年度が替わり、1週間あまりたち、官公庁のwebサイトも更新が進んでいます。最近は官公庁もwebで正確な情報を発信してくれるようになりました。20年以上前は「電話する、とりあえず窓口に行く」が最初のステップで、そうして「担当者に口頭で教わる」がデフォルトだったんですよ。帰ってきてみたノートが何の意味だかわからなくてまた恐縮しながら電話したことが何度もありました。
そんな余談はさておき、この10日に更新されたもののうち多くは新年度予算に関連するものであり、その一部は、新年度の助成金、補助金に関するものです。この助成金類ですが、毎年同じような内容が繰り返されているように見えて実は少しずつ時代の変化をとらえて変わってきていますし、私からすると多くのモノは少しづつ要件が難しくなっていっているように思います。
要件が難しくなるのは仕方がない面があります。助成金類は政府が政策的に誘導する目標に対してそれに添う施策を行う場合に追加的に発生するコストの一部を税金から支援する、というものです。最初は「とにかくやってみろ」で緩いのですが、だんだんその施策が世の中に広まって来ると、「よりちゃんとやってください」に要求が高度化していき、やがてはそれが「世のなかの当たり前」になると助成の対象ではなくなります。最近の例では、大型施設の「LED化」「省エネエアコン化」がこの流れをたどり、一時期は補助金界の花形だったのですが、今ではほとんどなくなってしまいました。
ちなみに、助成金というのは、政策の要件を満たすと全員が受給できるもの。補助金というのは、先着なのか、優先判断なのかのセレクションが存在するものという用語の差異があります。
さて、この助成金類ですが、特定業界向けというもののほかに、中小企業ならば、ほぼどの企業にも当てはまるというものもあります。いろいろなところで宣伝されている(これについては後述します)ので、経営者の方は目にする機会も多いとおもいますので、ここでは検索できるよう簡単なキーワードレベルの紹介にとどめます。
①厚生労働省「雇用関係助成金」
参考のため、厚生労働省のリンクを張っておきます。(弊社は特定業者への誘導はしません。)例年大人気の助成金でして、複数項目で申請することができるため、頑張って改善・申請すると1社で数百万円もの受給が可能な場合もあります。今年は、「働き方改革」の流れの中で「従来よりも36協定の残業時間を削減するともらえる」助成金というのが登場しています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/index.html
②IT導入補助金
今、とても話題になっています。それは昨年まで上限50万円だったこの補助金の上限が一気に450万円にひきあげられたからです。なんでこんなに急激に引き上げられたのか?いぶかしく思われても仕方ないのですが、それの大きな要因は、「RPA」にあります。
①の助成金は基本自社でハローワークに申請にいき、成果検証(これも後程ご説明します。)を提出するのですが、この補助金は、ツール類を販売する「業者」が、買い手である申請企業を代行して申請する補助金です。従来は経理システムや生産管理システム等の業者の独壇場だったのですが、そこに「事務系業務の生産性向上」の錦の御旗を掲げてRPA事業者が予算を取りに来た、というわけです。RPAは高いです。その上、個別カスタマイズが加わりますので何百万円が当たり前です。それでそれに合わせてアップした、というわけです。これも公式の情報をご紹介します。
③小規模事業者持続化補助金
これも「ホームページ制作に使える補助金」として盛んに関係業者(webサイト制作業者や印刷業者)が宣伝しています。上限は50万円。相談先は、「商工会議所」であり、「商工会議所の経営指導を受ける」という条件があります。つまり、圧力団体でもある商工会議所の会員獲得策でもある、ということ。こういうこと言うとまた苦情が来そうです。そのほかにも、店舗の翻訳サービスやタブレットPOSレジなどにも適用可能です。
さて、これらの補助金・助成金を利用するにあたってはいくつか知っておいていただきたい点があります。まず、1番目の雇用関係助成金ですが、みていただいてわかるように申請に必要な書類がとても多く、勤怠や採用退職に関するデータ整備(あるはずのものなのですが、それがデータとして集計が容易な状態になっていないことは良くあります。)が必要です。特に「所定の成果が上がったかの報告」が必要であること、それと、付加的な支払いを受けるために「生産性が改善したか」を検証することが必要なのですが、このための決算データに基づく計算が必要になります。これらは慣れれば難解というわけでもないのですが、ちゃんと書類を読んで理解することは最低限必要でして、忙しい中片手間でできるような種類のものではありません。面倒という文句をよく聞くのですが、私はこれは、「ひと様のお金を使う上では当然のこと」だと思います。(雇用関係助成金の多くは税金ではなく、会社や個人が毎月支払っている「雇用保険料」から支出されています。そのため、「税金を使う」といういい方は厳密には正しくありません。)
私も数年前から、これらをご紹介だけした会社はたくさんあるのですが、実際検討を始めてみると途中で嫌になる会社がとても多い。そうすると今度は、「助成金の申請をお手伝いします。」という士業の方がいるのですが(雇用関係の場合、弁護士か社労士)、今度はここでも注意すべき点があります。そのことの是非は置いておくとして、彼らは需給した助成金の10~25%を手数料としてもらう(名目は別の書き方なのですが)、というビジネスをしているのですが、だからと言って申請書を代わりに作成してくれたり、必要なデータの整理をしてくれるとは限らないのです。むしろ、ここまでやってくれる代行業者はあまりありません。結局、スケジュール管理と書類管理をしてくれているだけで作業はすべて自社でお金だけ取られるというようなケースも少なくありません。そもそもその会社の組織や方針、データ管理状況を熟知していないと、これらはなかなか受けられないものですし、もしこれらをやっている社労士さんがおられたとしても、普段の業務で手一杯の中、これらまで追加で受けるほどの余裕がない、というケースが業界では多いのです。
ですので、営業を受けたら「手数料」だけでなく、「書類の文面の作成」「データ分析と整理」までやってくれるのか?ということをきちんと確認してください。
もう一つは、②③のような「購買の費用の一部を助成・補助」するスタイルのものに共通する注意点なのですが、業者の口車の載せられると、結局会社の負担する額は助成金を使わないときより少し安くなる程度で、儲かるのは業者ばかり、というケースが多くみられます。つまり、助成金が、「業者が高く売るためのツール」になってしまっているのです。これを防ぐためには、「助成金利用の有無を言わずに見積もりを取る、値引き交渉する」ことをしたうえであとから「助成金の申請をする」という順番で値段交渉をする必要があります。
また、これに類似して、助成金・補助金があるからと、「使う見込みのないオプションまで購買する」というケースも多くみられます。助成金で補助されるのは、1年目の費用だけで2年目以降は自社で費用が発生するものが大半です。2年目に解約できないようオプションを長期契約にしている業者も存在します。こういうところで業者の営業圧力に負けてはいけません。
業者のほうも対策が進んでいて、こうした「重要なお金の話」をできるだけ最後に持ってきて、「ソリューションとして納得がいく」という提案でお互いが合意したあとに、こういう「ズル」を差し込んできます。その場でお客側がちゃぶ台返しをしにくい心理的状況を作り出すのが営業のテクニックなのです。私自身もそのような教育を受け、そのような営業もしていましたから。しかし、前提が変わった以上、ちゃぶ台返しを遠慮する必要はないし、不要なオプションは強硬に不要と言ってよいし、なんなら業者は代わりがいくらでもいるので、複数社話を聞けばよい、と腹を決めて臨むべきなのは、助成金があろうが、なかろうが同じことです。
世の中に出回っていて広告が大量に出稿されている「助成金を活用しましょう」はこうした「士業」や「それにより販売が増進する事業者」サイドからの情報であり、あるいはそこから紹介料をもらうアフィリエイト的な情報サイトです。そこに書いてあることは、「売れる」ことを目的としており、「中小事業者が時代の流れに対応し、本当に持続的に発展するために金銭的・作業的負担を減らす」ことを目的とはしていません。資本主義の世の中でそうした業者を責めても仕方がありませんが、私は「実態」を理解して対策することをお手伝いしていきたいと思っています。