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経費削減講座13 賃料

今回は、過去実施してきた大手中堅企業向け削減の中では断トツの成果額を誇る賃料についてです。実際、チェーン店、それも大型店舗を多数保有する会社では、人件費を除く販売費および一般管理費の中で断トツ賃料の比重が大きく、次が大きく離れて電気代、というケースが多くあり、賃料にどのように取り組むかはプロジェクトの中で最も重要な要素でした。

【交渉要素】

 賃料をどうやって下げるのか?といった場合に知っておいていただきたいのが、借地借家法32条に記載の次の定めです。

(借賃増減請求権)

32

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

2.3.(省略)

  この条項を見る限り、契約の定めに記載がなくても、周辺の「適正相場」と乖離がある場合には、賃料改定の交渉が可能である。とみることができます。しかも、契約途中であっても可能です。(ただし、下げる要求だけでなく家主さんからの上げる要求も可能です。)双方の合意がなければ変更は実現しませんが、交渉をお願いすること自体は、なにか問題があることではなく、むしろ法的根拠があることです。ただし、2年契約など比較的短期の定期借地契約では、事実上これを適用することは現実的ではありません。次回改定時に行うことが適当でしょう。

  実際に実施する際には、相場の調査を行ったうえで家主様にご相談する、という流れを踏むのですが、眉を顰めるような無理な要求はしない、ということはもちろん前提条件ではありますが、実は相手の家主様が大手不動産ディベロッパーなのか、個人様なのかによっても全然交渉の難易度は違います。一口に 「不動産の周辺相場」といいますが、実は近隣に似たような新しさ、大きさ、立地条件のものがいくつもあって比較が十分できる、というようには実はなかなかなっていない中で理論武装度合いも高く、その物件の取得原価に対する利回り率を厳しく吟味しているディベロッパーのほうが難しいのが実情です。

  もう一つ、入居されている会社さんにとっても、交渉なんかして出て行けって言われたらお金も手間もかかっていやだなあ、と思っていますが、それはオーナーさんも同じです。テナントが出ていくとなると通常6か月前に通知され、その後募集を行っていくわけですが、オーナーさんも「同じ値段ではなかなか入ってもらえないだろうなあ」「2か月フリーレントとか要求されちゃうんだろうなあ。」「次々店舗入れ替わると、あの場所は商売によくない場所とか言われると今後困るなあ」というような心配を抱えています。大手ディベロッパーのほうが個人オーナーよりも情報力も、募集広告力も上なため、適正値以下ならば「代わりを探せばよい。」といいやすいのです。

 大事なことは、「妥当な値段で居続ける」ことがオーナーさんにとっても、テナントさんにとっても「共通の利益」であり、その共通の利益を如何に実現するかに向けて協力できる体制をオーナーとテナントの間で作ることです。

 【昨今の情勢をどう見るか?】

2016年後半ぐらいから、オフィスビル業界では、東京、大阪の都心部を中心に歴史的に空室率が低い水準が続いています。私も時々新しく各地にできた都心部の立派なビルのお取引先に伺うと、ハイテク過ぎてビルの上層階のお客様オフィスに行きつくのに方法がわからなかったりしますし、ワンフロアが何百坪もあり、見渡せる広い空間が確保できている様子をアピールしていただいたりして感心するやらうらやましいやらです。こうしたハイグレードビルは空室もありませんし、入居待ち希望も多く、オーナー(多くの場合大手ディベロッパー)の提示価格で契約するしかありませんし、交渉も効きません。これを経済ニュースでは、「不動産市場が過熱している。」「需給がひっ迫し賃料水準が高水準で推移している。」と伝えています。

 商業施設でも、各地にたくさんあるテレビCMをたくさんしているような〇〇モールは常に満室であり、むしろモール側が最新のトレンドのテナントを誘致し、集客が低迷するテナントとの契約を2年、4年という契約周期で終了したり、あるいは場所を入れ替えたり、ということを行っています。こんな相手に単純な交渉は逆効果です。安くしたいんだったら、と変な場所に配置換えされようものなら本末転倒です。

  しかし、日本国内すべてがこんな上昇トレンドである、というのは貸し手側の印象操作であり、実際には、そんな立派な最新ビルのそばにある狭い古いビルや、大通りから2本入った古いビル、あるいは三大都市圏や政令指定市の中心部以外の都市では、数字以上に空室があるのが実情です。皆さんがおられるビルやお店も実は、そんな「最新型」ではないビルが大半なはずです。報道を信じるのではなく、そのビルや隣の同じような古さ、狭さのビルに空室があるのかないのか、まずは自分で見てみることをお勧めします。

 

 【交渉は一本橋上の押し合いではなく】

 店舗開発の専門担当がいるような大きな会社は別として、おそらく、多くの社長さんは今の入居先のオーナーさんや不動産屋さんとご自分で交渉され入居を決められたことでしょう。その時のことを思い出し、もし、対応が不十分であったと思えば相場と周辺ビルの空室情報の情報収集を進めてみることをお勧めします。空室がある場合、そこがいくらで貸しに出されているかは比較的容易に調査することができます。それが今の自社の賃料より安ければ、交渉の目標値をそこに置くとよいでしょう。そうでなくても、設備、古さ、環境など交渉要素は見つけられるはずです。

  ただし、ただ「安くしてください」ではオーナー側には何のメリットもありません。先ほども申し上げたように「もうしばらく居続ける」というお互いの安心が共通の利益ですので、これを目指して、以前出店の際にはバタバタで確認できなかったお互いの意向をキチンと交換する、というところから始めるべきだと思います。逆にいえば、「いつ出ていくかわからない。」という考えならば、そのような交渉は信義上するべきではないと私は思っています。

  実は、オーナーさんは、賃料以外にも、修繕や設備更新、周辺環境美化などいろいろなサービスをテナントに提供してくれています。そうしたことを理解したうえで、長くいるためには何を改善してほしいのか?というところをきちんと話し合っていく、ということが大事なことです。当たり前と言われればその通りですが、それが会社の信用と利益を守る一番の方法です。経営に魔法の杖はありません。

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