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採用戦線異状アリ②数を充足させるには?

前回は、「応募者の質に不満がある」というのは、管理者の考え違いだ、というお話をしたのですが、今回はより多くの会社で聞かれる、「必要数が採用できない」という問題についてのお話です。

前回のお話はこちら

これには(この記事を準備している最中だったのですが)、もう一つの正解がでてしまいました。

先日、千葉県でZOZOが時給1300円でアルバイトを募集したところ、2000人の募集に対して、1日ちょっとでそれを上回る応募があり予定よりも早く募集を打ち切った、というニュースがありました。千葉県の最低賃金(執筆時点で895円)からすると、通常は最初は900円(繁華街の居酒屋等では千葉でも1000円が当たり前のようです。)で募集して、「経験・実績に応じて昇給制度あり」という説明でごまかすのが多くの会社でしょうが、それを有意差をもって上回れば人は集まったのです。

実は似た経験は20年ほど前の大不況期に私もあります。あるチェーン店の本部にいた私は、収益の悪化に伴い対策を考えるよう言われました。考えたのは、160人ほどいた「パート社員」の削減でした。店舗に勤務しているとき、結構暇そうだったからです。750円の時給で平日10時~4時程度で勤務する、というパターンがほぼ一定していました。しかし、店舗のニーズは実は、「開店・閉店作業やその時間帯のシフト体制による人数不足」「土曜、日曜午後の繁忙時間のレジ」「水曜か木曜の入荷集中期の検品伝票処理」にあり、そのほかの平日日中は暇なのです。「必要な時に必要なだけ」会社は労働力があればよいのに、パートさんの顔が見えていて子供の学校の話などしている店長はそれを踏み切れなかったのです。もちろん、今いるパートさんにこれを要求しても、もう既得権益化しており受け入れられません。そこで私がとった策が、「一斉解雇」「必要枠を店舗ごとに決める」「時給は750円から1000円にアップ」という対策でした。

非難ごうごう、本社の私に苦情が沢山きましたし、社長のところにも投書があったようですが、上司が防波堤になってくれた結果、どうなったかというと…①パート人件費3割ダウン(年3千万円ぐらい削減)、②大幅な若返り(くちゃくちゃしゃべってばかりのおばさんの排除)、③生産性向上(実は②とほぼ同じ意味で若い人の方が業務スピードが速い)が実現できました。この時も1000円で2時間枠単位という日曜日のオリコミ求人広告に300人ぐらいの応募があり、反対勢力、既得権益層を黙らせることに成功しました。

つまり、「必要分量をキチンと見極め、そこだけを高く買えば、いらない分まで買うよりも安くなる」ということです。「パートさんも生活があるんだから月8万円ぐらい出す感じにしないと誰も来ないよ」と年長の店長さんにはさんざん言われましたが、やってみると「2時間だけ働きたい」とか、「土日午後が値ウド都合がいい」とかいう人はちゃんと見つかりました。人の嗜好、都合はその程度には当時からばらついていたのです。

コンビニや安売り居酒屋のように質なんて何でもいいからとにかく安ければよい、という業種はこの話は通用しないとは思いますが(失礼な言い方ですが、そういう本部の考え方なんでしょうから)、そうではない会社が実は多いはずです。少なくとも、経営の目的関数は、「作業量当たりの費用(コストパフォーマンス)」と「総費用」のはずなのに、「単価」と混同して、単価は少なければ少ないほどいいと思い込み、最低賃金で募集広告を出すのが当たり前になっていませんか?アルバイトでも求人広告でも高めに水準設定すれば、それなりの経験者・質の人材が沢山応募してくれます。その中から選ぶことができます。(もちろん、約束は守る必要があります。)

おなじように、「事業部長候補募集」とするときに、その会社の部長の給与が一番高くて650万円だから、とかそういう理由で「年収480~660万円」と記載しても思ったようにいい人は来ません。そこは、「年齢不問で600~960万円」と記載するべきです。

これもやってみるとわかりますが、提示金額が800万円を超える募集には明らかに「実績はあるが、お金もたくさん欲しい」なんだか欲張りな狩猟民族系の応募が沢山きます。結構「おいおい…」と思うようなインチキっぽい人も混じりますが、それは選考ではじけばよいのです。管理職候補ならば実績がない、人脈がない人に400万円はらって2人採用するよりも、組織を伸ばした実績がある人一人を800万円で採用した方がはるかに成功確率は高いです。(一般職ならば、400万円2人で成功できる仕組みを作る、というのが前回のお話です)

人材採用については、「Price means Quality」であり、その性能差は数十倍にも及ぶ、ということを前提に提示額を考える必要があります。

1300円は採用コスト低減策だった?

もう一つ、ZOZOの話には重要なポイントが隠されています。それは、「採用コスト」です。採用の問題は、人が採れない、時給が上がる、という問題のほかに、「採用にかかるコストが非常に高い」という問題も無視できません。ある会社では平均すると、契約社員・アルバイトで20万円台、新卒一括採用で40万円台、中途の課長級で100万円程度の採用コストがかかっていました。これには、メディア掲載料や人材紹介会社への報酬支払、担当者の投下人件費や印刷物、適性検査等費用などが含まれています。しかも、これだけの費用を投下して採用した社員のうち、2,3割は1年以内に辞めてしまうというのが今どこの会社でも起きている状況です。人材紹介会社は年収の(ここがポイントで賞与水準を約束するタイプだとそれにもかかって来る)30~35%程度を紹介報酬としてもらいますので、もし年収600万円の人を採用すると200万円程度の報酬が一括支払いで発生します。(上の例では、このような採用ルートを用いることをできるだけ抑制していたので、100万円程度にとどまっている)これは中小企業にとってはかなり大きな負担です。しかも1年以内に3割辞めてしまうのですから会社からしたら踏んだり蹴ったりです。

働く側は、往々にして自分の手取り給与しか見えていませんが、会社は社会保険の負担はもちろん、退職金、通勤費、営業交通費、パソコン代など様々な人にかかる費用を負担しています。この採用費というのはその中でも相当大きい方の費用だと最近では認識されるようになりました。

ZOZOにどのような計算があったかは推測に留まりますが、周辺よりも高い価格を提示することはその分だけコストアップになるのか?というとかならずしもそうとは言えないと思います。仮に一人100時間で従来は10万円だったものが13万円の平均支給額になったとすると、社会保険負担(80時間を超えているので)も含めると月額3万5千円、年42万円の負担増になります。しかし、メディア広告費は今回は不要になりました。また、採用面接や書類選考等の手間は今回大量一括採用することで大幅に圧縮が可能です。上の例でいえば、おおよそ20万円が節減可能になった可能性があります。

さらに、応募者が増えることにより、その中から「やめにくい人」かつ、「能力が見合った人」をセレクトすることが可能になります。これにより1/3の確率で発生していた来期の20万円が不要になるとすると6万円程度の節減になり、教育訓練のコストも不要で能力の高い層を継続雇用できる効果が仮に20%程度(実際にはもっとあるかもしれない)あるとするとこちらでも3万円弱の節減が可能です。ここまでで42万円の負担増はこの時点で29万円相殺されています。

その上、今後もアルバイトだけでなく社員も含めて人が集まりやすくなること、そしてZOZOというブランドを若年労働者に好感をもって知ってもらった効果を考える、そして集まった人の中から今なのか業務経験後なのかに有望な人を社員として採用する際の採用コストも低減できるとさらに効果は大きい、とこれは実はコストアップではないのかもしれません。つまり、採用、教育コストの節減と広告費用の代わりという点で妙手だったのではないか?というのが私の考えです。

この策は実は、100人に100万円プレゼントの際、多くの人がZOZOを知り、600万人もの人が前澤代表のTwitterアカウントをフォローし、テレビに取り上げられたのを振り返って、「広告代理店に頼らないでも広告できた」ことのメタファーとして、今度は「人材紹介会社に頼らないでも採用できる」という革命を日本企業にもたらそうとしているのではないか?と考えています。

ZOZOは、昨年優秀なエンジニア(ソフトウエア技術者)を最高年俸1億円で採用するという発表を行っており、この時にもトップクラスのエンジニアが応募した模様です。ソフトウエアこそ、できる人はできない人の100倍の生産性を発揮する世界なので、この時は誰もが合理性がある策と思っていたのですが、ここに至るまでの流れは、「私たちが常識と思っている既存のしくみを打破することができないかを考えてみる」という思考の流儀が背景にあるようにも思います。小さい会社、新しい会社は大きい会社と同じルールで戦っていては常に不利な戦いを強いられますので、こうしたルールチェンジを仕掛けることは要所要所では必要なことなのですが矢継ぎ早のチャレンジをこなすタフネスさこそ、この会社の真のコアコンピタンスかもしれません。

、というわけで提示給与額を思い切って上げれば、必要なスペックを有しかつ辞めにくい人材を選べる、というのが対策の一つである、ということが今回実証されたわけです。そして、実はそれが全額コストアップになるか、というとやるかたをうまくやれば実はそうでもない…のではないか?と思うのです。

人手不足のほかの原因

実は、少し前までは日本企業ではあと一つ「人手不足」の理由がありました。それは、急速に人材の需要が変動しているのに、社内人員が新しいニーズに対応できない、という問題でした。多くの日本企業がいらない管理、いらない業務に大量に人員を抱えながら、一方では新規事業分野では採用にコストを掛ける、という状況があったのです。ただ、これは最近では「無理やり異動をさせて、対応できなければ早期退職制度でやめてもらう」ということで結論が出つつあるように思います。というわけでこれは分析を省きたいと思います。

しかし、数が充足できない理由はもう一つあります。それは、相当数が辞めてしまう、ということです。一体なぜ辞めてしまうのか?それを防ぐ手立てはあるのか?ということについて次回、いくつかの事例を元に見ていきたいと思います。


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