなくてよい」と指示しなければ、人はそうなるのです。特に後者は日本では、「自主性」の名の元に戦略、収益に関係のない作業が「創意工夫」の名のもとに野放しになっている傾向があります。その、「売上に紐づかない作業」のための労働時間、人員が日本の企業の労働生産性、収益性を低下させているのです。
ちょっと話が脱線しましたが、リモートワークを取り入れようが取り入れまいがダメなマネージャーがいれば、どちみちダメ、というのが実情だということは実は経営者の皆さんは納得できるでしょう。
では、その管理者が不十分だとしたら方法はないのでしょうか?これは前回の記事と共通のことになってしまいますが、
私と同じように、「成果が上がらない場合には不利益がある」成果主義評価を取り入れることです。そして、明確に計測できる、利益・戦略に直結する結果を1か月程度のスパンで求め、その経過を週次程度でチェックする仕組みを動かしていくことです。そうして息をつく暇を与えないようにするのです。ただし、現在の日本の労働制度では、リモートワーク、在宅勤務であったとしても「時間管理」と「残業規制」は免れることができません。むしろ、一層適正に運用しないと内外から突かれる材料になるでしょう。クラウド型の勤怠管理システムなどを入れ、始業時終業時の連絡の仕組みを作るなどして、適正に運用する必要があります。そこは社員と自営業者は全く異なるところです。
ちなみに私のお付き合い先で一社、SlackどころかメールもEXCELも苦手という経営幹部ばかりの会社があります。そことはリモートでのコミュニケーションは到底無理でして、会いに行くしかありません。しかも、昔ながらの手法で、毎回のように「食事でも」と言われるのですが、要件をどんどんこなすためにはむしろ会議室の方がありがたいので、お断りしてスペイシーで会議室を借りてご相談したりしています。ただ、そういう会社は概してプロジェクトの進行効率も悪いですので、結局あまり足が向かなくなる傾向にあります。
結局、ITツールを活用しながら、すばやくメッセージにしたり、要領よくドキュメントとして形にする力がないと、今の時代リモートワークはもちろん、社外の情報を効率よく吸収することもできないということなのでしょう。
結論としては、①業務計画とその進行管理をある程度上意下達できちんとやれるマネージャーがいる。②成果をださないと不利益があり、成果を出すと利益がある仕組み、があれば、働く場所は関係ないはずです。ただし、その対象にできるのは、こうしたITツールを上手に使ってアウトプットをできる人だけです。
そのような業務管理や評価制度、そして採用基準を整備していく意思が経営者のあなたにあれば、きっと有効な方法になるでしょう。逆にそれがないと、おそらく生産性は下がります。順序を間違えると悲劇です。