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経営者のための経理入門①~経理の文化論~

ここ2,3週はほとんどずっと伝票と経理データ、会計システムに向かい合っています。そうですね…週120時間。(ホント)2年ぶりに熱が出ました。その中でいくつか痛感したことがありますし、わからんままに事務を進める担当者の「わからん核心」が見えたりもしました。

これまでも経理人員の採用評価や決算作業の進行管理ですとか、予実管理、事業報告書の作成などはいくらでもやってきましたが、そのバックには、「わかっている経理のプロ」がいてくれたので、今回のような一旦、継続性が失われ、データすらも不十分な中から、絡んだ糸を一晩中解きほぐすような作業は正直したことがありませんでした。そして、私は経理をわかった気になっていたことを反省しました。たぶん、世の中には同じような経営者はたくさんいるであろうし、困っている経理担当もたくさんいるんだろうなあ、と思ったのです。

というわけで、よくわからんままに経理をしている全国の担当者、そして、それをまたよくわからないままに「たぶんできているんだろう」とみている経営者に向けて、私なりに「経理入門」を今週は書いてみたいと思います。ただし、仕訳の知識はネットで検索するなり本を買えばよいので、今回は、「経理」作業が何が大事なのか?どういう方針、どういう理念なのか、を中心に何回かに分けて書いてみようと思います。いつもは、理念や原則から入りますが、今回は、「実務側」から入り、その背景にあるものを説明するという順番とします。

私の経理の師は、歴代勤めた会社の経理部長や監査法人、税理士さんであり、あるいは一緒に働いてくれた経理マンたちであり、経理実務、財務理論などいろいろな本も読みましたが、ここにこれから書く話を明示的に話してくれた人はひとりもいません。それは彼らは「経営者」ではなかったからだと私は理解しています。というわけで、おそらくはオリジナリティの高い内容のはずです。

最近は、優れたクラウドサービスが出現してきました。その辺はこちらの記事でもご紹介しました。

「経理担当者なんていなくても自社で経理はできる」「経理の専門家を採用するよりもずいぶん安く済む」というキャッチフレーズがこれらの宣伝にはつかわれていますが、これはCM上の

ウソ

です。原理原則を知らないで始めるとあとから収拾のつかない大混乱状態に直面することになりますよ。(そういう時は私の出番ですが)また、「税理士に任せているから大丈夫」も正しくありません。普段会社にいるわけではない人に記帳を任せる場合でも、その人が必要と言っている資料を必要な形態できちんと出せる、ということには一定の経理の基礎知識が必要である、ということを今回痛感しています。経理の要件がわかっていない人は、「資料だけ出せばよい」と言われても正しい資料を出すことができないのです。

そこら辺を補うところからこのシリーズを始めていきたいと思います。なお、このシリーズでは、経理について「発生主義」「税別会計」(大半の中堅企業がこれ)を想定して書いています。

①発生と実現

経理を知る人からすると当たり前でも、この話が分かっていない経営者はとても多いようです。「経理担当」でもわかっていないケースもあります。そして、業務フロー構築上は現場の責任者にも知っておいてもらわないと、協力が得にくい事項です。実際、私の周りの経営者、事業部長にもわかっている人の方がむしろ少ないです。このことの区別がついていない人からすると、「同じ処理を2回経理処理している」ように見えるのですが、経理では、「発生」と「実現」を区別し、それぞれ経理処理を行います。あまりに厳密に記載するとそれだけで膨大な量になるので、ここでは簡便な記載になることはご了承ください。

「発生」とは、具体的には売上や費用の支払の事由が発生したことを示します。たとえば、サービスを提供し終わった時(発生)に速やかに(これがまた曲者)サービス提供部門は顧客に請求書を発行(発生の証憑)して、その請求書の情報を経理部に渡すことで発生を通知することになります。費用についても同様に、商品やサービスの提供を受けたあと(発生)、費用の請求書を受け取って、これを経理部に支払依頼することで発生を通知します。

当たり前のことを書くと経理を知る人は思われるかもしれませんが、実は、この「発生の認識」は契約書や注文書という約定文書がなぜ必要なのか?ということの理由でもあります。そこには、「何を満たせばお金が支払われるのか?(発生基準)」が記載されているからです。たとえば、「全ての日程を完了したあと、一週間以内に請求書を発行する」などのように記載されていれば、それが発生基準だとわかるわけです。これが、90%が10月に完了しているのに、残りの10%が来年4月に完了だったりすると、来年4月までお金が請求できない、というようなことが発生します。

また、請求書を発行しなくても払ってもらえる(支払通知書など)ことや、請求書は発行するが、角印も押さずに、担当者が相手の担当者に適当にメールしているようなケースもあります。
このような場合、現場では「やり遂げた感」を感じて完結していても、経理では、発生を認識することができず、お金が入るまで何が起きているかわからない、という現象が起きます。また、お金が入ってきてもその中身が何なのかはわからないので、売上なのか、返金なのか、あるいは前受金なのか、立替なのか…正確なところがわかりません。

請求書には、もちろん、「約束に基づいて完了したので(前請金の場合はこれから完了するわけですが)所定の代金を請求させてもらいます、という通知という意味の外、相手と自社の担当部門にこれらの性質を伝えるという目的があります。だから、一行だけ「一式」という書き方では本当の意味での実態把握ができない場合がでてくるわけです。

これは費用の場合でも同様です。

一方の「実現」とは、お金を受け取った、払った、というお金の動きを指しています。会社の規模が小さかったり、現金売買のビジネスではこの発生と実現は時期は概ね一致しています。しかし、だんだんと事業が発展し多様化してくると、そうではないケースがでてきます。そして、そのギャップは、「売掛金(これから入ってくるはずのお金)」と「買掛金」「未払金」(これから払うはずのお金)として集計され、この差額分の資金がないと、支払が出来ない、つまり倒産するという状況が生まれてきます。

昔、ある会社の幹部でデザインの仕事をしている方、その方は個人で会社形態でデザインの請負をしていたのですが、私が財務役員をしていた会社に参画してくれた際に、こんな話をしていました。

「俺、難しいことわからんけど、通帳の金額の増減だけちゃんとみていればいいんちゃうん?」

これは、経営者の直観としてとても正しいことです。ただし、規模が十分小さく、手元資金がそこそこちゃんとある場合に限ります。
少なくとも「収支計算書」よりも「現金増減」(キャッシュフロー)を追うというのは、その逆よりもずっとましです。もし、どちらかだけ管理しなければならないとしたら、発生ではなく、実現を追うべきです。でも、両方を追う意味があるのです。それは、一つは、「会社の経営成績は発生の方が正確に反映している」という点と、「これから先の一二か月の実現を予測するには、発生の管理が必要」という点があるからです。規模が少し大きくなってきたときに、先のデザイナーのような大雑把な管理で生きていくには、相当手元資金に余裕がないと安心できません。そして、一時的な不足は借りてくるわけですが、その「勘定」では昔ならともかく、今時は銀行はなかなか貸してくれません。

というわけで、企業の掛け売り、掛買いでは同じ項目を、「発生したとき」と「実現したとき」の2回処理を行う必要があるわけです。これを全部覚えて置くことはそこそこの会社の規模になると無理ですので、「未実現の項目」は「売掛金」「買掛金」「未払金」などの経過勘定項目と呼ばれる項目に一旦分類しておき、この項目で実現漏れがないか、それが本当に実現していないのか、消込忘れやミスではないかを毎月チェックしていくことが必要になるわけです。この作業は、クラウド会計システムでは、実現を簡単に反映する機能はあるものの、自動で実現を反映してくれるわけではなく、担当者が自分でスケジュールに入れて時間をかけて作業しなければならないことです。

②証拠をきちんと確認する。わかるように保管する。

この感覚も経理屋以外にはあまりわかってもらえないで経理に対する不満の理由の一つですが、実は経理以外でも、組織で仕事をして、外部を含む関係セクターに説明責任を果たすためにはとても大事なことです。

一つの経理処理を行うためには、必ずその処理が正しいことを示す「証拠」(経理用語では「証憑」と呼ぶことが多い)書類が必要です。そして、その書類に記載されているものと同じ金額、同じ日付で経理処理される、ということを守ります。もちろん、そこに記載されている金額と実際に動く金額は一致していなければなりません。この「証憑」は代表的なものは、「請求書」「領収書」「(租税公課では)納付書」などですが、人件費や慶弔費用など、これらが通常存在しないものは、「証憑」自体を作成しなければなりません。また、部門別に振替処理して記録するような場合も、その計算根拠や値を明示して保管しておかないと、社長や部長の質問に耐えられないだけでなく、自分でも再現できなくなります。

時々、外部の税理士から質問を受けて、「資料が間違っていましたが、ここの欄はこっちを集計してください」というような対応をする人がいますが、これは面倒なだけでなく、データの正当性という意味で依頼される側でも、とても困ります。計上の際に依拠すべき資料を取り寄せる、作成するということは実はクラウド会計システムがやってくれない、経理業務で大きな作業量を占めるものなのです。

さらに言えば、その「証拠」は法律と合意内容に基づき、実際に行われた正しい取引であることが求められます。だから契約書や注文書は必要ですし、経理が必要に応じて参照・確認できる必要があるわけです。

本当はその作成した依拠資料も社内で作成者以外がチェック承認する仕組みがあった方がよい(内部統制)のですが、中小企業では現実はそれはなかなか難しいので保管しておいてあとで検証可能にすることで対応するしかないでしょう。

経理担当者が、営業担当者の事情もくみ取らず「証憑だしてください」と言って険悪な雰囲気になるということがありますが、これは「経理担当者」としては、「自分で適当に作った資料や資料がない状態で計上しても、現場の実情をわかっていないし、あとで税務検査や会計監査等で問題になってはいけない」と思っているわけですが、往々にして経理担当者は、その「会社への思いやり」を営業現場にうまく伝えられておらず、「経理は経営の役に立たん」という評価を受けてしまうわけです。

この辺を乗り越えられるかどうかが、「よくわからないけどなんとかお金は回っている数人の零細企業」から「筋肉質で機敏な中小企業」へのステップアップの壁になっているように思います。

③一円単位で合わせる。一つ残らず整合させる。

私個人は、人の10倍の速さで90%の正解にたどり着くことを強みとしています。経営判断はほとんどのケースでは100%の正解である必要はなく、スピードと精度の兼ね合いであるからです。ということはその先の10%は苦手としているほうなのでこれがあまり好きではありません。しかし、「経理とは何か?」といった時に、他の経営関連業務と全く異なるのは、この「完全性への要求」だと思います。

それでは、なぜ、このような完全性が求められるのでしょうか?それは、「異常な値、異常な手続きを検出するため」というのが多分中小企業の経営においては一番大きいことでしょう。これだけで完全に防止できるわけではないのですが、この整合している状態が当然でそれを経営サイドがチェックしている状態においては、不正なお金の手続きを営業側、あるいは経理自身が行うためには、複数個所の偽造を行う必要があるため、そうではない場合に比べてはるかに難易度が上がります。そして、イレギュラーが1,2か所であれば早期に点検・対処が可能です。

ところが、「ぐちゃぐちゃ」の状態では、これを発見することはまずできません。月次のBSの科目残高を報告されても、経営者の側も「なんのこっちゃ、もっと内容がわかるようにして持ってこい」というほかありません。最近実例で分かったのですが、信用保証協会などの審査機関もこの点をきちんとチェックしています。つまり、本来整合しているはずのものが整合していない、ということ自体、疑われる原因なのです。そして、その整合しているはず、という点は①の発生と実現が完全に対応づいていて残高がきちんと0であること。②の証拠に基づいて説明が過去にさかのぼって可能であること、などで確認されるのです。

しかし、月に数百~数千の伝票ですべてこれを実現するのは、並大抵の精神力ではありません。経理にははっきり言って向き不向きがあると思います。多少ゆっくりでもいいから、丁寧で粘り強いことを苦にしないタイプでないと向きません。完全な整合を実現することに美を感じるような人が向いています。そして、そういう人はまた、営業との折衝を苦手としていて、そこに組織がひび割れる原因が潜んでいるのです。

④でも、経営者は違うことを要求してくる。そしてそれは正しい

一方で私は20代の頃、経営管理部門にいる時に、こんなことも経営者に言われたことがあります。

「正確な月次決算が翌月下旬に出てくるのは、それはそれでちゃんとやってくれ。でも、経営側は月が終わったら、その瞬間にその月の状況を100万円単位でいいから教えてほしいんだよ。そっちの方が判断に重要」

この会社は月商20億前後でしたので、100万円といってもそこそこ細かいんですが、これもまだ真実です。特に、収支よりも資金計画という点でこの点はとても重要です。そして、そのためには、業務のサイクルを月次単位から、逐次入力、分散型に設計し直すことが必要になりますし、税理士任せで2か月遅れではこのニーズを満たせず、自社対応せざるをえません。この業務の再設計は営業部門を巻き込んでの大改革に通常なり、企業が年商3億円の壁を超える際の一つの壁になっていると思います。

また、「部門別・業務別に収支を見たい」というのも経営者の強いニーズです。経営者にとっては、業務間の人、金の配分、最終的な業務の存廃の決定こそが最大の業務であるからです。これは、すべての費用・売上に部門区分をつけることによって実現するのですが、経理にとっては現場の業務を把握していないとどの部門の費用かわからなかったり、複数部門分が一緒に上がって来る請求のうち、どの部分がどの部門のものであるかを事前に消費税まで込みで1円単位でずれないように計算したりする作業が発生します。そうなると、「クラウド会計ソフトに部門コードが入れられるから簡単に部門別集計が出来ます」という宣伝文句は全然正しくないのです。実際には、その入力するデータを作成、確認する作業がかなりたくさん発生します。

「経理とは経理ソフトに伝票を入力する業務」というのは、全作業のうち、一部分はその通りです。そして、一部のカードや銀行口座データについては、ここの入力データを自動取得したり、立替清算と連動させたりすることで作業を減らすことができるようになりました。しかし、こうした経営者のニーズに対応していくためには、結局入力データの前処理はたくさん必要になりますし、自動取得したデータにも部門コードの付与や分割作業が必要になります。そのための資料の保管・点検なども発生します。そして、担当者がこうした経理業務の基礎知識とマインドを保有していないと、誤りが放置されます。

確かにクラウド会計ソフトは便利です。しかし、それにより誰もが短時間で経理ができるようになったか、というと単一業務の零細企業ならばその傾向はあるとおもうのですが、たとえば10人を超えてきた成長企業でこれから経営の羅針盤であろう、と志す経理部にとっては実はそれほど作業は減っていないし、難易度も変わっていないのが実情です。それは、「経理ソフトに入力する」以外の仕事が実はかなりの部分を占め、そこに経理と営業現場の知識が必要になるからです。

そして、そのような企業において、経理をちゃんとやろうと思えば思うほど、作業量は増え、社内の今まで通りの個別対応は発生するなかで作業は発散してしまいます。さらには資料整備、フロー整備をして整理しようとするたびに、現場はそれに反発し社長に言いつけ、優しい担当者は社内に味方がいないことを悲観し、疲弊してしまうのです。これは、企業の進むべき方向に必要な「事業部と経理の間の異なる文化の相互理解」と、「経営課題のために各部が何をするべきか」の相互理解を置きざりにしたまま、制度だけを要求した「経営の失敗」です。

という経営の課題を語るべく、今回は、「経理の文化」について代表的なポイントを例にお話ししてみました。それでは経理と事業部の文化を相互理解させるにはどうしたらよいのでしょう?次回はその辺からお話ししたいと思います。

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