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中小企業の現地法人との「移転価格税制」で困った

中国シリーズには、だいたい「トンでも」という文字をタイトルに入れているのですが、今回はそういうわけではなく、中国に進出する経営者の方に知ってほしいという内容なので入っていません。

 

親会社と子会社の間でも、適性な価格~つまり市場水準並みであったり、原価に対して大幅に割り込んだり、上乗せされていたりするわけではない価格であること~でないと、その「適正との差異」は損した方は、「寄付金」として課税されるなど、税務上の指摘を受けることになります。これは子会社をたくさん持つ大手法人の間では常識であり、そのために、特殊で大きな金額の親子間取引であると、価格の適正性を説明できる資料をあらかじめ用意して税理士さんに説明して、問題になりそうかどうかを事前に相談してから取引を実行したりというリスクヘッジをします。「子会社」という形をとることは、メリットもありますが、膨大な手数増の原因にもなります。

 

最近は投資家も単体決算ではなく連結決算を中心に評価するようになりましたし(昔はそうではなかったんで、子会社に迷惑を押し付けるようなことが暗におこなわれていたんですよ)、面倒この上ないのですが連結納税も大企業には普及してきたので、国内子会社相手に価格を操作する「意味」が昔よりも薄らいでいます。しかし、海外となると話は別です。海外法人は海外でその国に法人税を払っています。実は日本の法人税は他の国よりも高いことが多く、例えば本シリーズのテーマの中国では25%、私が総経理を務めていた当時は「経済特区」の政策優遇で15%で、36%程度の実効税率がある日本よりもだいぶ安いのです。そのため、もし海外法人と日本法人との間で利益操作が可能ならば、中国で利益を出した方が会社全体の連結税引後利益は増えますし、中国で再投資するならばもちろん、日本の親会社へどーんと配当する場合でも、10%の源泉徴収税を支払ってもなお、中国での利益の方が日本での利益よりも効率が良いのです。(そのほかに銀行の送金手数料などのコストもかかりますが)

これが、時々話題になる法人税率の国際的な引き下げ競争の基本原理でであり、法人税率の低い海外に本社機能を移したほうが利益が増え、社員や株主への配分が増やせるという仕組みです。法人税率の引き下げを「大企業優遇」と批判する政治勢力がありますが、たぶんそれは当たっていない。大企業はこうしたことを見越してタックスプラニングをして全体の実効税率を下げることができているのですが、中小企業は高い法人税率で低い法人税率の中国製製品と戦う、または中国進出に挑まなければならない状況に置かれています。

 

それならば、それを利用して中国で利益が上がるような普通の価格体系にすればよいのですが、一部の古い経営者は、「中国法人なんて赤字でよい」という態度を露骨にとる人がいるのです。それらをひも解くと、「あいつらを儲けさせてお金を貯めこむと信用ならん。」とか「日本の会社なのだから、日本に税金納めるのが筋で中国に払う必要ない」とか、そもそも事業を国際展開することの意味や責任を理解していないケースが多く、私もそうした社長の古い「国粋主義」の弊害で、強制的な単価引き下げ、利益圧縮の憂き目にあってしまいました。

ちなみに中国では、外資企業が一定額以上の納税を行うと外商投資委員会から、「優良外資」の表彰状がもらえ、春節前の外商投資委員会関連の新年のパーティーに招待され、市の幹部と友人になれる、というようなメリットも実際に享受できます。私も(納税額ではない基準で)一度お招きに預かったことがあるのですが、豪華絢爛で、来られる幹部もすごい人で、結構その場ですごいビジネス上のことがポンポン決まっていきます。こういう要素も中国では決して無視できません。

 

前置きが長くなりましたが、ここでようやくタイトルの話になるわけですが、このような利益操作がまかり通っては、どちらかの国が税金を損をしてしまいますので、そのような「不当な利益移転」は国内の親子会社間のケースと同じように課税対象、時に悪質な場合は重加算対象となります。これを「移転価格税制」と言います。中国でも2006年頃から外資系企業の移転価格税制の監視が強まり、2008年からは立派なレポートで「どのような価格決定方法なのか、実際どのような手続きを踏んだか」を年に一回国に提出する義務が生じました。この移転価格税制の価格の妥当性の決定方法には「国内市場との比較」「原価と適正な利益率」などいくつかの方法がありますが、これらは「表向きのもっともらしい理論の話」であり、実態は、「独資企業で海外の親会社の仕事が大半を占めているのに、そこが赤字とか、黒字すれすれとかいうのは許さない」、という意思が国にあるというように理解しておいて間違いはありませんし、市レベルではそのように読み取れる公文書が現地法人に送付されてきていたりもします。また、中国の場合、営業許可証の年次更新にあたって、決算状況、資産状況を提出し審査を受けるのですが、赤字が続くとそこで障害が生じる恐れがあるという問題もあります。

このように、生産委託型の中国子会社を赤字にする、ということは現実には難しいのであり、それが中国やその他発展途上国の一部での仕事をする前提でもあるのです。

 

という説明を日本側にするのですが、そもそもそんな差別的取り扱いを指示する国粋主義者がこんな話を納得するわけがない、むしろ逆効果でした。こういうことを知らない人が日本の親会社の社長になり、自分が正しいと主張しだすといろいろな悲劇が起きます。

現地法人では私が政府提出の価格報告の原稿作成と根拠データの整備に追われながら、当時は変動相場に移行したばかりの為替が「元高に振れる」という日本国内エコノミストの予想を日本側の社長の取り巻き陣に焚き付けて(そういう銀行系レポートを数個探し出して)安全側に予算の為替を振ってもらい起き、しかし「中国がそんなリスクを冒すわけがなく、実際にはゆっくりとしか変動させないはず」と祈って(そしてそれは当たった)、そのギャップでなんとか利益を出して実害を免れる、ということをやりました。

 

海外で法人を設立しそこで雇用を行い事業を展開する、ということはその国の市民として明文、非明文の「国民の義務」を果たすことが要求されるものであり、それらを免れようとしているとみられると、国内企業以上に外資は猜疑の目を向けられ以後の事業展開に際していちいちややこしいことが起きかねません。日本の仕事しかしてこなかった人が突然海外法人を持つ会社の経営に携わり、特に連結決算ということへの意識が薄かったりすると、こうしたトラブルの種をまいてしまうことになります。この移転価格税制の問題は、一旦火を噴くと非常に大きな額の追徴という問題に発展しかねません。売上額自体が実際よりもかなり多かったはず、という扱いを受けてそれに伴い利益計算をされることが、かなり古い過去に遡及して行われるからです。

実は日本の国税庁もこの移転価格税制には目を光らせています。私も海外某所でこれを専門に調査する担当官とあったことがあります。実際摘発事例もありますが、日本ではたまに企業側が異議申し立てを行い、それが裁判等で認められる、という事例もたまにあります。これ自体は民主主義国家の優れた点だと思うのですが、相手が中国だとたぶんこれは無理です。もちろん、制度上は日本同様再審査請求の仕組みや裁判の仕組みはありますが、ことはそういうことではない。そんな正論が通じる国は世界では実は少ししかなく、力と感情がぶつかり合うのが外交であり、海外でのビジネス展開です。

かつては侵略行為を行い、今自分たちよりもはるかに経済的に大きな存在になった巨大国家で仕事をする、ということのリスクであることを経営者は忘れてはなりません。

 

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