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危機的資金状況への対処例~チェンジマネジメント④~

今年は、これまで弊社が提供しているチェンジマネジメント支援の概略をご紹介しております。前回はこちら

ところで、時々資金ショート目前になって、「彼に聞いてみるとよい」と言っていただいてご紹介いただき、経営者の方とご面会することが時々あります。それでも経営者の方は、「この人は自分を救ってくれるんだろうか?」という期待を目の奥に宿しつつ、基本的には強気で大丈夫だが一時的な現象であるかのように私には装います。

このような場合、多くの場合、1,2か月のスパンでの資金繰りを管理できておらず、月の半ばになって、この前大丈夫と言っていたのに、やっぱり支払資金が足りない、と実務と兼任の担当者に言われるというような状況が発生しています。操業以来なんとかなっていたために、こうした資金見通しの管理の精度が低い状態が放置されており、経営者も手法を知らないのでそのままにしていたのがあだとなっているのです。

申し訳ないのですが、弊社顧問で銀行出身で様々な伝手をお持ちの方もいて、その方にご協力をいただくこともありますが、基本的には弊社がやっているのは、「返済可能な状況を作り出して、それをデータ上で示して、かつ実行を私が管理するとお約束することで、可能な範囲の融資を社内で通しやすくする」という当たり前のことだけです。大銀行と地銀、信金ではやや姿勢に差があるとかはありますが基本的には、コネで何とかなる、という時代はとうの昔に終わっています。そして多くの場合、融資はそんなに短期、かつ容易には受けられません。経営者が個人貸付をさらに増やして対処するにしても限界があります。

この資金不足が一時的であればまだやりようはあるのですが、それを経営者の方に「次の4半期単位ではキャッシュフローはプラス見込みですか?」とやさしく伺うと、大抵「実は足元の収支自体が前からそんなに良くない」ということを白状されます。それでは借入は返せないわけでそれを知って弊社もお手伝いしては弊社も詐欺の片棒を担ぐことになってしまいます。時々、このブログでも書いておりますが、当たり前のことですが、「返せないお金は借りられません」

このような窮地に陥ったとき、中小企業の経営者の多くは、「業務のプロ」であって、「経営管理の専門家」ではありませんので、初めての時には対処を知りません。しかし、毎月少なからぬ費用を払ってリスク管理まで期待していたはずの「税理士」「社労士」は、こういうときに全くと言ってよいほど役に立ちません。彼らは「適正に処理する」ことを助言してくれるのが役割であり、収益を改善する責任、企業を持続させる責任はないのです。銀行はもっと味方ではありません。ただし、銀行が示唆する「リストラ」には一部の理があります。それがその会社の将来にとって適切かどうかは銀行はあまり考えてくれません(銀行は自分たちの貸付の返済確保が最優先です)が、それでも、「返済原資を作れる状況に具体的に対処する」ということは正しいからです。

このような状況になってしまうと、緊急でかつ非常の対処が必要になります。今回と次回は簡単にそれをご紹介します。念のため、繰り返し申し上げますが、こんな非常の手段をとらなければならなくなる前に対処を始めれば、もっと普通に体質改善が可能です。これは、最悪の場合に「全滅を回避する」ための方法論でしかありません。

①まず、3か月、その次に6か月先までの入金の金額と期日を日次単位で正確に把握する

「大丈夫と言っていたのに…」と言っている経営者はこれが出来ていると思ったけど出来ていない、ということをまず自覚していただく必要があります。曖昧な資金繰り表では役に立ちません。

すでに請求書を発行したもの、契約済みだが未完了のものをベースとし、その他の営業中案件は、過去の実績を元に抑制的に判断するのですが、この過程で、「請求書自体が一元的に管理されていない」「契約書、注文書をもらっていない・管理していない」などの問題があるのが、だいたいの出来ていない理由です。ここは、つべこべ言わさず、即座に全面的に一元管理し変更する対応を社長にとっていただく必要があります。
また、営業担当から提出してもらったものが本当に正しいのかどうか?というと大抵の会社には一人ぐらい、自分ができていないことを取り繕って過大に報告している人がいるのです。そういう人は直前になって、平静を装い、こう言います。「先方の社内の事情で流れました!」こういう当事者意識の低い人が会社をつぶします。そこを今までとは異なる精度で詰めていく必要があります。

また、これらの集計管理をやれていないという問題は、パソコンの苦手な営業(主に50歳以上)が入力をしないこと、パソコンの苦手な経理~これが往々にして専務でかつ社長の奥様というケースがあるのですが~そこがやりきらない、適当な考えということが原因です。営業側はフローの改善はすることはできると思いますが、やらせるし、やれない人はこの危機においては今後の柱にはならない削減対象と考えて「(利益もある)業務ごとできる人に移管する」ことが適当です。

「専務=奥様の資金繰り、さらに言えば帳簿がいい加減」という事例は特に零細企業ではとても多い問題で、これが金融的対処を難しくしている最大のネックということはよくあります。意図しているのかしていないのか、とりつく取っている(=粉飾)というケースもありますが、大半はわかっていない人が適当やっていて、それを税理士も放置しているというケースが多いのです。さらに言えば、最近「中小企業の事業承継」が社会問題化していますが、後継者以外のマーケティング、技術、会計がきちんとしていれば後継者の問題なんて実はありません。これらがどれも怪しいから問題なのです。(これはまた別の機会に)ここは、弊社含めて外注などをもちいて情報管理をできる人を確保して対処し、お金に関する閲覧等の権限を移管していただく必要があります。財務がぐちゃぐちゃだとこうした場合にも、営業譲渡的手法しか使えなくなってしまいます。

②出金の実態を日繰りで把握する

入金の方が見えたら、次は出金の方です。これも、2か月、3か月後に税理士から資料が上がってこないとわからない、という状況では役に立ちません。全ての出金が月のいつにいくら発生するのかをリストアップします。最近では、クラウド型会計システムを利用すると、これらの情報は発生する都度データを吸い上げてくれますので、これを元に作成することが便利です。経費だけに目が行きがちですが、借入返済も忘れずに記載してください。

それが2,3か月分出来たら、余裕を見る形にすれば、次の月の何日にいくらの費用と返済が発生するか、そして、手元にいくら残るかは見えるはずです。それが一日単位でマイナスになる日がでないように対処することが次にやることです。

この①,②を特に緊急を要する場合には、3日程度で完了させるように進めます。

③まず、経費を止める

次にやることは経費を「止める」ことです。まだ、健全状態のときには、少しずつ検討して削る、という対処でよいわけですがこのような危機的状況になったときには、発生自体を速やかに止める必要があります。具体的には次のようなことです。

  • 社長含めた交際費・会議費の全面禁止(社長は自腹で)
  • 社長含めたタクシーの禁止
  • 行くことが売上の原価であることを除く営業目的の出張の停止
  • 複合機のカラー印刷の機能の停止
  • 新聞雑誌の解約(年間購読分含む)
  • 外部顧問、コンサル、外注、業務委託の解約。(顧客の売上に紐づかないもの)
  • 荷物のない社用車の運用停止(三大都市圏のみ)
  • 営業以外の社用携帯電話の運用停止し、基本料のみのプランにし解約へ
  • 賃料の再交渉、大幅に安い古い不便な事務所が見つけられれば移転。
  • 積立口座の解約
  • 役員保険の解約

他にもありますが、こうしたわが身に影響のある改革ができないならば、弊社は危機的状況からの支援はお受けできません。これからやらなくてはならない改革に比べればこんなことはほんの序の口です。

そして、社員の反発を恐れる必要もありません。古い社員ほど既得権益のはく奪に、「こんな会社やってられない」と言いますが、それは言い返しもせず、引き留めもせず冷たい目で見返しておいてください。その彼がいなくなれば収益は改善し正常状態に復帰できるかもしれないのですから。

上のものは削減額をきちんと積み上げられ、月〇〇万円削減可能です、と言えるはずです。

④赤字業務を値上げ通告し、止める

次に膨大な手作業が必要になる可能性がありますが、業務単体(顧客別ではダメです)で、売上から売上原価や直接販管費を引いた(人件費や共通費は引かない)「粗利」(便宜上これを粗利ということにします)がマイナスの業務を止めます。

これも、歴史があるとか、大ユーザーだとか言うことはやめて、業務ごとに赤字のものは、十分な売上高粗利益率(売上高販管費率+10%をめどに)が得られるまで値上げしてもらうよう要求し、それができなければ請けないということを明確にします。顧客はもちろん、社内の担当者も反発しますが、「危機」であるならば、これらをやめてプラスに転じさせることは仕方がありません。細かなことを言えば、在庫がある限りは在庫をお金に変えていくとか、原価は下げられる可能性があるとか、考えるべき点はあるのですが、それを普段からやっておかない、おけないからこういう状況になっているわけです。そして、今は、時間との闘いだということを社員に分からせる必要があります。

こうすれば、出血していた額を減らせるはずです。間違っても、共通費、販管費賦課後の額では判断しないでください。(過去にそういう役員が親会社から派遣されてきて、とても苦労したことがあります)

⑤残業代と正体不明な手当を減らす。

次にやることは、残業の禁止です。そのためにも赤字業務を減らしたわけです。口ではいろいろ言いますが、大抵無駄なことをしていますし、会議もタバコ休憩も無駄なものが沢山あります。一旦、全面禁止し、必要なものだけ午後3時までの役員許可制(本来これが正しい、というか経営者の命令以外の残業は発生しないはずであり、この制度運用に何ら問題はない)にして、同時に「お金に紐づかない作業はやらなくて良い」という価値観を徹底します。これで残業代の90%は削減できるはずです。

加えて、就業規則にも明記されていないような正体不明の手当てが支給されている事例が多くあります。これも全部廃止してしまいます。(就業規則に記載されているものは正規の手続きがないと危険です。)大抵、以前の名残が既得権化しているものです。

ただし、利益のある売上増と経費削減に成果を上げた人には手厚く払うつもりということは合わせて宣言しておく必要があります。

ここまで上げた③~⑤は、全て「これでいくらの削減が可能です。」と事前に計画が可能なものばかりです。危機的状況において必要なのは、こうした「具体的な見える成果」なのです。③~⑤で今後の収支が黒字化する見通しならば、当面の資金手当てだけで済みます。また、こうして徹底してモードを変えて、生産性を追求しルールを徹底していくと、大抵変化に対応できない古い人、弱い人が辞めていきます。辞めると多くの場合、採算は改善します。人手がたりないならば、利益率の高い業務を残し、低い方をやめて行けば、収支は改善していきます。そのためにも、妥協なくやり抜いていただきたいのです。厳しいこと、非道なことをやっているようですが、実はこれらは、「これからもこの会社で頑張りたいと思っている社員の雇用だけはなんとか守る」ために必要なことなのです。

⑥それでも黒字化しない時

これだけの対策を積み重ねても黒字化しない時、それは給与水準か人員数が売上に対して大きすぎるということです。ここで売り上げが即効性をもって増えればよいのですが、通常はそういうことはないわけです。銀行も弊社もその話は信用しません。売り上げを増やすということは通常は長期的な取り組みが必要なことです。

結果、収支がまだバランスしない場合は人員減が必要になる、ということになります。どのくらいの金額、何人ぐらい余剰なのかもわかるはずです。そして、業務別の収支、個人別の売上、粗利も集計できていれば、対象者は洗い出せるはずです。

経営者にとっては恥ずかしく残念なことですが、仕方のないことです。ここの実施については、様々な法的課題をクリアする必要があるため、個々での具体的記述は省略します。

とにかく時間がない状況になっているだけに、これらの方法に試行錯誤している余裕はありません。五里霧中という感じに襲われるかもしれませんが、この手順で見通しを立てて走り抜ける必要があります。しかし、こういう局面になると、銀行は、あなたの会社の再生余力よりも返済を優先しますし、従業員は経営のあら捜しをして何かしらの求償ができるようにしようとしますし…取引先からは距離を置かれます。こういうときほど経営者の孤独を感じる時はありません。そんな経験を持つからこそ、これだけ厳しい局面でも伴走してあげたいと思うのです。

こうしてあらゆる手段を用いて単体でキャッシュフローを黒字化できる方策が見つかっても、これだけでは手元資金が乏しい状況は変わりません。時間がたつとさらに厳しくなっていることすらあります。それをなんとかしないことには、次に進めないのです。そこはまた、今回述べた損益の改善手法とは異なる対処が必要になり、こちらはより専門的です。次回はその辺を少しご紹介したいと思います。

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