上場企業に内部統制の仕組み構築と検証が義務付けられてもう10年がたちます。業務フローの作成やらリスク評価やらと日本中が大騒ぎだったのがはるか昔のことのようです。コスト高はコスト高ですが、その後露見した上場企業の数々の経済事件をたどってみると、きっと昔だと露見しなかったであろうが、こうした内部で牽制の仕組みがあることにより荒っぽくはあっても正常化に向かうことができたのだろう、と思われることもあるので、公的存在である上場企業がこれを義務づけられることは社会的意義はあったのだろう、と思っています。
ただ、途中からM&Aでグループ入りした、それほど大きくない上場企業の連結子会社(私は2社これを担当したのですが)、となると整備の前に、以前のオーナーなりの支配の空気をいったん排除しなければならないためとても大変です。しかも、そうした中小企業は買収する前はその「独裁者」が組織のバリューの大半を占めるような、市場価値の大きい存在でもあることがおおいです。私がかつて務めていた情報処理会社もそんな会社でした。
そんな中、与信管理の仕組みを導入し、企業調査会社のスコアにより売掛残高を制限する仕組みを私が中心になって導入しました。何社かが制限にあいました。その中には、のちの「Mi〇i」(当時はアルバイト派遣の仕組みを提供する会社でした。)も含まれていました。ただ、その制限した会社で、実際制限していなかったら貸倒損失が発生していたか、というとそういう事例は実際にはその会社ではほとんどありませんでした。私のこれまでの経験でも、それなりの数の会社で売掛を制限するという営業からしてみると劇薬を使ったことがありますが、実際にはほとんど潰れていないのです。スコアと倒産率のデータは企業調査会社が一部公表していますがこれをみても一般に制限を行う会社の多い水準でも倒産率は10%を大きく下回っています。売り先や商流を選べるような大手メーカーや流通であるならば、この方法は有効でも、必死で売り先を探している中小企業には決して有効ではないことを認めざるを得ず、その後は売掛金の保証の仕組みを併用するなど改善を図りました。
一方で、貸倒損失の経験がないかというと、2001年頃、大手スーパーが突然倒産し、1億円弱の回収不能債権が発生しました。この事件はいろいろな報道がされていましたが、一部上場企業で大手GMSの一角であり、事前に危険という情報も聞いていなかったものでした。この事件はいろいろ内部の問題がその後報道されていましたが、避けようがなかったもののように思っています。ただ、その後の同社、及びスポンサーになった企業との回収交渉でのえげつなさはちょっとここには書けないすさまじさでした。
上場企業の連結子会社も、上場企業同様に内部統制の整備が義務付けられます。また、上場を目指して頑張っている会社でも、視野におさめ始めると急に入室簿つけたり、押印記録が立派になったり、あるいは帳票が増えたり、と手間が増えてしまうものです。その中には、「合理的判断」を担保するためのもののように、中小企業でも本質的に価値があるものもあるのですが、中には「Too Heavyでしょ」というものを親会社に押し付けられて担当者が困っているケースも多くあるように思います。また、今回の与信管理ルールのようにしゃくし定規にいわれると、若い伸びる新規顧客を失う一方で、古い少数の取引先に依存して大きなマイナスインパクトを生むという結果になることもあります。また、小さな組織のもつよい活力を、大企業ルールで縛って徐々に失わせてしまうようなケースも見られます。
内部統制の概念やカバー範囲が大変広いため、中小企業ではなかなか全体を理解せず、外部の指導者や親会社から言われたままにやっているケースも多いように見受けますが、実は、制度自体は、やれる範囲でやることを許していないわけではありません。角を矯めて牛を殺すにならないようにするには、「要求する側」との協議、調整が都度必要です。