中国では、すべての会社が12月末決算です。法律で決められていて、いくらIFRSで決算期の統一といわれても対応できません。亜熱帯地方にある深センでも、12月になるとからりとした爽やかな天気が続き、写真のようなブーゲンビリアの花が街のあちこちで咲き始めます。そして、時々最低気温が10度を切るような日が表れ、暖房が一般的ではない地域なので会社や家では結構寒くなり、社員もジャンパーきながらパソコンに向かうようになります。こういう季節に華南エリアで居酒屋に行くと寒い中ビールを飲んで風邪をひきます。
12月も下旬になると、社員はあと少しに迫った旧正月に浮足立つのですが、経理部と私は忙しい時期を迎えます。12月中には会計事務所に予備検査を受け説明の場を持ち、1月は1日だけは祝日なのですが、2日からはフルスピードで決算作業に入ります。3年目に入るころには、月次決算を5営業日で完全に締められるようになっていたので、これを終え、経理システムから一年分の仕訳データをすべて出力すると、連続用紙で1000枚にもなりました。それと前回ご説明したドリルと麻紐で綴じた帳票を会計事務所にタクシーで届けるところがまず最初の1週間の目標です。
中国では、一定以上のすべての法人は、決算にあたり会計事務所で注冊会計士(日本でいう公認会計士)の検査を受け、監査報告書(中国語では「年次報告書」)を作成してもらいます。この監査報告書は、日本でいう有価証券報告書に記載されているような内部統制に関する事項が記載されているほか、日本の有価証券報告書と同様の財務諸表とその付記事項、準拠する会計原則等がいっぱい書いてある結構立派なものです。
監査費用は、年商によって相違するのですが、私が総経理を務めていた年間2000万元を超えるところだと安くても2万元、通常3万元ぐらいしますので、管理職5人月分ぐらいの費用がかかりました。日本の感覚でいえば、300万円という感じでしょうか?上場企業ならば仕方がありませんが、上場していなくてもこの費用が掛かってくるのです。
しかも、この立派な年次報告書ですが、その会計事務所を代表する優秀な社員だと思われる方がEXCELで作成したものを入れ替えながらひな型運用しているだけで、当社に来る会計士は20代のへらへらした感じの頼りなーい青年でした。1年目は私も様子がわかっていなかったので経理部長に任せきりにしていて最終製本されて提出された年次報告書をチェックすると、相当、というのは30ページ中に30か所ぐらい間違いが見つかりました。私は会計の専門家でもありませんが、そもそも計算が合っていないとか、当初に関係のない記載が大量にあるとか…お分かりだと思いますが、法律の定めにより、一斉にこの時期に依頼が来るので会計事務所も流れ作業で適当で、当社のような規模も中くらいで上場でもないし過去の問題もあまりないし値段も取れていないところは、下っ端の練習問題として扱われています(日本もそんなものかもしれませんが)。それは仕方ないとしても、かなり基礎的ミスがある状態で、上級注冊会計士(会計士にもランクがある)の印が押されている状態です。
経理部長に指摘して修正してもらうようにいうと、翌々日ぐらいにまた立派な製本をして納品される。製本する前に見せてくれ、と言えばよかったのですが、こちらはチェックを受ける側であってチェックする側ではないという遠慮もあって言わないでいたら案の定、直した個所は別の間違いがあるし、こちらも1回目でチェック漏れしていた個所があり15か所ぐらいが見つかりました。ここで、経理部長に「お前はみたんか?」とか怒ってはだめです。前回記載したように、彼は仕分ける係で上司は税務局であり国家です。決算を報告する係ではないと自己定義しているのですから。
結局、その担当の会計士さんに作成しているEXCELブックを送ってもらい、すべてチェックして中国語でコメントをつけてその日の晩に返信してその年の会計検査を終えました。その若い会計士さんと経理部長と後日食事に行ったら、「総経理は中国語が上手ですね」とにやにやしながらお世辞をいっていました。(上手ではありませんが、日本語でも中国語でも、説明文をたくさん書くのが得意なだけです。)
会社のシステムによる決算と会計士の決算報告書が相違していると、そのあと、今度はその年次報告書を添えて、決算報告書と最終納税の手続きを税務局に行う際に通過できないのですが、そこは自分で防衛しないといけないところです。
ちゃんとした会計事務所はあります。中国にも4大会計事務所系の事務所がありますが、先ほどの費用は一桁違います。その代わり、そういうところは分析含めてきちんとしています。お金を出せば世界レベルのものが得られるが、出し渋ると「なんちゃって〇〇」が出てくる、というのは実は世界共通であり、日本だけが安くてもちゃんとしたものが出てくる(それが労務費が頭打ちの背景でもある)のですが、それを海外で企業経営していると、あるいはスーパーで買い物しているといちいち実感するのです。ケチは体でつけを払うことになります、私のように。
なぜ、そんなに急いで自分で修正する(もちろん、これは違法です。)羽目になったのかというと、それは最終的に日本側親会社に配当する決議を月1回の董事会(株主総会兼取締役会のようなものです。)で3月中には行ったうえで、配当通知書を発行して日本側に送付する、それにより日本側の決算をよく見せる必要があったからです。しかし、配当を決議するためには、税務局に決算と納税の承認を得ていないとできません。3月10日頃までにその承認を得るには、その前に春節(旧正月休暇)があり、公式には1週間の休みなのですが、担当官が2,3週間不在で棚上げになるということもざらのため、1か月以上前には税務局に申請する必要があるのです。しかも、これも国税→地方税務局の順に二つこなす必要があります。
中国現法では春節対策で年明けしばらくは生産も納品も営業も前倒しスケジュールで忙しい時期なのですが、管理部門も同様です。ちなみに普通の会社は春節後に税務局に届け出をしています。税務局の課長からは、「なぜそんなに急ぐ必要があるの?何か撤退して逃げようとしてる?」と怪しまれさえしました。なお、配当を送金するのも、今度は市の外貨管理局の検査が行われ、一筋縄ではいきません。3月終わりから4月にかけて、着金の報告が日本からあったとき、ようやくほっとできるというサイクルを過ごしていました。
本当は、12月締めの決算年度のものは日本でいえば3月締めの決算年度の配当なので、翌年度の決算反映、それも100%子会社なのだから連結数字には影響ないということでよいのではないかと思うのですが、これも社内政治の賜物なのです。