今日はお客様に代わって、市場調査をやって見て、その解説を書いていました。
法人向けサービスなのですが、「購買可能な規模、特性」などからピックアップしたところ、3業種ぐらいが市場として大きい、ということがわかりました。そして、激しい不快感(私の世代的には、キカイダーが突然苦しみだす音楽)・・・これは私が過去に大失敗したパターンなのです。あえて自戒を込めて言いますが、頭のいい、EXCEL作業に没頭していると幸福感を味わうようなタイプがやる失敗です。
■私がした失敗
一年ほど前、まだ企業にいた私は中小企業向けに電気の販売を行う仕組みを数人のチームを率いて検討していました。ある業種に特化しようと思い、経済センサスをベースにいろいろな業種を眺めてみてデータをいじってみました。
当然、「使用量が多い」「首都圏を中心に数が多い」というところが適しているわけで、私が行き当たったのは中小の製造業でした。もちろん、電気の使用量は全般に多いですし、大手ほどの優遇も受けられていません。また、製造業の事業所というのは全国に20万ほどあるのですが、そのうち、首都圏、近畿圏、中部圏の10都府県で6割弱、首都圏(東京、神奈川、千葉、埼玉と茨城)だけでざっと25%が集中している、さらに首都圏では機械、金属、プラスティック、紙加工と印刷で全体の8割ということで地理的な近接性もあるし業種の集中性もある。これはいいものを見つけた、と思いましたが結果はというと・・・
仕事でいろいろな失敗をしてきましたが、これほどまでに大外ししたことはありません、というほどの失敗でした。
ちなみに私は自分でもいろいろな業種で経営管理をしていますし、サービス提供者としても製造業を含む数百の会社の経営者と話したことがあります。決して、「知らなかった」わけではないのです。
製造業の市場はたしかにその事業にとって魅力的でした。しかし、そこへの「リーチ」(アプローチ手段)がなかったのです。製造業には各種団体が業種別都道府県別にあり、また製造業を支援する政策や団体も多数あります。これらへアプローチすればヒントは見えるだろう、と思ってこの辺を探ることから始めたのですが、こうした団体や団体の幹部企業には束ねる力はほぼなく、地域別にみても地域に有力な企業があり音頭を取る、というようなこともありませんでした。
もちろん、市場はあっても、そこへのリーチがなければ市場は獲得できないのは当たり前であり、これを軽視していたわけではなく、検証しなければならない課題として1か月程度で200以上の団体や地域の有力企業にお話をして、結論としては、「これは全然だめだ」ということに行き当たってしまったのです。
本来ならば、その前の段階でプロジェクトオーナーとの間で、「仮説検証期間」としてこの検証期間を位置づけておき、リターンできるようにしておくことが企業の中間管理職として当然の防御策だったのですが、企業内の諸事情からそれが難しく私としては最終的には失敗としてこのプロジェクトを終わらせざるを得ませんでした。
■中小企業にとって重視すべきは、市場セグメントよりもリーチ
マーケティングの本や授業では、「市場を分けて考える」ということが指導されます。分けたその市場の部分=セグメントが明確で細かければ細かいほど施策やプロモーションはそのセグメントに特化したものとすることができます。その結果、そのセグメントの中の人にとっては、「自分たちにとってぴったりの商品だ」というインプレッションをもってもらうことができます。
そして、セグメントの分け方は、自分たちがもっている資源、競合の状況、そして市場として魅力的なのかを総合して考えることを行います。この時、企業リストや公的統計のデータ処理から得られるものは、その市場が魅力的な規模や競争状況なのか?ということであり、その市場が魅力的であるならば、そこへリーチするための方法をいろいろと探すということになります。この方法は、論理的であるかのように見えます。
しかし、現実には、私の先ほどの例でもそうであったようにたとえ魅力的な市場が見つかったとしても、中小企業の場合投下できるプロモーション費用も限られています。また人脈やルートを開拓する方法論をもち、それを日常の業務とは別に遂行しうるルート開拓部隊をすでに持っている、あるいはこれから構築できる、ということもあまり期待できず、このリーチがある状態に持っていく、ということは大企業に比べてもかなり難易度が高いことである、ということが言えます。
私の例でいえば、大きくて魅力的な市場を取りに行く、ということをまず最初に考えたわけですが、現実には、「今すでにリーチがある、あるいは見つけられることが十分期待できる」セグメントをまず洗い出し、その中で比較的魅力的なものを探す、という手順の方がおそらく適切だった、ということです。
多くの中小企業の新事業、新商品は、大企業のように数十億円単位の市場を取りに行くわけではありません。現実には、その会社を改善できる数千万円~数億円の売り上げ規模であれば十分なのであり、一番大きい市場を狙う必要はない、むしろ小さくて確実に短期的にとらえられるものをいくつか獲得していった方が経営目標に対しては最短だということです。工場は20万もありますが、もっと小さいもので、たとえば全国に1万しかないものでも、その業界団体のリーダーの方が協力してくれるようなものがあれば、そのほうがよかったのです。最初にその進め方をしなかったことは私にとっては痛恨の失敗でした。(実は社内にそれに気づいている方がいたのですが、その方と初めてディスカッションしたのは、もう突撃対象が決まってしまった後だったのです。)
しかし、この話をすると今度は、幹部がすでに名刺交換をしたことのある企業リストを作成し、そこに提案しようとする、とする会社もあります。たしかに「リーチ」はある。しかし、業種も規模もバラバラです。それもまた、違います。そして、小さな会社が成長できない考え方のパターンがここにあります。
こうした会社は、サービスや製品を一個一個その会社に併せてカスタマイズして提案する、といいつつ結局忙しさに負けて、以前の提案書を流用して提案することになりでしょう。さらに、相手の会社から、フィットしていない商品内容や提案内容をせっかく教わることができても、その商品や提案に反映させることができないでしょう。そして、どの業種、どの規模でもその会社は名も知れないマイナーな存在のままでしょう。
もし、この時、あるセグメントに絞り込んで提案していたとしたら、商品の中身も提案書の事例や効果の中身もそのセグメントの例であり、商品・提案書は逐次改良、というかそのセグメントにあったものに改変していくことが容易でしょう。そして、そのセグメントにばかり提案していると、そのセグメント内ではなんとなく有名になり、一部に導入が進むと、そのセグメント内ではシェアNo1として宣伝し認めてもらえるようになるでしょう。その状況を作り出すことができると営業コストは最初に比べて大きく逓減します。それを実現するのが、収益力を高めるのに一番必要なことなのです。
やはり、教科書にある「セグメントを絞り込め」は考え方としては正しいので、その絞り込み方の中で「リーチがある」を最初の方の条件にすることが必要なのです。
■築地の有名店
同じような事例はもう一つあります。昔私が中国にいたころ(日本の8時は中国の朝7時ですので)出勤前にテレビでNHK国際放送(しか映らない)の朝ドラを見るのが楽しみでして、そのころ「瞳」というドラマをやっていました。榮倉奈々さんがやたらとダンスを頑張る、というお話なのですが、その話の舞台によくなっていたのが、午前10時11時頃の築地の大衆食堂でした。朝早くから声も出す、荷物も動かす、と大忙しの築地で働かれていた人たちが出荷まで終えて、おなかをすかせて、あるいは仕事を終えてビールなど飲みながら大盛の丼ものを食べる、というお店です。
これを見て中国で思ったんです。「飲食店で一番大事なのは、駅前立地でも価格帯でも内装でもきれいな見た目の料理写真でもない!」、そう「そこにおなかをすかせた若者たちがいる」ことじゃないか。(そういうテーマのドラマではありません。)
たしかに彼らお客は食材のプロなので、いい悪いを普通の人以上に見分けてしまうのでしょうが、事業開発的視点からすると、「需要が強くある集団が集まっている場所に行けばよい」ということです。
それは飲食、小売業だけでなく、サービス業やBtoBでも、地理的な場所だけでなく、マーケットセグメントというXY平面で表現されたものでも同様です。「売上高、従業員数でフィルタリングして数百リストアップする」というような進め方は教科書的、大企業的でもあると思うので、試してみるのは良いとは思うのですが、中小企業にとっては、そんなデータ処理的な手法でなくても、「この辺の集団の10か20はものすごく必要としていてお金はらってくれる」という場所、業種を見つけて、そこに行けばよいのです。
潜在的なニーズを掘り起こすということはとても大変です。というかたぶんお金もかかるしあまりうまくいかない。もっとすでに顕在化しているニーズのある「集団」、そう「築地で仕事後おなかをすかしたワカモノがいる」というようなニーズをみつけてそこに行ってみればよいのだと思うのです。
昔、ソフト開発部の管理者だったとき、営業部長に言われたことがあります。
「まともな営業は誰に何が売れるかをちゃんとわかっとんねん、それを創ってくれや」
あんまり営業が個別個別のお客さんの都合ばかり言って、webサービスのことなんて全く分かっていなかったので、私も聞きたがらなかったのですが、今から思えば私が間違っていました。彼らの話を聴いて、どこにおなかをすかした集団があるかを教わって、その人たちに会いに行って、その人たちに通用する「汎用的な機能」を提供することをするべきでした。太宰治ではありませんが恥の多い生涯でした。
そんな昔の数々の反省を胸に、若い優秀な人が同じところに陥らないようにしてあげたい、と今は思っています。