弊社も創業半年の間に、私よりもさらに年上の50代以上の方3人もから仕事探しの相談を受けました。(弊社は人材紹介業はやっておりませんが、スキルを明確化してそれを必要そうな交流のある会社に無料でご紹介するようなことはあります。)
実力もあり、運もあり大企業にずっとい続けることができた方は幸運です。いまだに安定した給与だけでなく賞与、そして企業年金に再雇用と恵まれた老後を送ることができます。しかし、その実力か運のいずれかが足りなく、「安定の軌道」から一度外れてしまうと、なかなかそれを取り戻すことはできません。私自身も20代の病気が原因で出遅れたときにももうどこも採用してくれませんでした。現代、それはいとも容易に起こります。会社自体が決して安定を長期維持することが難しいだけでなく、結果として外形的には安定していたとしてもその安定のために合併による配置転換や人員削減、方針転換による事業の廃止と転換などが繰り返され、中では多くの人、特に40代以上が「今までやったことがない」=やりたくないしうまくできない仕事にアサインされ、結果として辞めていくということがたくさん起こっています。
私はこの会社を非難するつもりはありません。これは経営者として正しい選択であり、労働者はそれに適応するしかない、と思っています。私はそういう目にもあってきた一方で私が当事者でもそうしてきました。そして、私も言うでしょう。「年齢は関係ない。引き続き新しい方針にコミットし頑張れる人は頑張ってほしいし、それが自分の道とは違うな、と思えば他に道を探してもらえばよいではありませんか。」
でも、働く立場として、そういう目にあった時には、そう、たとえば48にもなって、一日200も300もテレアポしなければらないとなったら…なったんですが、会社を恨みはしませんでしたが、「自分の人生は失敗だった」と結論づけましたね。そして辞めました。そういうものです。これは、「自己責任」で終わらせて、その人の家族は困る、家族に非難されてその人はさらに困る、本当にそれでこの社会はいいのだろうか?という疑問はあります。が、それはここでは置いておきます。ここで話すのは、経営の「実用」の話としたいからです。
そういう人はこれからもたくさん発生するでしょう。先週も富士通が11月に発表した管理部門の現業への5000人の「配置転換」の結果(なんでその結果なんだか)2,850人の主として40代以上が早期退職する、という発表がありました。古き良き電電ファミリー時代、90年代後半以降のパソコンFMV時代の「精鋭」たちは今の時代のソリューション志向への脱皮を目指す富士通に「適合できない」という結論に会社から、または少なくとも形の上からは個人からの判断でなったわけです。何年か前には経営危機から鴻海グループ入りし、同社の荒療治を受けた「シャープOB」が私の周囲でたくさん就職やら個人事業やらで活動し始めていました。そういう時代であり、会社は会社を守るのであって個人は守らなくなり、個人は自分で個人を守らなくてはならなくなりました。まずそれが時代の結論だと思います。
個人差があるとはいうものの、人間30歳を過ぎると、肉体だけでなく、思考もなかなか新しいことになじめなくなり吸収が鈍り、あるいは思考が硬直化していき、35歳を過ぎるとむしろ性能が低下し始めます。そのことは、各世代を部下として管理してみると非常に顕著です。40代、50代は、20代、30代に比べてみているとなんというか「もたもたしている。」「うだうだしている」のです。すぐ喫煙所に行くし、作業もなんか遅い。40代以上の方はまずその事実を認め、自分の「老化」を意識し、少しでもそれを防ぐ努力をすることが必要です。昔は、それでも「歳を取ると失うものはあるが、判断力は向上する」と言ったものですが、今はそれすらも正しくないと思います。ネットを用いた情報収集能力の飛躍的拡大、それに社会変化の速度のアップやグローバルな情報へのアクセスなどの面でむしろ若い人の方が有利な要素が多くなっていますし、過去の経験パターンが生かせないケースが増えています。それに、この中年擁護にはもう一つ落とし穴があります。若いころからずっと経営に関連する判断をし続けてきた人はそのストックがあり、それは決して無価値ではないが、今市場に放出される40代以上はその会社で需要が減少した「個別の機能」を会社で担っていた人であり、全体の判断を担っていた人ではない、ということです。したがって、必要な経営の判断パターン、あるいはそれに用いるスキルセットは有していないケースが多い。いわば、Soldierではあるが、Captainではないので、中小企業でCaptainを任せることは通常はできない。そこに大きな誤解があります。(60代以上になるとさらにひどくて、パソコンはもちろん、経理自体もできない経理部長とか、営業やったことない最終職位が営業(担当)部長とか普通にいます。)
特に大きな組織、古い組織であればあるほど、その「単機能」しか知らないし、その組織のスピード感や判断・評価のルーズさしか知らない。これは中小企業では全く通用しない。中小企業は何でもやらなくてはならないし、素早く、そしてかなり果断に決断しなければならない。そこは中小企業経営者の方が、大企業の中間管理職よりもはるかに良くトレーニングされている。
それでも、その人たちも生きていかなければならない。今回相談いただいた方もまだいずれもお子さんが大学生。一人は美大だそうでお金がかかるのでまだまだ頑張らないといけないと言われていました。どうすればよいのか?稼ぐしかないのですが、そのことを個人の側、そして会社の側から少し整理したいと思います。
■中年の方、個人の方へのアドバイス
まず、大企業というのは無理です。大企業はどこも上に記載の年齢別の生産性を理解しています。普段から企業はそう思っているけども、それを面と向かって40代、50代に言わないだけです。そして、ブランド力から若年層の採用に困っていません。人材紹介会社が、「40代、50代も求められています」という宣伝をしていますが、あれはウソです。正確にいうと、「大企業で大活躍して部門トップを務めたり、子会社でも経営に深くたずわったりした人は求められています。」が、そうではない人は求められていません。その事実は認識するべきです。
その上で、給与は前職並とかは諦めてください。あれは、高度成長期の「ひとが足りなくて困っている時代に給与を生涯の中で本当に稼いでいた時期よりも後払いすることで退職率を下げようとした」制度の残滓です。それを強制的にリセットし、給与を今時点の稼ぎに連動させようというのが今行われている「リストラ」の正体です。そして、今、自分が自分の力でその会社の商材を用いて稼ぎ出せる利益の50~70%が自分が貰える金額の目安です。70%はあなたが会社で「不採算資産」にならない最低水準です。その稼げる額があなた自身わからないならば、歩合の割合を増やす、あるいは1年間の期間の定めのある契約(契約社員)でもよいとするなどの譲歩をして相手の固定費リスクを下げてでも席を確保するべきです。現実はそのくらい厳しい。
逆に言えば最も稼げる個所に「私を使うとこのくらい御社は稼げます」と行けばよいということでもあります。それは、個人事業主的かもしれませんが、会社が中年以降に要求しているというのはそういうことです。システムを活用してすぐれたリーダーが仕組みを回せば機能の弱い中間管理職は不要になっているので、つべこべ能書き垂れて人にやらせていないで、自分で売れ、ということです。営業ならば直接売ればよいし、技術ならば売れるモノを作って自分で営業同行して売ればよい。この点、営業で実績と度胸と人脈がある人、というのは、自分の現実を受けれさえすれば、いくらでもやりようがあると思います。技術も、その技術がほぼ用途がなくなってしまったようなものではない限り、社会のどこかではまだ必要としている人がいます。
ただ、管理系の人はどうしたらよいのか…クラウド系の人事経理系システムの運用を覚えて複数の会社で時給ベースで派遣社員よりも安く入力集計のお仕事をするぐらいしか正直ないのではないかと思います。管理の雇用人員はどんどん減っていきこれからも減り続けます。それが今回の富士通の配置転換の「実情」でもあったのではないかと推測しています。
厳しいことを言うようですが、これが中高年の転職の実情です。会社に勤めれば、名刺をもらえ、その会社の商品を有利な条件で取り扱いさせてもらうことができるわけですが、その実、立場は個人事業主と同じであり、短期で成果を出し、売った分の一部が手元に残るという立場であるということです。ならば、個人事業主として代理店ビジネスをやっても実情としては大して変わらないし、手残りも多いとも言えますが、そこは会社の信用力というのは厳としてあるわけで、会社ならばある程度の分業も可能です。私は個人事業主を選びましたが、それは決して人にお勧めできるものではありません。できれば会社に勤める方が仕事を進めるうえでも、そして社会的に何かをする、たとえば住宅を借りる、車を買うなどの上でも有利です。(というか個人事業主ではこれらは大変困難です。)
そして、間違っても、「若い人に指導できる」とか「ルールを適正化できる」とかは言わない方がよいでしょう。面接の管理者は気を使ってむしろそう言ってくれることもあるでしょうが、中小企業ではそれはほぼ迷惑です。人を募集するような中小企業の場合、時代に適応変化していないのは中小企業ではなく、むしろあなたの方だから。一兵卒として戦果を挙げることに徹するべきです。
■では、中小企業の方はこうした人材は採用するべきではないのでしょうか?
私は、採用の仕方次第だと思います。まず、大企業での役職とか前給とかは全く関係ない。その人が稼ぎ出す貢献額を見極めることです。その見極める方法は、「もし入社したら、社長が同行する形でどこへ転職の挨拶に行くか?(売りに行くか)」を聞くことです。それが御社にとって新しい可能性が十分感じられればまずは1年契約で入ってもらって実際にやってもらえばよい。要は、言い方は悪いですが、「傭兵」です。同行であっても、決済権者にアポが入ればそれはその人の貢献です。それが、「特に行き先はないので、そこから探す。」とか「御社のルート先に丁寧に訪問したい」ということならば、貴社には必要ない人材、ということです。そうやって答えられる先がある、ということはその人がそれなりに自走して活躍できるということであるし、社会的なネットワークがあるということでもある。ネットワークがあるというのは、社会的に信頼される仕事をしてきたし、そういう性格だということです。逆にそれがないということは言われたら動ける人材でしかないし、0から探して電話する作業をしなければならない、ということです。それは若い人の方が有利です。傭兵として力を発揮できる人は一年もあれば、新たなネットワークを自力で補充できる人です。そこが確認できれば、継続雇用すればよいのです。
若い人にはない中年(の普通の人の)採用のメリットは、その人が、知り合いがたくさんいる(場合がある)、ということです。これもその人の仕事の仕方や性格による部分がありますし、若い方でもとても多くの人脈を有する方がいますが、一つの会社、それも大きな会社でやってきたということは多くの取引先と付き合っていた可能性があり、しかも相手の「決済権者」と顔見知りの可能性があるということです。(これも、少数の取引先と固定的な取引しかしていなかったりする場合もあり、いつもそうともかぎらないのですが)中小企業でパイプがないから営業がなかなか拡大できない、という場合、こうした方を採用して拡大する、というのは短期間で成果が出る可能性がある事項です。
こうして書いていても、時代は変わってしまった、ということを実感せざるを得ません。かくいう私も、弊社の代表として今月の食費を今月の営業で稼いでいるわけでして、まさに今、困っている中高年は「ご同輩」でもあるわけですが、上にも書いた通り、会社がさも国家のごとく福祉の多くを担っていた今までがむしろ異常であり、「今稼いだ分の一部が給与としてもらえる」というのは、当たり前のことだし、国際的にもアメリカや中国はそれが当然です。(ヨーロッパは日本に似た社会民主主義的制度が会社にも法適用されている部分がありますが)。中国との国際競争が激しくなる中で日本社会は20年かけて徐々にその方向へ変化してきました。しかし、個々の会社、個々の個人で見ると変化は徐々にでもなく、一様でもなく起こります。比較的優位ではない会社、優位ではない個人で突然、大きな断層差をもってその変化は発生します。そして、その断層のずれが、20年前からあちこちで少しづつ起こりながら、社会全体で平均すると新聞紙面に書かれるような滑らかな下降線の「時代の変化」になっているのだと思います。
一部の企業、一部の人はなんとかそこから逃げ延びて生涯を終えることはできるかもしれませんが、私もあなたもそれに無関係ではいられなかったし、これからも多くの人がその変化に巻き込まれていく。それならば、その変化に先に対応する、そしてその変化の対応事例として自分を後に続く途方に暮れる人たちの中に売り込んでいくぐらいの気概が必要でしょう。いわば「自分個人」が商品として、自分で売り続けなくてはならない時代になったということです。