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中国で警察沙汰になった日本からのトンデモ出張者

今回、今年最初にトンデモナイのは、中国人ではなく、日本人。

新年会もそろそろ始まったころでお酒を飲む機会も多い季節ですが、今日の結論は、「酒癖の悪い人を海外現地法人に出張によこさないでくれ」ということです。(私も気を付けないと・・・)

 

私が総経理を務めていた中国深センの会社では、日本の親会社が受注したデータ入力やその周辺作業を最大500名の大量のトレーニングされた文字やCADの入力技術者を雇用してこなしていました。そのため、そこそこ頻繁に日本のエンドユーザーから「技術指導員」が出張してくれ、従業員の教育に当たってくれていました。多くの出張者は基礎的トレーニングをされ勤勉で人懐っこい人員と設備を数十~百数十並べた作業体制(そして、コストは日本よりもかなり安い)を目の当たりにして、「これは日本では絶対に無理なことであり、わが社の新しい可能性を広げた」と喜んでくれ、熱心に教育してくれました。10代女性を中心とする社員の方も、そのような機会にエンドユーザーに信頼を得るとリーダーに登用されやすいとわかっていますので、質問攻めです。中国人はこういうとき日本人のように遠慮などせず、ガンガン質問し、それにより自分はできるとアピールします。

この事件の時は、また事情がやや相違していまして、9月下旬にこれまでの業務システムをエンドユーザーが開発した新システムに入れ替えするということで普段はあまり中国に来られないシステム部門や業務管理部門の方が中国に来られ、導入作業と現場での運用指導に当たってくれていました。ところがこの時、このシリーズにもよく登場する私の秘書さんのお兄様がなくなられてしまい、彼女に急遽帰省(遠く遼寧省まで)してもらっていました。現場は現場に通訳さんがいますし、自分も社内のことぐらいは何とか意思疎通できていたので、特に心配していませんでした。中国では日本以上に親族の不幸には皆さん心を痛めます。特に少数民族出身の彼女は、お父様が早くに亡くなられそのお兄様が働いて彼女を有名大学まで卒業させてくれた、ということも聞いていましたし、朝方の欠勤を伝える電話もなかなか声にならない状態でしたので、「制度の休暇日数にこだわらず、おうちのことと気持ちが落ちつくまで、あちらにいていいからね」と言ってあげることしかできませんでした。

 

事件が起きたのは、その日の夜12時ぐらいでした。帰省している秘書さんから携帯電話に電話があり、なんだか泣いているのか疲れているのか、普段とすこし違う声でこういうのです。「総経理、だれか来たとしても絶対に応答に出ないでください」「奥さんにもそう伝えてください。」(寝てて起きてこんけど)私が、「わかったけど、なんで?(あまりたくさん話させられないんだろうけど)」というと、「門番の唐さんのところに、公安の制服を着た人が4人も入ってきて総経理の名前を教えろ、と言われておしえたんです。本物かどうかや理由もわからないんです。思わず教えちゃったけどあとでもしかして偽物の強盗かもと思って私に電話してきたんです。」(当時は夜建物に一人守衛を泊まらせていた。)

これは何かが起きているということが分かり、起きて鍵を確認し、部屋の電気をすべて消し、シャワールームに行き、シャワーカーテンをつってあった細い鉄棒を外してきて左手に持って音を立てないよう、ドアから2メートルほど離れて立って息を整えながら耳を澄ませ事態の推移を待つことにしました。(そう、私は剣道の有段者)

すると30分ほどして部屋の防犯門を激しくたたく音。そして、「ゴンアンチュー」(公安局)と大きな声。何度もそれが続くのですが、秘書さんの指示もあり、息をひそめて立っているとやがて足音は遠ざかっていきました。

翌朝、妻に(家にいるように言っても聞く人ではないので)昨日の出来事を説明し、周囲に気を付けて異変を感じたら電話をするように言って出勤すると、マンションの一階の守衛さんに引き留められ、「あなた1503号室の〇〇さんだね」と言われるのです。「そうです。」(昨日の公安は本物だとこの時わかる)そのまま何もなく、出勤すると、人事部長が妙な顔をして「総経理、用事あります」と言いながら新聞を持ってきた。そこには、夕べ起きた事件が記載されていました。

 

「日本からの出張できた某(そこには実名)が中国人の妊婦の腹を蹴って、警察に逮捕された。」飲食店で酔った某は、周囲の席にいた中国人カップルに因縁をつけ喧嘩になった。仲裁に入った女性を突き飛ばした。某は日本のZ社の社員である。」

 

愕然です。そして、夕べの訪問者は本物の公安であり、私を身元引受の責任者として署にきてもらおうとしていた、ということも分かりました。現場に「〇〇たち(出張者)とB(その部門の親会社からの出張者)は来ているか?」と電話で聞くと、「出張者は来ているが、Bはまだ」だというので、中国の携帯を持っているBに電話をすると、「すいません。ちょっと遅くなりまして、今シャワーを浴びて出勤するところです。」と夕べの話はしようとしない。そこで、一旦は切り、守衛を呼ぶ。守衛に昨日どういう話だったのか?と聞くと、「何も言わず総経理の名前と住所を教えろと言われた。名前は知っているが住所は知らなかったので、名前だけ言った。日本人かと聞かれたので、この会社は日本の独資で総経理は日本人だといった。」ということでした。そして、「理由を何故聞かないの?」と人事部長に言われて、正直者の彼は、「酔っていてよくわからんかった。」と白状しました。彼の部屋には私も時々立ち寄っていたが、たしかに夜間酒を呑んでいる形跡はあったしそれを禁止する規定があったわけでもなかった。ただ、人間よりセコムの方が当てになる、とその後有人夜間警備を廃止した大きなきっかけにはなりました。

その後、Bを呼んで聞いた限りでわかった事実はこんな感じでした。「某は酔っぱらって目が座っていたが、自分で何かをやったわけではない」「向こうが因縁をつけてきた。」「某は酔っぱらって気が大きくなって日本語でやる気か~とか騒いだ。(ひょろひょろしたやせ型に眼鏡で正常時はそんな感じの人ではない)」「それを相手の男が襟首つかんできたので、二人で店外に流れ出た」「妊婦を蹴ってなどおらず払いのけただけなのを大げさに言われた。」「向こうが電話して記者らしき人間を呼んだ」「警察で、謝罪すれば放免すると言われたが、某が自分は悪くないと言い張り、自分が通訳していた(彼は中国語が上手)が、それを警察にうまく伝えることができず、説得に時間がかかった。」「警察が総経理を呼んでいることは知っていた。会社として相手に謝罪させるつもりだった。(謝罪はするが、それに伴う「賠償金」の問題は会社は払えんので、結果としては居留守を使って正解だった。)「最終的には、Bが代わりに謝罪文を書いて、朝5時過ぎに放免された。」「Bが出張者たちをホテルに送ったが、某やその上司の課長は「バレたら某の会社で出世の道が断たれるから秘密にしておいてほしいと言われた。(終身雇用前提の一部上場企業ですし)」(そんな小心者なら、喧嘩買うなよ)

 

事実を箇条書きにし、それを元に副総経理と人事部長と対策を打ち合わせると、副総経理がむっとしながら、「自分が(公安に)行ってくるよ、総経理は出張者に言ってくれ(叱れということ)」と言ってくれ、党人脈を生かして公安筋は収めてくれ、同時に訴えたカップルにこれ以上の請求をしないよう「関係筋」に伝えさせたようです。私は出張者に何と言おうか考えを整理していたところ、Bから事が露見したことを聞いたのでしょう。出張者ご一行様の方からぞろぞろと部屋に謝罪に見えられたのですが、比較的主要な「南方都市報」という新聞とそのネット版の「事件記事」に彼の名と社名が出ており、しかも小見出し「日本人が中国人妊婦を蹴った」の実物を見せ、内容を通訳してみせ、その新聞が華南エリアで80万部以上が発行されているものであることを告げると、当事者の某は、これこそがあの漫画で擬態語としてつかわれている『ワナワナ』か、という感じのおびえようで、「違う!総経理違うんです!」と叫びだすのですが、海外、それも反日テレビを毎日やっている国にきて、酔っぱらって喧嘩に巻き込まれたらこんなことになる可能性があることは明らかです。その某さんに、「公安との話し合いは当社で行いますが、出た報道はもうどうしようもありません。しばらくホテルのレストランで食事することを強くお勧めします。」と伝えて業務に戻っていただきました。

あとから頻繁に業務指導に来てくれていたクライアントのメンバーとBに聞いたところでは、蹴ってはいないらしいが、もみ合いになり相手のパートナーらしき女性が巻き込まれてもんどりうったのは事実であり、その女性が妊婦かどうかはその時にはわからない程度のおなかだったらしい。また、某氏は酒癖が悪く、日本でも要注意だったらしい。

 

彼はその後中国に出張し追加のマシンを設置するメンバーからは外されていたし、ビザを申請しても拒否されたかもしれません。立場上、新聞記事と翻訳をつけて日本の親会社には報告しました。この事件、実は9月の20日のことでして(国慶節前)、この時期は1931年9月18日の柳城溝事件が日本の中国侵略が本格化する大きな出来事であったことからテレビでは8月15日(戦勝記念日)と並ぶ「抗日戦争ドラマ」が集中放映される時期でもあり、そこで酔っぱらって日本語で庶民の店で高歌放唱すればどのような偶発的事態を招きかねないか、ということは中国に詳しいBは、特に初めての出張者が多いグループだっただけに思いを巡らすべきでした。

そして、あの晩、公安が訪問してきたときに、私が公安に行って謝罪し金銭的な賠償をしていれば、この事件は報道されずに済んだ事件でもありました。守衛を起点とした社内の初動も誤ったし、私とは携帯電話で意思疎通できたはずのBが私や副総経理を呼ぶこともできたはずなのに、自分の力で丸く収めようとして事態を悪化させた(それは彼が自分も出張できなくなることが怖かったということもある)ということもあり、課題の残る事件でした。

再度申し上げると酒癖の悪いものを海外、特に中国には出張に行かせないでください。行かせるならば、街中のお店には出さないでください。日本でよくある酔っぱらって行動がおかしくなる、というような酔い方は中国人はめったにしませんし、中国でもそれは大変恥ずかしいこととされています。そして、今回のように現地法人はえらい目にあいますし、場合によっては拘束され外交問題に発展しかねません。

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