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「与信審査」に意味はあるか?

私、8000万円ぐらいの貸倒を突然食らったことがあります。2001年、相手はあのマイカル。ニチイ、サティなどを抱える大手総合スーパーの一角を占める誰もが知る会社でした。それからの数か月は担当者も経理担当も大変でした。同社さん、つぶれたのに強気に出て、「債権大幅に放棄して、取引継続するか、半分支払って終了するかどちらか選べ!」とか言うもんで社内でだいぶ話題になり、関係幹部全員一致で、「半分支払って終了」を選んだのも、もうだいぶ昔の話になりました。

 

■管理部の「与信審査」は当たるのか?

よく、経営管理上、与信に不安のある会社とは取引するな、と言われたり、与信額の上限を設定してそれを超える額は売掛を許さない、というルールが大企業では運用されています。一見、このルールは正しいように見えます。調査のお金もかかるし手間もかかります。その上、営業は取引を拡大したいのに制限が掛けられる。会社は売り上げればよいというものではなく、その代金が回収できてこそ、はじめて社員に給料を払えるものです。しかも、売上が仕入れや製造を伴っているものの場合その代金の支払いは自社に発生しますので、回収できない売上は罪悪でしかありません。それがこの制度の背景です。ちなみに、上のマイカルの例はすでに私のいた会社や子会社で各種データ入力作業などが進められておりその費用は5000万円を超えていました。

しかし、上にあげたマイカルはこの「与信審査」がきちんと機能していれば防げたか、と言うと全く防げませんでした。大型開発をした総合スーパーがどこも苦しい、と言われつつマイカルが経営危機にあるという情報は全く表に出ておらず一般的な与信審査上は正常企業だったのです。逆にこの程度の「苦しい業界」を取引制限してしまっては、取引できる企業が激減してしまいます。

与信審査では、一般企業では、多くの場合、帝国データバンクや東京商工リサーチの「評価値」が用いられます。ある一定以下では、与信額制限、例えば44点以下は取引不可、というようなルールを決めるわけです。私も管理部門責任者の時に懸念先と分かっているところにそのような制限を掛けたことが何度かあります。最初はこのスコアのみで決めていましたが、それだけでは分からないということがわかり、相手の社長の家を見に行ったり、相手先に私が営業担当役員と伺って「今後の取引を拡大できるかどうかを判断したいので実情を教えてください。」と直談判したことも2度あります。

 

しかし、スコアが悪いという条件で制限したその取引先の会社が実際に倒産したか、というと、その会社に私がいるうちに破綻し貸し倒れが発生した事例は一例もありませんでした。(その後、10年近くたって、倒産したケースはあります。)各社とも、評価値と倒産の関係値を昔は公開していました。この値を見ると、大手企業で「要注意」とされているような46点以下42点以上程度でも、倒産確率は相当低いものでした。なお、今は「倒産確率」という商品ができ、別料金で提供されるようになったためこの関係値は公開されていないようです。

結果から見ると、私は営業に「余計なことをした」のです。

 

■本当につぶれるかどうかはスコアではなく、会社を見る

なかなか、「これは危険」というのを的確に当てることは難しいものです。営業に意味もなく嫌な思いをさせてしまったこともありますし、中小企業にとっては、自分が選別される側になることはあっても、とても選別できる立場ではないということもあり、なかなか与信を理由に「取引を制限、断る」という決断が心情だけでなく、売上の面からもできないのも実情でしょう。その中でいろいろな会社とお取引をしたり、お話を聴いたりした中で、「ああ、そうなんだな」と分かったことがいくつかあります。

1 社長や財務担当役員が銀行との対応でリスケやバンクミーティングなどを一度二度自力で乗り切っているような逞しさと知恵・知識がある会社はしぶとい。社長が職人肌、担当役員は経理屋さんでEXCELで資金繰り表もつけられない、というケースは早晩アウト。

2 業績が「ずっと低迷」は意外に長生き。よかったものが急下降は早晩アウト

3 世間では人がどんどん減っていていく会社は要注意、と言われるが、これは必ずしも正しくない。営業以外の企画や開発で人を減らせる会社は案外生き延びる。ただし、手練手管とみられていた財務部長クラスが辞めて、素人っぽい人が営業から出世する形で後任になったケースは危ない。

これらをまとめていうと、「生き延びるためになんでもやる」覚悟と実行力がある経営者は意外に長生きさせることができる、ということと、「時間軸」の猶予をどれだけ長く伸ばせるかという「しのぎ」にポイントがある、ということです。そして、疑いがあるならば、スコアではなく、そこへ実際に行っている営業の話をまず聞くべきであるし、営業が状況が見えていないならば、中小企業ならば社長さんが自分で行って上にあげたような点を中心に見て、聞いてみればよいことだと思うのです。

 

そんななか、過去2例だけ1年以内の倒産を当てた事例がありました。その2例とも外部にはまだ危機は漏れていませんでしたが、共通する事象がありました。

一つは両社とも地方や郊外部に拡大していた店舗を占めたのですが、その際に過剰に複合機(コピー機)を保有していたことでした。何らかの取引関係上の理由のようなのですが、一拠点に2台あるケースが多くありました。これをどう見るか?なのですが、この会社の社長は頼まれると恰好いいところを見せようといらないものでもトップダウンで契約するタイプなのではないか?と私は思いました。確かに宣伝の仕方も有名タレントを使ったり店のつくりもやや華美でした。それを覚悟をしてお客様に見えるところだけやっていて、見えないところは超ケチケチのすごい会社もありますが、この会社はただの恰好良さを見せたかっただけだったようです。

もう一つの事象は、社長がどうやら今のその会社の事業への情熱を失っているのではないか?あるいは諦めているのではないか?ということです。二例とも社長は30代でした。一例は社長が海外のカジノによく行っていて会社にはあまり来ない、という状況でした。もう一例は、「社長は普段会社にいないことが多い」と言われて他の役員と商談したのですが、その方に管掌範囲や計画について社長と握った形跡がなかったのです。

どちらも10店程度ある10億円以上の年商の会社でしたが、先ほどの「なかなか潰れない会社」の逆で、この程度の規模までだと、社長が熱が冷めたり、利益や成長以外のことに目が向いたりすると簡単に崩れ去るのだな、と感じました。どちらも帝国データバンクのスコアはそこまで悪くはなかったです。なかなか帝国データバンクのスコアだけでは判断できないものです。

 

■余談ですが、「見事な潰れっぷり」の会社の思い出

中小企業どうしだと、信頼関係のある社長さん同士だと、こっそり今の状況を教えてくれて店じまいの方向性を銀行には内緒で教えてくれ、場合によっては取引関係を譲ってくれるようなケースもあります。中小企業の場合、M&Aも営業譲渡も、長い関係の中で金融機関や専門のM&Aエージェントを介さずに社長さんの間で行われるようなケースも多いのです。

もうこの出来事から10年になるのですが、ある会社から自分が財務系の取締役をしていた会社へかなり大幅な営業譲渡をうけたことがあります。その会社も私がいた会社同様、大量の為替デリバティブを銀行との関係の中で契約してしまっており、リーマンショック後の円高でもうどうにもならない状況でした。そんな中、そこの社長さんは、自分の中で「0デイ」を決めて、そこへ向けて銀行以外のすべての取引先に迷惑をかけないよう秘密裏に営業譲渡や債務処理をしたうえで、「銀行にだけ」迷惑をかけて倒産しました。

彼の中には、「為替デリバティブを押し付けられた」という思いがあったようで、その見事な最後っ屁ぶりには感心したものです。なお、その方は同じ業種でちゃんと復活されました。その会社と自分を生き抜かせる力の逞しさは、「理論派」だった私が、それだけじゃダメなんだ、と思わされた出来事でした。

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