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目標管理制度の功罪と運用注意点

9月も中盤になり、多くの会社で評価の節目を迎えようとしています。私もいろいろな会社で人事を評価する側にもされる側にもなりました。各社各様な人事制度でした。

20世紀には、その名もずばり「年功給」なるものがあり、1年ごとに14年目まで年3000円ずつ給与がアップする、という制度がある会社に勤めたこともありました。そのころは生産部門にいたのですが、少なくとも技術職についてはこの制度を見直す必要があることは管理部門の人とも話していて、他社の制度の勉強もしていたのですが、私自身がためらっていた部分もありました。それは、「評価する人」の評価能力、もっと言えば、評価の尺度を経営方針に基づいて決めるだけのスキルがないまま、成果主義的制度を導入すると、せっかくの制度が失敗に終わってしまうことを恐れたからです。

 

世の中、この20年ほどで、大きく「成果報酬」へとシフトを切りました。今では、表面上はこれを導入していない会社を探す方が難しいくらいです。もっとも営業の世界というのは実はかなり昔から「成果主義」でした。古くは野村證券、近いところでは、リクルートや光通信が有名ですが、「実力主義」がかなり厳正に実施され、売りさえすれば、車が買えるほどのボーナスがもらえる、ということをアピールしていました。しかし、生産部門、技術部門、管理部門や営業をサポートする部門では直接「利益」「売上」で評価することが難しいため、この20年ほどで「目標管理制度」の導入が進みました。

この目標管理制度(MBO Management by Objectivesの略)は1954年、現代経営学の大家であるP.F.ドラッガーが著書の中で提唱したものです。ドラッガーはユダヤ人家庭に生まれ、迫害を逃れてアメリカに渡った自らの出自が思想に影響しているのか、「全体主義」に対する強い警戒が底流にあり、「個人の理性の尊重」とでもいうべきものが彼の経営理論には根付いています。数年前にもマネジメント小説「もしドラ」がヒットし映画化されました(主演がAKB48の前田敦子でしたね)が、それ以前から彼の組織運営や人的資源マネジメントの考え方は日本でも大変人気があります。

ドラッガー先生がこの目標管理制度で目指すところは、次のようなものでした。

経営者は経営の目標を上手に各部門に割り振り、具体的到達点と時間軸を与え、その中で達成する方法を創意工夫しフィードバックすることを要求する。

・各部門は、各部門の目標を個人の特性や個人の目標を考慮しながら割り振り、個人は経営目標と、それゆえの部門の目標の設定の理由を理解したうえで、創意工夫を行う。

。このようなコミュニケーションの結果、組織はモチベートされた個人によって推進されていく。

このようなことが実現するとしたら、それはとても素晴らしいことです。目標管理制度を導入する際、よく「評価者研修」が行われますが、その中でもこの話が最初にされ、目標管理制度とは、「ノルマ」ではない。どのように経営課題を達成するかの双方向のコミュニケーションであり、モチベートの手法として位置付けることが重要である、という話をします。

 

ところが、いくつかの導入済みの会社を見てみると、この理念とは程遠い状況で、形骸化し、元の情状的、あるいは適当な評価に後付けしているだけになっているようなケースも多いように見受けます。どうも見ていると、いくつかの失敗パターンがあるように見えます。

代表的なものを上げると…

1 組織や会社の問題

・目標を設定しても評価対象期間中に経営方針が変わるので、評価が意味をなさない。(3か月でも):変化が素早いのはいいのかもしれませんが、それならば、評価の仕方が違っていますね。

・目標設定があいまいで計測不可能:これは評価者の能力の問題で、自分の経営課題を達成するプロセスを自分で明確に分解できていない、という問題と、目標管理制度が機能するためには目標が計測可能な形でなければならない、ということを知っていても形にできない、ということです。これは、その人のクリティカルシンキングの能力に依存する部分であり、研修の上でもおそらく改善することは難しいかもしれません。

・特に営業部門では、結局、売上、粗利、台数の「ノルマ」と同じ役割しか果たさない。:数値目標は大事です。しかし、どのようなプロセスでそこに至るのか?それを突き放し、結果だけを求める短絡的な評価者がこれをおこなってしまうのです。第三者が検証できることは必要ですが、目標は、「定量的」なものだけでなく、「定性的」なものを組み合わせることもできます。また、「結果」だけでなく、「プロセス」を組み合わせることもできます。それをうまく組み合わせることで「モチベート」という目的を果たすとともに、責任者が思い描く、実現プロセスを共有し誘導するわけですが、そこまでの組織運営スキルが管理者にないとこうなります。

・やってみると、全然ダメな人と全部達成する人がいて、これに手心を加えようとする。:実は、同じ担当の人に同じ課題を設定しても、大きな差がつきます。そうすると、ある人は大きく昇給し、ある人は下がります。日本の管理者はそれを防ごうとする傾向が強くあります。同様な事例としては目標管理制度と、能力評価や360度評価を平行運用して両社のマトリックスで評価しようという会社もありますが、これも、他方が目標管理制度が引き起こす激変を緩和する方向に使われる傾向があります。

組織で評価に差がつくのは仕方のないことです。また別の機会に改めますが、それは人事制度が「新陳代謝」の機能を有するために必要なことです。好かれたい、嫌われたくない、という管理者の意識がそうさせるのでしょう。そもそもその点からして「管理者」というものの教育が必要なのでしょう。

 

2 評価される側の問題

・要領よく成果物らしきものだけ期日前に急ぎそろえる:評価期間末になると、評価指標を達成するためだけに必死になり、何とか形だけそろえるが、途中でのすり合わせや合意形成が不十分なため、それが実際に機能して組織の目標達成に寄与するかというと決してそうではない。結果、その人は組織で「要領だけいいやつ」扱いされ余計周囲の協力が得られなくなるのですが、こういうことをやる人はだいたいがそういう周囲との協力関係をあまり気にしないタイプです。私自身がこうした「要領のよい部下」に手を焼いた経験もあります。私はできるだけ、「その仕組みが稼働して商談に投入されること」をサポート人員の目標でも目標値にしていましたが、基本的には人間性の問題であるだけに難しい問題です。

・最初から無理と周囲も自分も思っている。:基本的には能力不足なのですが、大企業でしたら、そのような人を他のより強度の低い業務へ転属することで対処することができると思うのですが、中小企業ではそういうポジションが実際にはないし、代わりもなかなか補充できないので、結局放置され、評価を下げるにしても下限があって、結果、評価制度が機能を十分に果たさない、ということも見られます。

 

どんな評価制度がよいのか?あるいはどのように組み合わせるのか?はその会社の経営者の人材に対する考え方や制約条件を反映するもので一概には言えませんが、これからも目標管理制度は広く使われていくことでしょう。ただ、この制度は、「経営目標」を達成するプロセスが社長とその下の管理者の間で共有されていて、管理者がそれにコミットしていること。そして、それを自分の管掌する組織でどのように分担して実現するかの具体的イメージがあることが前提条件になっています。しかし、それだけの管理者をそろえるには、まず「管理者の登用条件」が、「売上実績」ではなく、「プロセスの具体化」と「プロセス遂行の管理能力」である必要があります。失敗している会社の多くは、その時点でまず間違っていることが多いように思います。

ただし、そのようにして、目標管理制度が機能するような組織が、経営目標を達成できる組織なのか?というと、実際には、最近話題のスルガ銀行のようなところが一時的には目標を達成し監督官庁からも高評価を得られ、高い賞与を得られていた、ということもあるように、「営業が強い」というのは、また少し異なる要素があることも認めざるを得ません。HRはHRだけでなく、経営全体の問題でもあります。

その辺はまた、機会を改めて書くこととしましょう。

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