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短期融資の併用を

ここ一年ほどで、かなり大きな長期借入があるが、短期借入はない、という事例にいくつも出会いました。一部の会社はそれでも預金額が借入額をはるかに上回っている「金融機関とのお付き合い」であることが自明でした。この「お付き合い」というのもバカげているようで日本では決して無視できないのが実情でしてそれをわかってやられているならば全然OKです。

しかし、それとは別に、資金需要がある、手元資金不安がある、という会社でもそのような「長期のみ」の状態の会社がありました。「資金変動予測を作成して、必要分を必要時期だけ借りる方が、審査も緩いし、支払利息も抑えられますよね?」というと、「それもそうだが昔からなぜかやったことがない」、というのが多くの回答でした。

「短期はやったことがない」の正体

この「短期はやったことがない」の正体の一つは銀行の都合に乗せられているケースです。この場合、大抵その会社か会社のオーナーは土地、建物を十分な規模で有していてそれが担保になっています。つまり、銀行は損する恐れがない状態で、自分の利益を最大化するために金利を下げつつ、そこそこ大きな金額を長期間貸す、という行動をとっているのです。もちろん、それにより会社も手元資金が増えて安心さは確保できるので一方的であくどいとも言えませんが、会社がそのような状況認識を持っていないまま話に乗っているケースは多いようです。後述しますが、「融資額は急には大きくならない」という日本の銀行(特に地銀、信金)の特性からすると実績を作るという意味が良く分からない行為も多少はやむを得ない部分はあるのですが、もちろん会社にとってコスト安とはいえません。

もう一つは、金融機関に対して、資金の需要変動の見込みを納得いくように説明できない、というケースです。仕入と売上の季節変動のギャップですとか、賞与や納税(特に業績が思いのほかよい会社の法人税)のための一時的な資金需要増などをきちんと表にして、「いつからいつまでどのくらいの資金が必要だが、それはこの時期に返済可能」と計画をたてて金融機関に相談する、ということができていない、あるいはそれを考えるのが面倒なため、安全のために長期資金を借りているというケースです。

このケースは私は深刻にとらえるべきだと思っています。自分たちの資金見通しの見通しを持てないままに「どんぶり勘定」を続けていることは、「行き当たりばったり」のリスクを抱えると同時に、営業以外の部分で追加的なコストを利払いという形で抱えることになり会社の体力を少しずつ奪っていきます。まとめ方がわからないというケースは我々が入って仕組みを整えれば1か月いただければ、社員でできるようになれます。しかし、より抜本的な問題として、そもそも営業が確率の低い大型の案件を追っているために数か月先の入金の見通しが本当に立たないというケースも決して少なくありません。もちろん、このような事業構造を放置してよいわけはなく、それ自体を改善しなければならないわけですが、こちらは改善するのに1年単位で時間がかかることです。こういうケースは業績が伸び悩むと徐々に徐々に貸出残高と月々の返済額が増えていき、首が絞められていくというシナリオがちらつきます。

三つ目としては、特に年次の若い会社に多いのですが、資本調達に踏み切る覚悟や準備ができずに代わりに根雪的な資金需要に長期融資を用いているというケースもあります。ただし、このようなケースで企業の成長よりも投資が先行しているようなケースでは、銀行も企業の与信力、もっと具体的にいうと、純資産規模と営業キャッシュフローのプラス幅によって最大貸出額は制約されており、それは土地建物を持たない中小企業ではあまり大きな額にはなりません。一般には融資の方が資金調達よりもコストが安いケースが多いので、これで賄える範囲ではこれでもよいのですが、早晩限界がきてそれが成長を制約することになります。また、売上が順調に伸びている時にはこれでも賄いやすいのですが、それが停滞、あるいは一時的にでも下降してしまう場面では、返済資金が平時には思わぬ程の重荷になります。

その場合でも、さまざまな資本調達の方法があり、種類株の活用など経営権を守るような方法もあります。しかし、そのような方法論の実施には専門的知識や経験が必要であり、かつ中小企業が普段付き合っている銀行が商売敵として決して説明しないものです。また、税理士もこうした事項を誰からどのように調達するかの助言を行うだけの経験・スキルがないことが大半です。そのため、中小企業は具体的に資本策を検討することができないままに融資頼りで、枠の限界が見えてきて不満に思っている、というケースもありました。

このような場合でも、資金需要のピークに合わせて短期融資を併用すれば枠に余裕を持つこともできますし、何よりも資金見通しをきちんと立てて融資を相談し、それが返済まで実行された実績を積み重ねることで徐々に利用できる金額は広がっていくのです。

どうすれば短期融資を併用できるようになるのか?

大半のケースでは、企業側の立場に立てば短期融資と長期融資、それに資本策の3つを組み合わせることが必要であり、日常においても、短期の需要変動には短期融資で、長期の資金需要は長期融資と資本政策で対応する仕組みがコストと安全性の両面を考えれば有利です。そのことはご説明すれば、経営者の方にはご納得いただけるはずで、その立案スキルが社内にないために「営業された方法でやっていた」のが実情でしょう。

では、どうすれば短期融資を併用できるようになるのでしょう?

一つは短期融資を併用する場合には、資金需要をきちんと管理できるようになるという体制整備を行うことです。このことは、具体的には主要な出入金口座の日次の出金、入金、残高の予測を行えるようにするということです。実はこれは仕組みを知ってしまえばそんなに難しいことではありません。未確定部分は、当月額と同じ額、同じ日を基準に多少味付けすればよく、それを頻繁に最新の情報にアップデートすればよいだけです。このこと自体は、1,2週間で仕組みを作り、1カ月で運用を自社に移管させることが当社では可能です。多分、月次で作るよりも日次で作る方が表が大きくなるだけで実際に作成運用するのは簡単です。その辺も実務がわかっていない決裁者、あるいは銀行は月次を要求するので現場は困ってしまうのです。ただし、上にも述べたように、「入金の見通し」が合理的に作成できる必要がありますが。

それとは別に、銀行との相互理解のある関係を構築するということも必要です。特に「急に必要額を全額貸してくれるわけではない(返せると審査を説得できる額しか貸せない)」という銀行側のマインドも把握しておく必要があります。それが合理的かというと全くそういうわけではないのですが、最初は銀行は短期であっても担保がない限りは小さい額しか貸してくれません。それを繰り返すことで徐々に信頼を得て「必要な額を比較的柔軟に」借りることができるようになっていくので、大きな額が必要になった時に慌ててもその時にはもう遅い(別の算段を組み合わせるしかない)のです。

そのためには月次試算表と資金見通しを適宜共有しておくような銀行との関係構築も必要になりますし、銀行からの質問に迅速的確に回答できるような社内体制整備も必要です。決して不正などなくても、どんな会社にも過去のよくわからんBS上の残高があれやこれや残ってしまっているものです。それも飲み込んで説明できるようにするにはそれなりに対人スキルが必要です。「過去の不明点は多少はあるが、それが融資上なんか問題か?実質純資産見ているなら大したもんだいじゃなかろう」っということを丁寧にニコニコと説明しきる必要があるのです。

これを記帳代行する税理士事務所がやってくれると思っている社長さんもいますが税理士事務所は必要な帳票をくれるだけで説明はしてくれません。とはいっても、これのすべてを社長さんにやってくださいというとそれは無理なわけですし、会社の出納担当にお願いして最初は要領を得ないわけです。そこの体制や関係づくりからお手伝いするのが私たちがやっている作業でもあります。

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