ブログ

「ジタハラ」って言われても

今年も早くも流行語大賞の季節になりました。今年のノミネートを見直してみると経営管理に深く関わる言葉が二つありました。

・高プロ・・・高度プロフェッショナル制度のことです。来年4月から一部導入される専門的な職業では時間管理義務を外す(実際には適正管理義務がある)というものです。

・ジタハラ・・・時短ハラスメント 業務量は変わらないのに、一方的に残業減らせ、と言ってそのくせ「成果があがっていない」と言って非難し、評価をさげること。

ちなみに昨年は、「働き方改革」がビジネス関連で1個、一昨年はそれらしい言葉は選ばれていませんでした。今年の二つは昨年の「働き方改革」の延長上にあるものですが、こうして並べると、流行語大賞という本質に合致してとても今の時代を象徴する言葉です。

 

■どう変えればよいかを誰も教えてくれない

高プロ、最近は移民政策、などビジネス関連の政治の場での論争を見ると、経営者の方は違和感を感じませんか?政治は現実を後追いしているだけなのに、何を今更これから始まるかのような言い方をしているんだろう?と。国が主導しているわけではなく、競争社会の中で生まれた必要性を認めざるを得なくなっているものであると思うのです。ただ、ちょっと性質が違うのが、「働き方改革」。

 何となくみんな問題だとは思っていたけど、これは直接的に経営者が望んだことというわけではないし、労働者サイドもそういう要望が実は強くあったわけでもなさそう。すでにある現実ではなく、これから実現しなくてはならないことであり、誰もそれを何となくは理解しているが、どうやって実現するか知らない。結果起きているのが、「ジタハラ」です。

私も会社勤めの時、ある超ホワイト企業にいたことがあります。絶対に45時間以上の残業が出来ない(すると上司ともども罰せられる)し、夜9時になるとパソコンの電源が落ちるし、自宅からもリモートアクセスできない。それでいて、日本有数の実力主義企業。私は20代の頃から月間100時間残業が当たり前で誰よりも働くことで、成果とは言わんが少なくとも大量の制作アウトプットは行ってきたというタイプの古いタイプの人間でしたので、この事態に遭遇し思ったのです。「実力だけでなく、神に祝福された運がないと成果が上げられない」

それでも規則には従うしかないので、部下に時短の意義を指導し生産性アップのため「効率の悪い個所は捨てる勇気を持とう」というのですが、部下の方は小さい子供がいる人もいますので喜んで順応し、7時になると私しかいない会社になっていました。そして、帰って社員が家で勉強して斬新な仕組みを提案してくれたり、クリエイティブな策が次々と出て高収益に生まれ変わった、かというともちろんそんなことは全くありませんでした。相変わらずお客さんには儲けとは関係なく皆丁寧に対応してくれる信頼できる人達で当座は助かったのですが、要求の達成度は低くなり、達成度の要求水準も下げざるを得ない事態になりました。

それからいろいろなことがあり、現実はここで私は離脱しお話は終了してしまったのですが、このことの解決策は、「労働集約的な作業の対価をもらうという業務内容を変える」ということです。それはわかっていました。しかし、それができたか、というとできませんでした。もちろん私の能力の問題と言われたらそうですね、というしかないのですが価格を下げずに、時間を短縮するには、時間当たりの価値を上げる必要があり、それは「お客様自身や他社にできない価値を提供する」「その価値の幅を上げる」ということが必要になるわけですが、それは知識、技術のいることであり、小さな規模で月々の決算に追われる私や私の会社の社員ではできることではなかったのです。それは私だけがダメなのではなく、多くの中小企業で同じ状況でしょう。

 

■「時短ツール」のウソ

閑話休題。世間では、このご時世に様々な時短ツールが宣伝されています。そうしたものもいろいろ検討しましたが、いずれも導入できませんでした。中小企業の方には参考になることもあるかと思いますので、ここで簡単に紹介しておきます。

・ビデオ会議 :飛行機代も移動時間もいらなくなるのですから、これが使えれば効果絶大です。盛んに親会社の役員からやれと言われました。ただ、これは以前のクラウド契約の話と同じで中小企業にとっては、多くの場合、自分よりも大きい会社である相手が同意しないと進まないことです。そして、大抵無理です。理由はいろいろありますが、情報システム部のセキュリティルールで社外の一般サービスとの接続は認めない、という会社もありましたし、そもそもカメラを用意してPCの前に座るということに抵抗がある人もとても多かったです。(やってくれるならカメラはプレゼントするとも言ったし、相手方のカメラは不要とも言ったのですが)。営業的な部分では「遠くまで会いに何度も足を運ぶことが誠意」と見なされるビジネス風土(これが時短の曲者なのですが)も根強くあります。社内の会議には全然良いと思いますが、逆に親会社では社内会議では全国から子会社社長を集合させて「顔をみて意思統一と徹底を図る必要がある」と言っていました。(おいおい、こういうのを自己矛盾と言います。)

 

・RPA :今はやりの自動化プロセスですが、(1)自社内でこれをいじれる優れた技術者がいて逐次変更できるか (2)月に30人時以上かかるPC作業中心の業務があり、しかもその業務の内容はおそらく今後1年間は変更がない のどちらかが合致するならば効果があると思います。ただ、私の会社もそうでしたが、中小企業の実情は、

・そんなに大きな作業の塊があるわけではない。

・業務内容が営業や親会社、顧客の都合で頻繁に変わり、力関係上それを阻止できない(システム改変が発生し、都度費用と打ち合わせに時間を取られ、完成まで手作業が発生)

・その作業を減らしたからと言って、短期的にはその人に営業やシステム構築をさせられるわけでも、人員を削減できるわけでもないので、当面はシステム構築代だけ費用が増えるだけ

というケースが多くなかなか効果が発揮できないのだと思います。特に作りこんだものが自分たちで改変できないと、そこに永遠にお金が発生し続ける、という問題は従来のシステム構築以上に改変可能性が高い分厄介であり中小企業にとっては導入困難な状況だと思います。

 

多分、この辺に時短の正解はない、と私は思っています。中小企業にとっては、一番先にやるべきは、業務別で赤字や低採算になっている業務を価格交渉の上、やめてしまうことです。ただ、それを判別することもできないでいるのでまずそれを可視化するところから始める必要があるでしょう。そこらへんはお手伝いできると思います。そして、新しい商品群については、価格設定も売り方も今までとは変えてみる、ということにチャレンジすることが次にやることです。

 

■時短社会の行く先は

こうしてみていくと、これからの時短社会は少なくとも経営者には優しい社会ではないと思います。社員も残業代は減り、特技がある人は副業収入にそれが変わる、ということなのですが、それが出来る人は当面はほんの一部にとどまるでしょう。そして、これが行きつく先は、時間でカバーすることのできない、技術や知識を競う「弱肉強食の企業競争」です。単純にいえばすでにこれらを持っている大企業の方が有利ですし、中小企業は限られた人員と情報の中で大企業のやらない・やれない技術、知恵の開発を進めなくてはならない。あるいは、流通を省いて、自社の付加価値を増やしていかなければならない、ということであり中小企業には厳しい時代でしょう。

どうすれば、それが実現できるのか?に決まった答えはありません。その答えがないままに、上から言われた時短指示を下にしているだけ、それがジタハラです。

しかし、それは人口減少局面でも経済の国際競争力を維持したいと考える国家からすると、最優先事項であるとも言えます。安部首相はかなり前から働き方改革を自分の政策の中心ということを言っていました。たぶん、それはこういうことなのでしょう。

中小企業にとって「働き方改革」は単に残業規制というだけでなく、「時間当たりの付加価値で大企業に負けない、大企業に使い倒されない」事業を柱にしなければならない、ということです。

関連記事

  1. うまい話に騙されないには…
  2. 2019年は何が起きていたのか?①
  3. 「倒産情報」の楽しみ方
  4. ジョブ型雇用を準備する③部門と職務を定義する
  5. 「面白くない」経営の追求
  6. 「何がお金を生んでいるのか?」オペレーショナルエクセレンス①
  7. 「自分で頑張る」が生産性向上の阻害要因である
  8. 中小企業専門コンサルの難しさ
PAGE TOP