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採用戦線異状アリ①「いい人」はどこにいる?

就職戦線も大卒は早くも実質終盤戦という声も聞こえてきます。先週もある地方大学の東京オフィスに伺ったら、キャリーバックを引いて疲れ果てた様子の大学生たちがスペースを借りて情報整理と書類作成に追われていました。

今週はそれをみて思った、採用をめぐる課題と最近の潮流について実例を交えてご紹介していきたいと思います。

一昨年ぐらいから経営者の方にお会いすると第一の課題に挙げられるのが「採用の難しさ」という方が多くなりました。その頃私は、「経費削減」専門のコンサルタント会社の代表だったのですが、なんか経営者の関心の的を外している感が徐々に強まってきて、それが今のきぼうパートナーの事業内容へとつながっています。

採用の問題はお話ししてみると「いい人が採れない」という質の問題がメインの会社と、「数が揃えられない」という量の問題がメインの会社に分かれているようです。この二つは似ているようでだいぶ質の異なる問題です。今回はまず、質の問題についてみていくことにします。

「いい人」は見つかりましたか?

「いい人がいれば採用する」と言って求人メディアにお金をかけて広告を出すが、いつまでたっても採用できない会社がたくさんあります。こういう会社には共通した特徴があります。それは、社長なり採用する事業部門の部長なりが「頭のいい人」で、知的バイタリティがあり、話すとボキャブラリが豊富な人だということです。そして、その事業はたいてい、そうしたコンピタンシーを必要とする「普通の人にできない仕事」となっています。つまり自分の特徴をいかした事業を作り上げた人が、それを拡大するため、あるいは自分の労力を他にそそぐために他の人を採用しようとするときに、自分と同じ像を求めようとしているのです。人材紹介会社も早期にこういう会社を見抜きます。そして、お金にならない会社だと思うとあまり労力をかけてくれなくなります。本当は人材紹介会社も見抜いているはずですが、紹介してお金貰う仕事なので、紹介する前にやるべきことがあるでしょ、という本稿のような話はしてくれません。

こういう会社では、部長は社長のおそらくは優秀な大学の同級生だったり、社長と同じような能力を持つ同志のネットワークで見つけた人だったりすることが多いようです。その方法で2,3名優秀な人を見つけることはできるのです。その人たちが「幹部」というわけです。そして、それがまた社長と同じことをやろうとする。社長が知らず知らずのうちに自分と同質性の高い人を求めてしまって採用しているし、部長も社長を尊敬し見習っているからです。こうして5~10人で1億~2億円までは「個人力(知力と長時間労働)」で突破することができる、というケースは良くあります。よくあります、というほど簡単なことではなくて、ここまで来るだけでも立派なものです。それにすら至らないケースの方が圧倒的に多数なのですから。

しかし、こうした会社の成長は比較的すぐに止まります。社長や一部の幹部は「いい人がいればもっと拡大できるのに」と言い続け、その他の社員は社長の小難しい話を分かったふりのしながら100%以上の力を出し続けることを要求され疲弊し徐々に離脱していき、とうとう人材面から現状規模を維持することさえ難しくなります。こうなってもなお、社長は相変わらずあちこちで、賢そうなことを発言しているが、「その割にはあの会社、全然伸びてないし最近聞かないよね?どうなってんの?」と周囲から言われる状況になります。

ここまでを読んで「自分の会社のことを書いている」と思われた私の知人の読者の方、あなたの会社もそうかもしれませんが、今私の中にはこれに該当する会社が6社浮かんでいます。それほどまでにこれは、「よくある失敗」なのです。

もうお分かりですね。「いい人」がいなければ拡大できない事業を拡大しようという、そのスタート点が間違っているのです。経営者のあなたが間違ってないものねだりをしているのです。

「あたまのいい人」が事業を拡大できない原因

拡大可能なビジネスモデルのもっとも重要な要素は、「平均的な能力の持ち主が毎日80%の力量で普通に働くことで成果が上がる仕組み」であることです。つまり、マニュアルが整備され、営業も制作もフローや判断が標準化されそこで自分なりの方法をあれこれ考えなくても決められた帳票を埋めるよう行動して行けば作業が進み成果が上がるような仕組みであることです。その「並の人でもできるマニュアルや帳票」を作ることこそが、「頭にいい人」が集中してやるべきことなのに、物事を複雑な方へ複雑な方へと進めてマニュアル化が困難なものにしてしまう、そういう事例がいわゆる「優秀な人」のまわりにはたくさんあります。わかりやすい言い方をするならば、東大卒の事業家がうまく事業を拡大できない理由のかなりの部分はここにあります。彼らは、「わからない人」の気持ちや能力の限界、理解の構造がわからない、あるいは世の中の多くの人が「わからない人だ」ということすら認めないので、それに合った事業を構成することができないという欠陥を有しているのです。

逆に、そうでもない大学をでて、それほど優秀とはこれまでの人生で言われていないような人が、「自分ができること」で世の中の役に立ちそうな新サービスを見つけた時、そのそばに、上のような知的バイタリティのある人がいて、しかもその人に複雑化するような口出しをさせずに社長が、「つべこべ言わずにマニュアル化して教育システム作ってアルバイト集めて教育しろ」と言ったとしたら、それは上よりもはるかに拡大の確率は高いでしょう。多くの成長しているベンチャー企業は、これに成功し、「少しの優秀者」が作ったしくみの上で、「多くの普通の人」20人、30人が無理なく一方向に走っている状況が実現できている会社です。「個人が自由な発想でクリエイティブな事業を次々伸ばす」は広告表現としてはあっても現実に目指すものとしようとすると多くの社員がついていけないものです。人はそれほど賢くもないし働き者でもない。しかも、日本ではなぜか社員はみんな「自分は必死でやっている」ふりをして非難を避けようとします。「社長、言ってること難しくてできませーん」とは思っていても誰も言ってくれません。売上高が3億円を超えるには、「並の社員を増やして成果を上げる」ことがどうしても必要なのです。

頭のいい人たちは、それを「画一化したマニュアル人間では価値あるサービス提供ができない」というような批判をしますが、私からするとそれは「自分が自分の賢さを存分に発揮できないのが楽しくないだけ」です。世の中の多くの人間は、むしろマニュアルがあった方が気楽で働きやすい、続けやすいと感じます。そして、トヨタ生産方式でも言われているように、マニュアルがあったらマニュアル通りやるだけなのか?と言うと、個別に考えなくてもよくなることでできた余裕で、方法を改善することを考えるようになりますし、営業ならば、それではじめて一番大事なはずの顧客のことに意識が向くようになります。つまり、採用するならば、その前に幹部が自分の仕組みを単純化しマニュアル化し、普通の人ができるようにしてから、応募に来た普通の人を採用すればよい、ということです。

そうすれば、能力ではなく、健康やストレス耐性、対人的な話し方の巧拙というようなところで採用可否を判断でき比較的早期に採用フェーズをクローズできるのです。

今するべきは、営業、製作の「仕組み化」

私より年配の東大卒のベンチャー幹部(ここは2,30人社員がいるがやはり伸び悩んでいる)がある休日の夕方に会ったあと、私にいうのです。「物事の構造や言っていることの意味をキチンと理解できるということがこれほど希少な能力だとはいままで思ってもみなかった」

この会社は代表も存じ上げているのですが、社長も一を聞いて十を知るタイプ、弁の立つタイプでしたので、ああ、社内がみんな個人個人バラバラに創意工夫を要求されているんだなあ」と問題の所在を推定したところでした。

私がこの会社に助言するとしたら、こうします。

1 社長とあなたとあと数名の幹部は、毎日15時以降は営業せず、ノウハウやトークの教科書化、営業や制作フローの標準化だけやってください。

2 できたマニュアルをあなたが能力に不満を持っている社員数名に読ませ、テスト問題を作成し解かせてください。社員が誤った回答をした個所は、「あなたのマニュアルが悪い」ので、マニュアルを改良してください。

先日、別のお客様のある一事業部のスキルを洗い出しテキスト化することを事業部長にお話しして、実際に私がその部署の「教科書の目次」を作ってみました。外部の私が耳学問でつくっただけでも項目数は7章で60ほどになりました。これを完成させ、さらに帳票まで標準化して改良したらかなりの分量になりそうです。大変なのは量だけではありません。作業を分解して単元にすることも、その内容を「臨機応変」という言い訳に逃げずに標準化することも実はとても大変なことです。しかし、その「頭のいい人」たちならできるはずです。それをやらないのは、責任回避でしかありません。そして、それを下の「普通の人」にやれ、というのは、これまた、人は皆あなたのようにできる人ばかりではない、あなたは特別だ、ということをわかっていないことを示しています。この標準化作業は、不完全であっても一旦はすべてリーダーが行い、その改良から先を現場に任せることが正しい対応です。

この作業は実は、製造業が家内制手工業、町工場から大規模生産が可能になったのと同じことを営業や制作などのホワイトカラー業務でもやっているのです。製造業が品質を向上させ、生産コストを低減してきたのと同じことを事務作業でもやりましょう、ということです。

そして、ここから目を背けて、「いい人がいない」と嘆いているリーダーは、「工房の親方」と同じです。そりゃ、あんたは腕がいいんでしょう。でも、普通の人がライン組んでマニュアルに従い生産する工場的企業にやがて駆逐されますよ。そういう駆逐した会社も、駆逐された会社は現にたくさんあるのです。

と、ここまで偉そうに話してしまいましたが、今日のこのお話は実は私が30代までにとても苦しんだ話でもあります。私もまたそういう「頭の使い方を間違ったリーダー」に他なりませんでした。そんな昔の私はある時、採用面接で応募者に言われたのです。

「そんな高度な要求をしていては、誰もこの会社で働きたいとは思いません!」

私も例外に漏れず、高い目標をもって創意工夫をすることが仕事のやりがいだとそれまで思っていました。しかし、事業の責任者としてはそれではダメだということを突き付けられ、考え方が転換した出来事でした。リーダーがそんなことを言っているのは、リーダーの自己満足でしかない、と今では思っています。

いい人はどこにいるのか?それは、あなたの会社の仕事に関心があると目を輝かせて面接に来てくれる、能力的にはごく普通の人、だったのです。青い鳥と同じです。幸せの青い鳥はあなたのそばにもういるのです。

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