3月は、新型コロナウイルスの影響を受けた企業への支援策が次々と打ち出されました。現在行われている支援は、①東京都のリモートワーク関連の補助金(あっという間に受付終了になりました)のほか、②一時的な売上落ち込みに対する金融支援(政策系金融機関や中小企業信用保証協会)が中心になっています。今回は、後者の方を3件実施しましたので、(前者も1件実施しました)その実情とポイントを簡単にご紹介します。
なお、弊社はこれらの融資の「臨時での申し込みのお手伝い」は原則しません。それは、十分にその会社の経営理念やメンバーの実力、方針を理解していないと責任を持った説明が自分でできないからです。中長期で継続的にお付き合いして理解し、そのうえで必要性が十分あるものに必要なものを適用するのでなければ、「制度の濫用」になってしまいますし、ひいてはその会社の将来に禍根を残すことになると思っています。
この「緊急融資」は経済情勢が悪化した際にたびたび行われている中小企業支援策です。当たり前のことなのですが、きちんと認識しておかなければならないとても大事なことがあります。これらは生じた損失を補填してくれるものではありません。一時的に収支のバランスが崩れて資金が不足しがちになることに対して、資金を貸してもらい、それを数年がかりで返済することになります。ということは、この支援策を活用するということは、将来の月々の返済額が増えるということです。結果、借入する前よりも営業利益額は増やしていかなくてはなりません。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、上場を目指している会社は元々無理気味の急成長路線で資本調達を行っていることでしょうし、そうではない中小企業は決して高くはない利益率の中でそんなに余裕のない資金計画で進めているはずです。そこに新たに臨時で借入すると、そのギリギリの事業計画に返済をさらに上積みしなければならないのです。これが、拡大投資のための設備投資であるならば、その設備の稼働により新たな売り上げが生まれるというロジックもありうると思いますが、今回は、騒動後が騒動前よりも景気が改善し業績が向上しているか?というと少なくとも景気は回復にとても長い時間がかかるdしょう。とすると、これらの支援策は、「災害や疫病が一服する数か月後には、災害前よりも経営状態、キャッシュフローがさらに改善している」ことが前提とされている、ということなのです。
私はこのことは、人口減の中で中小企業経営者にとってとても酷なことだと思っています。もちろん、多少の災害やその他の経営上の事件は時々は会社を襲うものでありそれを経営のバッファーに組み込んで経営するべきです。しかし、予定外の借入をするということはよほど高い確率で強くなれない限り、将来の人員や継続的投資を減らして返済に回すことを選ぶということであり、会社の経営状態の悪化を招くことでもあるのです。その点、資本調達による会社の安定化とは全く異なる危険性を持つものです。
そこら辺をわかっていただいた上で、ポイントをご紹介したいと思います。
①インパクトを整理してみよう
今回の申請要件はかなり簡略化していて、どの支援策も前月の売上が前年同月比で5~20%減少していて、そのあとの2か月も同程度減少することが見込まれることを月次試算表のコピーを元に、webサイトからダウンロードした指定フォームで記入すればよいことになっています。つまり、前月の売上減を示せればあとはなんとかなると言えばなります。
しかし、それでは必要額がいくらであるのか?を根拠をもって説得することはできません。相手も審査のプロですので、適当な説明はすぐに見抜きます。インパクトを金額換算できる資料を自分で作ってみましょう。
今回は、最初に申請した政策金融機関に言われてこの資料を作成したあと、その他の各審査機関にもこのレポートを状況説明資料として持参したところ、全部「あると参考になるので欲しい」と受け取っていただけました。日本の行政の決済では、補足資料や意見書等の「別添」は結構重要です。
②社内経理は必須だと思う
①で述べたように信用保証協会の4号融資や地方自治体の支援策を受けるにあたっては、前年比の試算表を出す、ということが申請自体には必要ですが、これは「応募資格の審査」であり、「融資の審査」ではありません。窓口でもそれをわかっていない方が多くおられました。
実際の融資にあたっては、既存の借入や返済状況であるとか、現預金状況など様々な資料の提出が次々に求められます。そして、「別枠」とは言っても結局それはこれまでの保証額の上限の話であり、自社の「与信枠」の別枠ではありません。結局、こんなに危機であっても、無条件で必要な額を借りることができるわけではなく、多少は支援的な評価とは言っても、「返せるであろう範囲」でしか借りられないのですが、そこも勘違いされている方がいるようです。
そのため、これらの資料をさっと出力し、必要な加工や補足コメントを入れて提出するということが財務担当には求められるわけです。これが2,3人の会社ならまだしも、10人を超えてくるような規模でデータ件数が多くなってくると社外でたとえば税理士に丸投げしていていつも待ちが発生するという状況では、今回のような緊急事態に待ち行列が延々できている(③でご説明します)状況では、いつまでたっても自分の審査が完了しません。
この「機動的な対応」ができることは危機対応では非常に重要です。審査する側も無理に無理を重ねて審査作業を進めていますので、今回も夜8時過ぎでも普通に金融機関から携帯電話にお電話がかかってきます。そこで即座に、「20分ぐらいで送るので、審査の終了のめど教えてください」と言うや否や作業に着手して送付する、というような「自分の順番をねじ込む」力が必要です。
③朝一番に行きましょう
今回、行政(正確には商工会議所)の受付開始は10時半だったのですが、9時過ぎに並びましたが、その時点で受付順が18番でした。待合室は既にオープンしていて、ファミレスの様に順番受付簿に名前を書いて、順番が近づいたらお電話で呼び出してもらう方式を採用されていました。電話がかかってきたのは、13時過ぎでした。結局全部の手続きが終わったのは、16時過ぎで一日がかりでした。(理由は後述)でも、これ、冗談ではなく、感染の恐れがあります。
午後から来られた方は、「今日はもう間に合わないので翌日朝順番取りに来てください」、と言われていました。私自身も最新の注意を払って土日に書類を作成したつもりでしたが、それでも記入指示の誤解があったり、数字の転記ミスがあったりして、そのたびに訂正印が必要になり、近くの事業所へ訂正印をもらいに途中退出しました。(本当は法人実印を持っていけると楽なのですが、それは社長以外がその場で捺印できてしまうということであり運用ルールとして適切とも言えないでしょう)
待ち時間の間に他の方の様子を見ていると、私が特別無能というわけでなく、申請される方の多くが書類不備や誤りで追加対応に追われています。これでは審査官の方も、内容の審査以前に書類の形式審査に手間と時間がかかってしまって大変だと思いました。
というわけで思うようには終わりません。今回は相談や申請が殺到していますし、多くの方は書類作成や財務に不慣れな方ばかりでなかなか進みません。9時には並ぶようにしましょう。
④併用できる、できないを事前に確認するか、複数準備する
自治体が利子補給をしてくれて、実質金利が0.2%程度になるという緊急支援策が各自治体で行われています。上限はだいたい1000万円のところが多いようです。そのため、これを何とかまず審査通過し、足りない分を信用保証協会の4号、5号などの保証融資で確保する、というのが基本方針になります。
ところが私が相談した自治体では、この0.2%案件は2つありまして、片方は信用保証協会とは併用できないものなのですが、恥ずかしながら、それがわかっていませんでしたし、実は2つは別々の制度と言うこともよくわかっていませんでした。その前の政策金融機関の案件を進めていたため、この自治体への相談は休み前の夜から準備していたため電話で聞くこともできず、結局全ての当てはまりそうな申請書類を全部用意して、その場で聞くという荒業に出ました。
それもバカげた話ですので、窓口の方は皆親切に教えてくれますので、事前に電話でこのような制度の使い分け、併用を確認してから準備しましょう。私は銀行の方に簡単に事前に説明を聞いたのですが、『「〇〇区+緊急融資」や「〇〇区+4号」で検索してください。』と言われただけです。銀行の方が代行してくれるような状況では目下は全くありませんで、自分の力で何とかしなければならない混乱状況です。
⑤間髪おかずに金融機関の審査申込に
こういう全球凍結的な事態は過去にも不良債権問題が表面化した時期やリーマンショック後にもありました。その時、生き残った会社は手持ちの現金を確保し、出し渋りをきちんとやり切った会社でした。
事態は流動的ですし、期限や枠があるものもあります。トイレットペーパーと同じような話で大変恐縮ですが、まず当座の資金を出来るだけ早く確保しましょう。具体的には行政機関の審査が下りたらその足で金融機関に持ち込みましょう。そして、その日が無理なら、一両日中には融資申込書を提出しましょう。その「一日」を大事にするかどうかが会社の運命を分けるのです。
そして、運よく融資が得られたら、そのお金はとにかくケチケチ使いましょう。これから1年、いやおそらく2年はそういう氷河期です。本件、ご関心ありましたら、詳細の情報提供いたしますので、以下までご連絡ください。